第45話 アルバイト? いいえ、監禁です。

「では、二週間後にご連絡させていただきますので! 何卒ご検討よろしくお願いいたします!」


 僕らを駅に送った根津さんは、僕らが見えなくなるまでずっとお辞儀したままだった。

前向きに検討するので、二週間後再度連絡させてくださいと根津さんには伝えた。

田中さんからもそう伝えられていたようで、すんなりと話が進んだ。


「お兄ちゃん、私達あんなとこに住めるの?」

「先輩! 私あそこに住めるなら一生先輩についてきますよ! だからあそこに住みましょう!」


「まぁ田中さんとの話次第だな」


 電車に揺られながら僕とレイナは田中さんのもとへ、みんなは我が家へと向かっていた。


(多分契約することになるんだろうな、田中さんの思惑通り)


 少しいいように読まれすぎてるとは思ったが、相手は日本を代表する会社を一代で作り上げた人だ。

剣也も特別な力を持っているとはいえ、読み合い、謀、計略そんな土俵で相手になるはずもない。


「レイナは気に入った?」


「はい、綺麗なところだと思いました」


「そう、よかった」


 レイナも気に入ってくれたようなら何も問題はないな。

あとは…。



「じゃあ、僕はこのまま田中さんのところに行ってくるから」


「はーい」「またね、お兄ちゃん」


 そして前と同じように、田中さんの会社ウェポンの本社へと僕は赴いた。

車椅子は相変わらずレイナが押してくれている。

そのまま前と同じように、田中さんの部屋に案内された。


「やぁ剣也君、レイナ君、よく来たね。部屋はどうだった?」


 田中さんは、僕が部屋に入るや否や立ち上がり、外に出る準備を始めた。


「すごい部屋でした、まるでシンデレラストーリーですね。10畳一間から億ションですよ」


「ははは、ガラスの靴ならぬ、王の小手だがね。外に車を待たせている。行こうか」


 そして車に乗る。

黒塗りの高級車、中は広くまるで今にでもシャンパンが出てきそうだ。

ラップとかのPVで女の子を侍らせてそうだ。


「それで、二人はうまくいってるかい?」


「うまくって…まぁ」


 僕とレイナは目を合わせる。

特に何も言葉出てこないが、レイナはこくりと頷いた。


 それを見た田中さんも笑顔で頷く。


「よかったよ、二週間後ケガが治ったらそろそろ上の階層を目指すのかい?」


「はい、レイナとなら30階いや、もっと上の層までなら目指せそうなので」


「それがいい、君の力もレイナ君の力もまだ発展途上。早く成長してより私をもっと稼がせてくれよ。いつか頂上の景色を見せてくれ」


 レイナに関しては、職業レベルがまだ1だ。

僕もまだ新しい力をよく理解していない。Aランク装備も錬金できるようになったのだがいまだ装備はBランク。


 いつ、エクストラボスのようなイレギュラーが発生するかわからないので、準備は怠ってはいけない。

いつ、ダンジョンの底知れない悪意に飲み込まれるとも知らない。



「よし、ついたよ」


 連れてこられたのは、港。

見渡す限りのコンテナや倉庫が立ち並ぶ。

東京湾の端っこ、つまりはダンジョンの目の前に僕達は連れてこられた。


「それで、田中さん。いいバイトって何ですか?」


 いいバイトって言い方は悪いバイトと同義ですらあるのだが、さすがに田中が剣也を騙しているとは思えない。


「まぁ、ついてきたまえ」


 そして一つの巨大倉庫の中に僕は案内される。

中には山のように積まれた段ボールが棚一杯に並んでいる。

一体どれほどあるんだ、奥まで見えないぞ。


「田中さんここは…」


 すると田中さんが段ボールを一つ取り出し、中を開く。

その中には…。


「この中にはね、傷ついたり、返品されたり中古になったりの兵士シリーズがたくさん置いてある、まぁ処分もできないからね装備品は」


(もしかしてこの段ボールすべてが兵士シリーズ!? 一体いくつあるっていうんだ)


 ダンジョンが現れて20年。

兵士シリーズほど出土した装備品はなく、数は飽和している。

大した力はない装備のため中古で買う人もあまりいないためだ。


「君の新しい力を使えば日の錬金回数は増やせるよね?」


(それは、多分できる。ステータス錬金ですべての能力を知力に回すということだ。そうすることで日の錬金回数が増えると思う)


