【完結・書籍化決定】俺だけダンジョン装備がレベルアップ! ~追放された無能職の錬金術師は、錬金を繰り返し最強装備を作り出す。勇者も魔王も神々もSSSランク武器には勝てません~
KAZU
追放とざまぁ編
第1話 夢を追い求めて
僕はその少女に憧れた。
薄暗いはずのダンジョンで、それでも光り輝く腰まで伸びた長い髪をなびかせて、一太刀のもと身の丈の二倍はある鬼を切り伏せる。
僕では歯が立たないその化物をまるで何事もなかったように切り伏せる。
その光景に僕は憧憬を抱く。
その美しくも、戦慄すら覚える光景に。
いつかあんな探索者になりたくて、あんな美しい戦いをできるようになりたくて。
まるで花びらが舞い落ちるような、まるで美しい舞をみているような戦いをしたくて。
でも僕には才能がなかった。
追放された、クビにされた、無能だと嘲られた。
だからその夢を一度は諦めた。
それでももう一度、あともう一度だけ挑戦させてほしい。
家族のため、妹のため、お金のため。
そしてなにより自分のために。
だから僕はもう一度挑戦する。
あのワクワクする世界を仕事にすることを。
ダンジョン探索者という夢を。
◇
「皆さん! あけましておめでとうございまぁす!!」
テレビで有名な司会者が、ありきたりな挨拶で新年のあいさつをする。
その後ろには、バラエティには似合わないひげ面のナイスガイな、ナイスミドル。
まるで傭兵のような男が座っている。
「本日は、日本で、いや世界でもっとも強い方をお招きしておりまーす! ギルド【宵の明星】リーダー 天道 龍之介さんです!!」
パチパチパチと、拍手で紹介された男は、全く動じないように動かない。
しかし閉じていたその目を男はゆっくりと開く。
その眼光は鋭く、テレビ越しでもまるで獲物を狙う鷹のような目だった。
「天道さん! 本日はお忙しい中来ていただいてありがとうございます!」
「いえ、これも仕事なので…」
ぶっきらぼうに答えるその低い声は、年末年始の陽気なバラエティとは思えない。
「え、えーっと」
司会者は少し困ったように質問を投げる。
「先日第59階層の大ボスを攻略され、人類最高到達階層を更新されたとお聞きしました! お気持ちはいかがでしたか?」
「……最悪です。ひどい戦いでした、一人友が死んだ」
静寂が、番組を包む。
見ているのもつらい空気が会場を包んでいる。
司会者も声がでないようだ。
僕も、見ているのが辛くなりチャンネルを変える。
変えた先では、年末の特別通販番組が始まった。
「トップギルドでも、いまだに死人がでるのか…」
東京湾に、ダンジョンと呼ばれる巨大な塔が現れてもう20年になる。
半径10キロの巨大な塔。
僕が生まれる前からあるそのダンジョンと呼ばれる塔。
当時日本は大パニック。
魔物でも現れるのかと、軍も出動したが結果何も起きなかった。
仕方がないから調査隊が編成され、塔の中へと調査を開始した。
調査した結果わかったことは、中には魔物と呼ばれる空想の化物、そしてダンジョンのような迷宮が広がっていることだった。
特に害がなれば放置すればいいのだが、その調査隊が持ち帰ったもので世界は一変した。
それが…。
「騎士の小手か…」
テレビの通販番組で紹介されるその小手。
大げさなコメンテーターが大げさなリアクションで商品を売り込む。
「あぁぁぁ! 騎士の小手の音!!」
「見てくださいこのボディ!!」
どこかで聞いたような、水素おばさんの声と甲高い声の社長が必死に宣伝する。
そしておばさんが、その小手を装備する。
そして目の前におかれる米俵。
「この米俵、50キロあるんです!」
ただのおばさんが持つにはなかなかの重量の米俵だ。
しかし…。
「フンッ!」
そのおばさんは、米俵を持ち上げた。
軽々とまではいかないが、普通に見れば十分すごい剛力だ。
これが、ダンジョンの出土品である『装備品』と呼ばれるもの。
初めて調査隊が持ち帰ったこの装備品が世界を変えた。
先ほどの小手は、騎士シリーズと呼ばれている。
ランクDに該当する大した力もない装備品だが、それでもだれでもこのような超常の力を得ることができる。
世界中が、この装備品を求めた。
セレブ達は護身用や、コレクションとして。
