第20話 大企業ってすごいんだな

「これが田中さんの会社のあるビルか…」


 東京の一等地。

聞いたことのある企業の本社ばかりが立ち並ぶそのオフィス街。


 僕は天高く聳える塔ではなく、天高く聳えるビルを真下から見上げる。

ここからではてっぺんが見えないほどの高さ。

このビルの中に会社があるらしい。

名刺には30階~35階と書かれている。


「僕とは完全に住む世界が違うって感じだな」


 10畳一部屋に三人暮らし。

あたりを見渡すと底辺貧乏高校生の剣也とは、明らかに住む世界が違う大人たちが、スーツを着こなしそこらを忙しそうに歩き回る。


(制服でよかった、私服だったら間違いなく浮いてたな)


 私服なんて、久しくユニ〇ロ以外かったことないし、なんなら最近は、買ってすらいない。

そんなおしゃれに気を使うぐらいなら、僕は栄養に気を使う。

モヤシでは摂取できる栄養は限られている。というよりほとんどない。多分。


 そして僕はその巨大な扉を開く、自動だが。

禍々しい文様などなく、透明で奥が透けて見えるほど磨かれているガラスの自動ドア。


「あのー、株式会社ウェポンの田中さんと予定があるんですが…」


「失礼ですが、お名前頂戴してもよろしいでしょうか?」


「あ、すみません。御剣です」


「少々お待ちください…はい、ご予定されておりますね。ではこのカードキーをお持ちになって横のエレベータから30階までおあがりください」


「ありがとうございます!」


 入館証をもって、エレベータに入る。

あれ? このエレベータ我が家より広くない?


 車でも乗せるのかというほどの大きなエレベータで30階まで登っていく。

地上が小さい、気圧差で耳が少しキーンとなる。


 そしてついた30階。

目の前には、名刺と同じ斧と剣が掲げられたロゴが大きく書かれた受付に綺麗なお姉さんが座っている。


「ようこそいらっしゃいました、ウェポンへ」


「すみません、御剣剣也ですが、田中さんと約束してる…」


「はい、聞いております。ご案内しますのでこちらへどうぞ」


 高校生相手にもとても丁寧に作り笑いで接してくれるお姉さん。

そして案内された。

途中通った部屋には僕と同じ探索者のような見た目の人もいた。


 そして多分社長室?

一際豪華な部屋の前に連れていかれると、ドアが一人でに開く。

見た目普通のドアなのに、自動なのかすごいと思ったら、中から人が出てきただけだった。


「じゃあ、一世さんおれはこれで失礼しますよ」


 煙草をくわえながら中からでてきたのは、ナイスミドルのナイスガイ。

まるで傭兵のようなオフィス街には全く似合わないその無精ひげを生やしたムキムキの30代ぐらいのおっさん。

彼は。


「て、天道 龍之介!?」


「あぁ?」


 その鋭い眼光が、剣也を射抜く。

一瞬で身震いし、冷や汗が止まらない。


 世界最強の探索者。

そのステータスは、近代兵器を携えた自衛隊ですら止められないと聞く。

僕なんか一秒かからずに殺されるだろう。


「龍さん、ここは禁煙ですよ?」


 ちょっと、受付のお姉さん! 殺されますよ!

禁煙であることを猛獣のような、それでいてむき身のナイフのような男に注意するお姉さん、怖いもの知らずとはあんたのことだよ。

ん? 龍さん? なんか親しげだな。


「ちっ! めんどくせぇ女に見られたな」


 天道さんは、自分の手のひらでたばこの火を消す。

うわ熱そう、熱くないのか? でもなんて厚い掌だ。

これが戦士の手、20年前から最前線で戦ってきた探索者の手か。


 そして天道さんは行ってしまった。


「彼が、まだ駆け出しのころから私知ってるんです、そのころはまだ私子供でしたけど」


「あ、そうなんですか」


 天道さんに、駆け出しのころがあったのか。

当然といえば当然だけど、男が惚れる男、THE・アニキって感じからは想像ができない。


「やぁ! 剣也君! 来てくれたんだね!」


 中から田中さんが声をかける。

凄い部屋だ、さすがは社長室。


 中に入ると、多分装備品だろう。

凄く強そうな装備がいくつか飾ってある、さすがは装備品専門会社。


 自分の装備なら目を凝らせば説明が現れるのだが、所有者不明の装備は見れない。

一度装備すれば見れるようになるのだが。


 僕は、田中さんに誘導されるまま席に座る。


「じゃあ、剣也君。お金の話をしようか」


 そして始まる商談。

相手は飛ぶ鳥を落とす勢いのやり手の社長、こちらはただの高校生。

相手になるはずもないのだが…。


「あ! その前に! 剣也君!」


「はい?」


「お腹すいてる?」

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