第16話 安定供給できます!

「まず商談の前に、力を見せてもらうことはできるかな? にわかには信じられなくてね」


 田中さんは、手を前で組み僕を見つめる。

具体的な話をする前にまずは力を見せてみろと言っている。


 今日の錬金回数は王の兜で錬金回数が上昇し、残されているため問題ない。


「わかりました、でも騎士シリーズがないと…」


「ふむ、よし、愛ちゃん。十個ほど買ってきてくれるかね? 経費で落として構わん。もし本当なら田中君が買い取ってくれるしの」


「わ、わかりました!」


 そして愛さんは、騎士シリーズを近くの武器屋で買いに行く。

十個程度なら在庫があるだろう。


「では、今のうちにわが社のことを少し話してもいいかな?」


「は、はい。お願いします」


 すると田中さんが、会社の説明を始める。

まるでプレゼンのような資料をタブレットで次々と説明をしだした。


「まず今日本で一番大きい武器の卸会社はうちではない。株式会社シュガーというところだ」


 これは知っている。

佐藤の親の会社だと。

いたるところでCMや、看板、広告を見かける。

そのたびにあいつの顔を思い出しムカつくが。


「だが、わが社はここ数年で急速な成長を遂げた、去年の売り上げは業界で2位。それはわが社が契約している探索者達の活躍でもあるのだがね」


 そしてタブレットに表示される名だたるギルドの名前達。

その中には…。


「宵の明星!? あのトップギルドとも契約しているんですか!?」


「あぁ、団長の龍之介は実はプライベートで知り合いでね、その伝手もあってだ。正直このギルドの力はとても大きい。納品数は断トツだ」


 個人の冒険者は、ダンジョン協会に納品することで換金する。

これが今までの僕のやり方だ。

ダンジョン協会がそのあと会社に卸すので結局間に入っているだけなんだが。


 しかし大きなギルドともなると大量の納品があるため会社と直接契約し直接装備品を卸している。

その方が利益も大きくなるからだ。


「ギルドとも契約しているが、他にも鍛冶師など個人とも契約させてもらっている」


 鍛冶師は、上位の階層で落ちるドロップ品を組み合わせて武器を作ることができる職業だ。

スキルレベルを上げるほど、品質がよく─つまりはLvだが─上位の武器を作ることができる。


「だからもし君が、本当にその力があるのならわが社とぜひ契約してほしい。それ相応の対応はさせてもらうつもりだよ」


 すると田中さんは、ニコッと笑う。

これぞ営業スマイルだと思ったが、先ほどまでも厳しいやり手社長の表情からのギャップでぐっときた。

多分この人モテるだろうな…。


 しばらく会社の資料を読ませてもらっている間に時間はすぐに過ぎ、ノックの音が聞こえる。


「買ってきました。騎士の小手十個です」


 愛さんが机の上に小手を広げる。


「ふぉふぉ、楽しみじゃな、では剣也君?」


「はい!」


 そして僕は、一つずつ錬金を繰り返す。


「これが錬金か…」


(Lvをあげるだけでも十分専属契約したい内容だが…)


 田中はその光を見ながら思案する。

ひとつまたひとつと光に包まれLvが上がっていく装備。

そして最後の二つを錬金する。

一際大きな光と共にそれは現れた。


 進化♪ 王の小手Lv1


「なんと…」

「すごい…」

「……」


 初めて錬金をみる愛さんも会長も声を漏らす。

田中さんだけは、何も言わず王の小手を見つめている。

そして口を開く。


「剣也君、これは日にどれだけ行える?」


「えーっと今は20回錬金できます、なので2個ですね。知力によって回数は増えますが…」


「まさか王シリーズの上もできるのか?」


「今はCランクまでしか錬金できませんが、E,Dと上がってきたのでもしかしたらいつかBもいけるようになるかもしれません」


「ふむ…」


(将来性も抜群、王シリーズを確実に2個、年700個以上納品できる、知力によってさらに増える可能性もあり…か、これは…)


 田中さんは、質問したまま黙ってしまう。

それを会長は、楽しそうに眺め、笑う。


「剣也君!」


 いきなり田中さんが立ち上がり、机に手を乗せ身を乗り出す。


「わが社と専属契約を結んではくれないか! 最高の待遇で、特A級として扱う! つまりは、宵の明星と同じ待遇をさせてもらいたい!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る