第15話 仕事の話をしよう

「剣也君? どういうことかな?」


「す、すみません、つい…」


「ついじゃありません!!」


 その怒鳴り声と机を叩く音が騒がしいロビーに響く。

その声で、あたりは静寂に包まれるが、一瞬で喧騒を取り戻す。


「なんで一人でボス部屋なんかに挑戦したの!」


「いや、だって挑戦してみたくて…」


「だって?」


 いつもの通りの凍える声と、笑っていない笑顔で愛さんが剣也に微笑む。


「す、すみません! もう二度としませんから!」


 僕はその場で立ち上がり、全力で謝る。

これは全面的に僕が悪い。

成功したからいいものの、担当のナビゲータに報告もせずにボス部屋に挑戦したのだから。


「もう! 中ボスは許可したけど、大ボスはまだ早いよ…騎士シリーズじゃほんとに危ないんだよ?」


「そ、それが…」


 そして剣也は、王シリーズの小手を装備から外して目の前に置く。


「なに? 騎士の小手なんか出し…え? これ…えぇぇぇ!!!??」


「王シリーズできちゃいました…」


「で、できたって、それって剣也君のスキルでってこと!?」


「はい…」


 なぜか怒られている気持ちになる。

愛さんは常に驚きっぱなしで、僕はずっと申し訳なさそうに話し続ける。

 

 愛さんは事の重大さに気づいたのか、小声で話し出す。


「王シリーズって、2、300万はするのよ? それこそ20階層以上のドロップ品で銀級の上位冒険者達でしか手に入れられないような装備品よ?」


 10階層までの探索者が銅。

10~30階層が、銀。

30~40階層が、金。

50~60階層が、プラチナとなっている。

ちなみに、『天道 龍之介』率いる宵の明星が、60階層を超えたので、ダイヤ級として新たに冒険者タグが作られたそうだ。


「はい、なんかできちゃいました…。ほら! これ付けたらボス戦にも挑みたくなるってもんで…すみません調子乗りました」


 いつもの笑っていない笑顔に途中で変わりつい言い訳してしまった僕は謝った。


「でも、これって一大事よ? 日に一つ納品されるぐらいの王シリーズ。それを安定して作り出せるなんて…」


(これは確実に優良物件、いや超掘り出しものじゃないの。私の目利きは間違ってなかったみたいね)


「それで、愛さん?」


「え、ええ。なに?」


「騎士シリーズって卸してもらうこととかってできるんですか?」


「卸す?」


 それは剣也が考えていたこと、もしこれがかなうなら剣也の世界は文字通り一変するかもしれない。


「はい、日に20個ほど定期的に購入したいと思ってます。それと王シリーズの納品先も」


 そう、騎士シリーズから王シリーズを量産して納品してお金を稼ぐ。

そのための相談だ。

ダンジョン協会に買い取ってもらうのでもいいのだが、安定して大量に供給できるなら業者に頼むほうがいい。


「うーん、それは業者に頼まないと分からないわね、ちょっと待ってて聞いてみる」


 すると愛さんは、僕を残して奥にいってしまった。


(大事にならなければいいけど…)


 剣也は、すこし心配になるがその杞憂は現実となる。

しばらくすると愛さんが、申し訳ないという顔で戻ってくる。

手を合わせて、謝る仕草をしていた。


「ご、ごめん。ちょっと成り行きで…」


 愛さんに立たされて、奥の部屋に連れていかれる。

あれよあれよと、連れていかれた部屋にはお爺さんと、おじさんがいた。


 お爺さんは、お爺さんというには目が鋭く、それでいて優しそうな人だった。

蓄えたひげをさすりながら座ってこちらを見る。


 その正面に机をはさんで座っているのは、40代ぐらいだろうか。

スーツを着て、やり手の社長といった雰囲気を醸し出す、眼鏡だが、少し日焼けした若々しい感じだ。


 黒光りしてる、なぜやり手の社長は黒光りしているのか。


「ふぉふぉ、愛ちゃんよ、それがさっきいっていた王シリーズを納品できるといっている子かね?」


「はい! 御剣剣也君です」


 するとお爺さんが話しかけてきて、愛さんが答える。

そして僕の紹介をした。


「剣也君、こちらはダンジョン協会の会長さん。納品の話を上司にしたらたまたま聞こえたらしくてね、面白そうだからとこの場を作ってくれたの。それと…」


 また愛さんは、ごめんというポーズと共に僕に謝る。


「スキルのこと話しちゃった…」


「はは、いいですよ、いつかはわかることですし」


「ごめんね? それと、こちらは…」


「君の話が本当だとしたら納品先になるかもしれない株式会社ウェポンの代表の田中一世だ」


 そういうとスーツの男の人は、名刺を渡してくれる。


「ご、ご丁寧にありがとうございます。御剣剣也です」


 たまたま今日別の商談でいらしていたそうで、もののついでということで会長がこの場を用意してくれたらしい。


「では、さっそく仕事の話をしようか…」


 そして僕と愛さんと会長と田中さんは机を囲むように座り、商談が始まる。


(ぼく未成年なんだけどいいのかな…)

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