第52話 ギルドの名前

「ギルドの名前を考えようと思います」


 机を4人で囲み剣也の家では会議が行われた。

ギルドの名前会議、正直何でもいいかなと剣也は思っている。


「御剣一家はどうですか! 先輩!」


 悲しいかな、僕と同じ発想の少女がいい案でしょと笑顔で手を上げる。


「さすがに安易すぎないか?」


「そもそもこのギルドって何を目指すの?」


 確かに、僕がこのギルドを作る目的は何なんだろう。

お金はもう必要ない、貧乏暮らしも妹の大学費用も問題ないし。

あと母さんの治療費は、稼げているが治療の腕輪が欲しいのは目的の一つだ。

Aランク装備とだけは知っている伝説級の装備。


 母のお見舞いは定期的に行ってるがいつ容体が急変してもおかしくない。

あとは…。


「あの塔の頂上って何があるんだろうな…」


「頂上?」


「うん、僕が探索者になったのはお金のためでもあるんだけど、あのワクワクする世界がそもそも好きだからなんだ。死にかけといてあれだけど」


 僕は、あの塔が好きだ。

毎日を忙殺されていた頃でもあの塔で頑張っている時だけは無我夢中になれた。


 ゲームが好きな男ならわかってくれると思う。

頑張れば頑張るだけ自分の力となり、成長し、まだ見ぬ強敵とまだ見ぬ世界を見ることができる。


 ダンジョンの中は、迷宮のようだけど美しい光景が広がる階層もあると聞く。

まだ武骨な石に囲まれた低階層しか探索したことがない剣也にとっては噂だけだが、美しい花畑もあれば、白銀の世界、砂漠の世界、炎の世界もあの塔には広がっていると聞く。


「だから僕は塔を目指すのかな…」


「ふふ、男の子ですね。冒険が好きなんて」


 レイナが優しく笑ってくれる。


「私もあなたと一緒に冒険したいです。今はそれが理由ですね」


「じゃあ僕達の目標は、冒険かな」


「なんか二人だけの世界作ってる…」


 美鈴がジト目で僕を見る。


「美鈴も探索者として活動する? サポーターの職業は正直いてくれると助かるんだけど」


 忘れている人もいるだろうが、美鈴はサポーターという職業だ。

そのサポーターの職業の代名詞とも呼ばれるスキルがアイテムボックス。

長時間の探索のために食料や、ドロップアイテムを保持してくれるのはとてもありがたい。


「いいんですか!? じゃあ、その代わり装備は先輩買ってね♥」


「そりゃ、僕のギルドのメンバーなら面倒ぐらい見るさ。美鈴は戦えないからね。帝装備をあげよう」


「み、帝装備!? 億超えるって噂の!? ってかあのマンションのこともですけど先輩いくら稼ぐっていうんですか…」


(そういえば二人には、言ってなかったな。いい機会だから言っておこうか)


「僕の職業の錬金術師の力でね。月5000万は確約されてる。この2週間のバイトで10億稼げたからあのマンションも問題ない」


「「へぇ?」」


 二人が何を言ってるんだこいつという顔で見てくる。

そんな目で見ないでくれ、悲しいやつを見るような目で。


「信じられないと思うけど、本当なんだ」


 剣也は仕舞ってあった田中さんとの契約書を広げる。


ガタッ!


 それを見た美鈴と奈々がその場で立ち上がり剣也の手を握る。


「先輩、あ、愛人でいいんで養ってください」

「わ、私も! い、妹枠で! 妹キャラは必要だと思うの!」

 

「あほ、冗談言うな」


「あう!」「いた!」


 デコピンで美鈴と奈々を引きはがす。

その年で愛人とかいうんじゃない、それに奈々お前は枠というか本当に妹だ。


「うーいてて、お兄ちゃんいつの間にそんなお金持ちに…」


「先輩、お小遣いちょーだい。欲しい化粧品があるのー」


 美鈴が猫なで声で甘えてくる。

そもそもこいつバイトもしないで今までどうやって生活してたんだ?

少しだけ貯金があるとはいってたが。


「おーねーがーいー!!」


「揺するなー」


「わかった! おっぱい! おっぱい揉んでもいいから!」


「アホ!」


「あう!」


 美鈴が胸を押し付けながら体を売ろうとしてくる。

そういうことは、好きな人にだけしなさい。

まったく……一応聞いておくか。いくらで揉んでいいんですか?