「ならば、あとはもうわかるよね?」


「つまり…?」


「ここにある装備すべて上げよう。自由にしてくれていい。王シリーズは納品と同じ値段で買い取ろう」


 そして見渡すばかりの装備品の山。

段ボールの海、暗い倉庫、なぜか置かれている机と布団。


「二週間全力で錬金し続けるんだ剣也君! 君ならきっとあのマンション代ぐらいすぐ稼げるさ!」


「ここで寝泊まりしてやれってことですか!?」


「夢のマイホームのためさ、若いんだ。頑張ろうじゃないか!」


 そういって田中さんは、車椅子に座る僕の肩をにぎにぎしてくる。


「でも学校が…」


「なに二週間ぐらい休んだって問題ないだろう、大ケガしているんだ。それに私なんか中退だよ、大丈夫さ」


 何が大丈夫なのかよくわからないが、確かに車椅子のお怪我なのだから二週間ぐらい休んだっていいか。

というかそのための布団なのか、用意が良すぎる。


「レイナ君、少しの間彼をサポートしてくれるかな? なんなら寝泊まりしてもらってもいいよ? 同じ布団でね」


 ぐふふといやらしい笑い方をしながら田中さんはそうするといいと提案してくる。

敏腕社長がただのスケベ親父に見えてきた、なんだぐふふってイメージが壊れるぞ。


「はい、私は構いません」


「いやいや、さすがに同じ布団は嫌でしょ…」


(とはいえ僕一人では、あの棚から荷物を卸すこともできないしな…)


「嫌なのかい? レイナ君は綺麗だと思うんだが…」


「……すみません、私が至らないばかりに…」


 悲しそうにするレイナと田中さん。

なんであんたも悲しそうにするんだよ。

レイナも悪ノリはやめてくれ、ほんとに泣きそうだぞ?


「そ、そんなことはないよ! レイナとが嫌だと言ってるわけじゃないからね? レイナが嫌かと思って」


「まぁ、もう一つ布団は用意しているんだがね」


 田中はそういうと、まるで隠していたかのように布団を出し隣にひいた。

そしてこちらを振り向きサムズアップ。


(なんだそのどや顔と親指は、折っていいのか?)


「少しの間二人で楽しむといい剣也君。あ、でも楽しむと言っても激しい運動は控えてね? 傷は悪化させないように」


(最初からだせ、セクハラエロおやじ)


 この発言で剣也の中で田中さんは、仕事のできるエロい親父に変わってしまった。

年を取るにつれセクハラまがいのことを言ってしまうのは全国の親父共通なのかもしれない。

しかもなんだその布団、二つ合わせるとハート柄になるぞ。


「田中さん、からかわないでくださいよ」


「いやーすまないね、この年になると若い者同士をくっつけたくなるようでね。ははは! これはお見合いおばさんならぬ、お見合いおじさんかな」


 高笑いしながら田中さんは、では今日から頑張ってくれとだけ残してその場で鍵だけ渡して後にした。

二週間後の土曜にまた状況を見に来るらしい。


 そして帰り際に僕にだけこっそりと伝える。


「それと剣也君、もしレイナ君が過去を君に話すことができたらこれを…」


 田中は、剣也にスマホを渡す。

型は古い、10年以上前のものだろう。


「これは?」


「未来への手紙だよ。レイナ君は存在を知らない。元の契約者『Sugar』の代表がずっと隠していたものだ。タイミングが難しくてね、彼女が再度過去に向き合ったときに…できれば一緒に聞いてあげてほしい」


「?…わかりました…」


「頼んだよ、君にしかできないことだ。君ならばきっと」


 起動すると何かが録音されている画面が表示される。

レイナが自らの過去を話し向き合えたら一緒に聞くことにすると剣也は田中に約束した。


 その返答を聞いて田中は笑顔で託したよ。とだけ伝えてその場を後にする。


 残されたのは、明かりはついているが薄暗い倉庫と兵士シリーズの山。

そして机と、二つの布団と車椅子と僕とレイナ。


「はぁ…とりあえずはやるしかないか、ごめんね? レイナ。面倒だよね…」


「いえ、私は…うれしいです………あれ?」


「…え?」


 レイナが疑問形で首をかしげる。

この気持ちはなんだと首を傾げ疑問符を浮かべる。


 二人の間に静寂が流れる。

見つめ合う二人、静かで薄暗い倉庫、命すら預け合った男女。


 そして二人の目の前に敷かれた♥の布団。

何も起きないわけもなく、二人の鼓動が早くなる。

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