勇者編

第29話 蒼い瞳の転校生

 翌日学校へ向かう奈々を僕は全力で警護しながら登校した。


「ちょっとお兄ちゃん恥ずかしいんだけど…」


 悪漢はいないかと、あたりをきょろきょろし、敵意を振りまく挙動不審の兄。

それを見てうれしいながらも恥ずかしいと感じる妹は顔を赤くして下を向く。


「いつ、佐藤の一派が仕返しにくるかわからんからな」


 剣也は、まるでボディーガードのように奈々にくっつき敵を探す。

結局敵は現れず、学校へ。

すると、みたことか佐藤の取り巻き達が走ってくるではないか。


(きたか、奈々には指一本触れさせないぞ!)


 しかし剣也の警戒とは裏腹に、彼らは思いがけない行動をとる。


「す、すいませんでした!!!」


 目の前でこけたかと思ったら、全員でスライディング土下座をかましてきた。

練習したの? めちゃくちゃ揃ってるけど。


「さ、佐藤に命令されてただけなんです! ほんとすいませんでした!!」


 額が地面にめり込むかと思うほど彼らは全力で謝った。

中には、奈々に悪さしたやつもいる。


 佐藤がボコボコにされたので、次は自分達だと戦々恐々と震えて待っていたそうで、全力で謝ろうということになったらしい。


「お前ら、なにしたかわかってんだろうな」


「ほんとに申し訳ありません、奈々さんほんとすみませんでした!! 思いっきり踏んでもらっていいんで、どうぞ!!」


 奈々の前に頭を突き出す男達。

やめろ、奈々が変な性癖みたいだろ。


「こ、今回は許します! 二度と近づかないでください」


「奈々ねぇさん…」


 奈々はねぇさんじゃない。俺の妹だ。

姉御みたいな言い方をするな。


「いいのか? 奈々」


「うん…。それになんかこれ見ちゃうともう怒る気になれないし…」


 涙を流しながら何度も額を地面にこすりつけ土下座を繰り返す男達。


「はぁ…まぁ奈々がいいならいいよ。で? 佐藤は?」


「それが──」


 佐藤は今までの悪行から親に勘当されギルドが解散になった事実を剣也は知った。

高校もやめたらしい。

確かにもうここにいられないだろう。


「そっか…謝らせたかったけど」


「もういいってば、お兄ちゃん!」


「そ、そうか? ならいいか…」


 佐藤との関係がこんな感じに終わるなんて…。

でもいいか、最後に思いっきり殴れたし。


 そして剣也は教室に行く。

佐藤のいない教室は、とても静かで落ち着いた。


ガラガラガラ


「おーい、座れー!」


 いつものように先生が入ってきて、いつものように席に座らせる。

今日もいつものように授業が始まる。

違うのはもうゴミをあいつらから投げられないということぐらいか。


「今日はな! 転校生を紹介する! 有名人だぞ? 喜べ男子!」


 しかし、その転校生で剣也の生活は一変する。

その運命すらも…。


(この時期に転校生? 変なタイミングだな)


 そして先生に呼ばれた名前を聞いて僕は、耳を疑った。

そして、その少女をみて自分の目を疑った。


 その腰まで伸びた美しいブロンドの髪と日本人離れした長い手足。

それでもセーラー服を着こなして、青い瞳を輝かせる。

人形のように、美しく無表情なのにどこか日本人の面影を残すその少女の名は…。


「蒼井 レイナです、よろしくお願いします」


 僕が憧れた『勇者』だったから。


「うぉぉぉぉぉ!!!!」

「きゃあぁぁぁ!!!!」


 男子も女子も興奮で立ち上がる。

超がつくほどの有名人。

だって彼女は、日本人が大好きな職業を得た少女。


 加えてモデル活動で、街を見渡せばどこかに彼女が映っている。

あの美しいプロポーションと、顔面偏差値が振り切った顔。


 騎士の小手や、王の小手、様々な装備のCMではいつも彼女が使われる。

装備品のCMの6割ぐらいは彼女じゃないのか? そう思わせるほどの有名人。

しかし彼女の笑った顔を見た人は少ない。


 いつも無表情で、氷のようなその青い瞳は、見ているだけで吸い込まれそうな錯覚に陥る。


「あ! あと佐藤は学校やめたから」


 めちゃくちゃ適当に、佐藤のことが言及される。

先生も嫌いだったのか? みんなの反応を見る限り誰からも好かれていなさそうだ。


 そしていなくなった佐藤の席に座る少女。

教室はまだ興奮冷めやらぬ雰囲気で、ざわつく。


(佐藤のギルドがなくなったから?)


 もともと佐藤のギルドに所属していた彼女。

何か事情はあるのだろうかと、剣也はその少女を見つめる。


(後で、話しかけてみようかな…)


 しかしその日は、叶うことがなかった。

なぜなら学校中の人間が、彼女と話そうと近づいてきていたからだ。


(ま、まぁこれからいつでもチャンスはあるか…)


 教室を埋め尽くさんばかりの人ごみから抜け出して、剣也はその日は、そのまま下校した。

奈々も友達と帰るそうなので、護衛はいらないとのこと。

まぁもうあいつらが奈々を襲うこともないし大丈夫か。


「よし! 今日もいくか! あとちょっとで進化できるしな!」


 そして剣也はダンジョンへ向かった。

新しい装備を携えて、佐藤を凌駕したこの力をもって。


 

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