ブンブンブン


 あぶない、危うく篭絡されるところだった。


「探索者として一緒に塔に潜ればちゃんと稼げるから、まぁ稼げるまでは貸してやるが」


「いてて、うー、もっと甘やかしてくれてもいいのに…」


 額をさすりながら甘やかせろとねだる美鈴は、つい甘やかしてしまいそうになるがそんなのはだめだ。

誰かに依存する先に、幸せはきっとないから。

自分の意思で、自分の力で稼ぐ、だからこそお金は尊く大切なものになる。

まぁそれまでは助けてあげるつもりだが。


「それで、ギルドの名前だけど…」


(いろいろ意見があったけど、シンプルにいこう…)


 錬金術師、探索、冒険、目的、家族…。


(うーん…)


「私も御剣一家が良いと思います…」

「でしょ! レイナさん!」


 まさかのレイナからの援護射撃。


「理由聞いても?」


「ここは温かいから。私の失ったものはここにある気がするからです」


 御剣一家。

その意味するところはつまるところ家族。

ここにいる4人は、助け合い支え合い励まし合う。

そんな家族のような関係を築けたらと剣也も考えている。


「……いいんじゃない? お兄ちゃん。安易だけどすごく温かい感じがする」


「そっか…わかった! ギルド御剣一家に決定しよっか」


「剣也君が決めたのなら異論ありません」

「賛成!」

「マフィアみたいでかっこいい!! ファミリーって感じ!」


 満場一致で決定した。

これでギルド【御剣一家】が誕生した。


 親に捨てられた美鈴。

親を失ったレイナ。

父を失い、母は闘病中の剣也と奈々。


 奇妙な関係だが、それでも家族のようになりたい。

そんな願いを込めて付けた名前。


 それがギルド【御剣一家】だ。

今はレイナ、美鈴、そして僕の3人の探索者しかいないが。


 すると奈々が決心したように口を開く。


「ねぇ、お兄ちゃん。私ね、お兄ちゃんのギルドのこと手伝いたい。ギルドの雑務とかこなせるようになりたい」


「奈々は手伝う必要はないぞ?」


「ううん、私がやりたいの。だからほら! 簿記の勉強とか、税金のこと、ギルドのこと勉強してるんだ!」


 奈々が立ち上がって参考書を見せる。

タイトルは【猿でも分かる! これであなたもギルド運営者!】


 奈々は職業を得ることができなかった。

それに探索者には怖くてなれないといっていたからギルドには誘わなかったが、まさかそんな思いがあったとは。


「そっか……大変だぞ? 兄はまったくわからんかったからな」


(確定申告だったり、税金だったり、正直なんもわからんかった)


「この家の家計簿だって私がつけてたんだし大丈夫! だからギルド【御剣一家】の経営とか任せてほしいの…私頑張るから! たくさん勉強するから! それぐらいしか手伝えないし…」


 なんてええ子なんや。

剣也は嬉し涙しそうになるが、ぐっとこらえて奈々に応える。


「わかった! じゃあお金のこととかギルドの経営とかは奈々にお願いしようかな! もちろん兄にできることは手伝うから!」


「ほんと!? やった! 就職先ゲット!」


 参考書を抱き締めながら奈々が飛び跳ねる。

ギルドといっても会社つまり法人なので、税金だったり確定申告だったり、正直難しいことが色々ある。

それを奈々が受け持ってくれるというならこんなに信頼できる存在はいない。


 ちょっとぐらいちょろまかしても兄は許すぞ、まぁ奈々がするわけないだろうけど。


「じゃあ決まりましたね。御剣一家のメンバーはこの4人です」


「頑張ろう、みんな! 目指せ最高到達階層更新! 最強ギルド【宵の明星】を超えろ!」


「「おお!!」」


 ここに勇者、錬金術師、サポーターと経営者(妹)という4人のギルド【御剣一家】が誕生した。

このギルドが、目指すのはあの塔の頂。

そこになにがあるのか、そもそもなにもないのか、存在すらしないのか。

そんなことは誰にもわからない。


 だから面白い、ワクワクする。

前人未到、世界初。なんて心が躍る言葉だろう。


「じゃあ、御剣一家の最初の仕事を発表します!」




あとがき

ちょっとタイトルだけ変えてみました。

どうしてもPVが伸びなくていろいろ試行錯誤中です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る