第19話 ラッキースケベ? いいや、ただのスケベです(女のほうが)

 なんだろう、すごくドキドキする。


 シャワーの音を聞きながら、僕はなぜか正座していた。

別にこんな音いつも奈々が入っているときに聞こえてくるのに。


「なんでお兄ちゃん、正座してんの?」


 奈々が、僕を怪訝な顔で見る。

そりゃそうだ、なんで我が家で正座する必要があるんだろう。


「はは、なんでだろうな」


 そして僕は膝を崩す。


「そういえば、奈々最近学校で嫌なこととかなかったか?」


「ん? 別にないけど?」


 よかった、パパ活の件とかで佐藤がちょっかいだしてないかと心配してたが問題ないみたいだな。

あいつは、俺が嫌いなだけだろうし。


 あれから佐藤は毎日学校でからかってくる。

僕は耐える毎日で、憂鬱な毎日を学校で過ごす。

それでも妹に危害がないなら本当に良かった。


「お兄ちゃんは、どう? 探索者」


「それが聞いて驚け、なんと企業と契約することになった!」


「え! すっご…いの? それ」


「わからん、兄も初めてのことなのでよくわからん」


「騙されてんじゃないの?」


「多分大丈夫なはず…たぶん」


「なんで自信なくすのよ…、もうしっかりしてよ! お兄ちゃんの肩には今二人の可愛い女の子の生活が懸かっているんだからね!」


「あ、ああ!」


 自分で可愛いという妹、まぁ兄目線からみても可愛いとは思うが。

それに美鈴も系統はあれだが、可愛い。


 そんな話をしていたら美鈴がお風呂から出てきた。


「いいお湯でした!」


 相変わらず大きなTシャツだ。

また短パンがみえない、その綺麗な足がTシャツから伸びる。


(まるでTシャツしか着ていな…!!??)


 風呂上りで、濡れた髪をタオルで乾かす美鈴。

その美鈴を見ていると僕の視線に気づいたようで美鈴が笑う。


 そしてゆっくりとTシャツを少し持ち上げて小指を嚙みながらこちらを艶めかしい目で見る。

綺麗で細く真っ白な生足が見え、その上には…。


(履いてな…いだ…と)


 黒の下着の端っこが見えた。

そんな…。シャツ一枚だと!? 馬鹿な。そんなことがあっていいのか。

そんなエッチな服があっていいのか!?


 ただのTシャツがこんなエッチな感じになるなんて…。


 短パンをはいていない美鈴。

その長く薄い一枚ぺらの向こうには、ダンジョンにも負けない男のロマンが詰まっていた。


「ちょっと! 美鈴!」


 唖然として固まる僕の横で奈々が立ち上がり腰に手を当て怒る。


「はは! 泊めてくれたサービスだよ! 怒んないで!」


「もう…」


「剣也先輩、いいお湯でした! 次どうぞ!」


 そして僕の耳元まで顔を近づける美鈴。

シャンプーの匂いを漂わせながら奈々に聞こえないように小さく、ささやく。


「いっぱい匂い残しておきましたから…」


 え? 匂い? 匂いってなんですか?

エッチな感じのやつですか?

 

 なぜか少し前かがみになりながら僕は、無言でお風呂へ向かう。

気のせいか、足が軽い、先ほどまでの疲労が嘘のようだ。

早く行けと鼓動が脈打つ、一瞬で着替えて、扉を開く。


 さぁ行こうぉーぜ♪ 銀の龍の背にのって♪

まあ僕のは龍でもないし、背というより股…。いやこれ以上はやめておこう。


 そして開く一畳にも満たないエデンの園。

ワクテカが止まらない!

勢いよく開いた扉から、鼻孔を刺激するこの匂い!


 こ、この匂いは! …っていつものシャンプーの匂いしかしませんが?


「ふふ、剣也先輩面白い、何期待してたんですか?」


 いいえ、何も期待してません。

僕は疲れた体を早く癒してあげたかっただけです。


「って美鈴! なにしてんだ!」


「お世話になるからお背中ぐらいながしてあげようかと…」


「い、いいから! 大丈夫だから!」


 勝手に入ってきた美鈴を押し出しシャワーを浴びる。


(ちょっと刺激が強すぎるぞあの子)


 童貞の剣也には、辛い共同生活がまっていた。

ほんとに辛いのか、幸せなのかは、それは剣也のみが知ることだが。


◇美鈴視点


(剣也先輩優しいし、なんか可愛い。あんなに強くてかっこよかったのに)


 お風呂からでた美鈴は、にこにこしながらスマホをいじりながら髪を乾かす。


(今までの男達とは違うけど…)


 施設を抜けた美鈴。

原因は、施設の男達からの性的な暴力。

成長した美鈴を、男達は性的な目で見るようになった。

そしてある日襲われる。

そんなありきたりで、巷にあふれるよくある理由。


 それでも行くところがなかった美鈴はなすがまま、されるがまま蹂躙される。

しばらく続いたそんな日々に嫌気がさして施設を飛び出した。

でも行く当てもないので駅の近くでうずくまっていたら親切そうなおじさんが泊めてくれるという。


 でもそのおじさんも私の身体目当てだった。

でも泊めてくれたし、お金ももらえたから仕方なかった。

我慢しながら私は、またされるがままだった。


 また次の男も、また次の男も。

私を泊める男達は、みんな私を犯した。

 

 いつしか抵抗感もなくなり、私の中で何かが壊れた。

あんなに嫌だったのに、いつしか身体を求められているのが幸せになった。

誰かに求められる、必要とされる。

そのときだけは、その時間だけは、どうしよもなく幸せで満たされた。


 誰にも必要とされなかった私。

実の親にすらも…。

でも男の人はみんな私を求めてくれる、必要としてくれる。


(剣也先輩も求めてくれるかな? だと嬉しいな)


 屈折してしまった彼女、愛を知る前に性を知った少女。

原因は? 誰が悪い?

世間が悪いのか、彼女が悪いのか、男達が悪いのか、運が悪いのか。


 それは誰にもわからない。

でも一つだけ言えることは、彼女は被害者であるということ。

そして、この依存する生活の果てにあるのは、破滅だけ。


 でも今は…。


「お風呂でたよー奈々!」


「はーい!」


「せんぱーい、髪乾かしてあげる!!」


「べ、別にいいよ!」


「ほらほらーじっとして! 先輩の髪わんこみたい!!」


「や、やめろ!!」

「美鈴! お兄ちゃんを誘惑するな!」


「あはは!」


 この狭くて、ボロくて、汚くて。

それでもとても温かい。

たった10畳一間の空間が心の底から居心地がいい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る