反政府組織は武力として、国は抑止力として、軍事力として。
今では車を超える日本の一大産業となった装備品の輸出。
世界の軍事力のパワーバランスを日本が握る日がくるとは、誰も思わなかっただろう。
そんなダンジョンが現れたのが20年前。
ダンジョン探索者という職業ができたのも20年前。
そして僕がダンジョン探索者を志したのが1年前。
そして、諦めたのが半年前。
追放され、クビにされ、笑われて、無能とさげすまれて。
諦めたのがつい半年前のこと。
でも僕はもう一度夢を追うことにした。
普通の幸せを手に入れるために。
「高校生が、大金を稼ぐ方法なんてこれぐらいしかないしな」
準備をして、外に出る。
そこからでも、巨大な塔が雲を突き抜け天を貫く。
そしてその塔の先に見える、幻想の星。
その星がなんなのか、誰もわからない。
まるでそこにあるかのような星が、なんなのかは誰もわからない。
宇宙から見ても何も見えなかった幻覚のような星、地球のような見た目の星。
それがなんなのかは、ダンジョンの頂上にいけばわかるのか、なにもわからない。
それでも人々はダンジョンに行く。
夢を追い求めて、一攫千金を夢見て。
そして僕は、普通の幸せを求めて。
…
ダンジョンの第2階層。
薄暗く四方を石に囲まれた部屋に二体の生物が命を懸ける。
そこには、既に二体のゴブリンの死体が転がり、残り一体のゴブリンも満身創痍だった。
かくいう僕も満身創痍。
血を流しながら命がけの戦いをしていた。
「僕は稼がなくちゃいけないんだぁぁ!!」
「ギャァ!!」
そしてその最後の一体の首を鉄の剣で切り落とし、僕は勝利した。
血糊を剣から拭いて僕はそこで座り込む。
「はぁはぁ、やった! これで今日のノルマ達成だ」
疲れた体に鞭打って、その三体目を倒した後現れた銅の宝箱、そしてゲート。
このゲートは一つ上の階層へ行くためのゲートだ。
そして宝箱を開ける。
そこには、『兵士の小手』が入っている。
この小手は、一つ五百円で売れる。
今日一日死に物狂いで、働いて合計十個。
これで五千円の稼ぎだ。
「はぁ、半日かけて五千円か…。高校生の稼ぎとしてはギリギリ十分かもしれないけど…」
少年は、その場で仰向けになって、倒れこむ。
「この程度の稼ぎじゃな~、3階層に挑戦してみるかー…」
そして上半身だけ起き上がり頭をぶんぶんとふり回す。
「だめだ、だめだ。死んだらどうする。この程度のステータスじゃ、ダンジョンの栄養になって終わりだ」
そして僕は、装備していた兵士の腕輪を見ながら、唱えた。
「ステータス!」
すると目の前にステータスウィンドウが表示される。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
名前:御剣剣也
DP:100pt
職業:錬金術師
・錬金Lv9:次のレベルまで100pt
(ランクEの武器を日に9回錬金できる)
◆装備品
武器:【鉄の剣Lv2】
頭 :【兵士の兜Lv9】
胴 :【兵士の胸当てLv9】
手 :【兵士の小手Lv9】
足 :【兵士の具足Lv9】
◆ステータス
攻撃力:0(+14)
防御力:0(+10)
素早さ:0(+10)
知 力:0(+10)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
これが僕の今のステータス、初めて装備品を装備した日から見えるようになった。
一番簡単な階層ですら、ソロでは苦戦するステータスだ。
まるでゲームみたいなステータス。
しかしこういうステータス画面では、絶対にあるあれがない。
それは、僕自身のレベルだ。
じゃあどうやって強くなるんだというと、方法は二つある。
一つはダンジョンの出土品の装備品を付けること。
そしてもう一つは職業のスキルのレベルをあげること、これはDP(ダンジョンポイント)で上げられる。
DPとは、ダンジョンの階層を踏破するともらえるポイントだ。
なので、このダンジョンでは、装備品と職業だけが、すべてのステータスを決定づける。
「せめて、職業が剣士とかだったらな~、レアジョブだと思った錬金術師がここまで使えないなんて」
職業には、ステータスに影響を及ぼすものもあれば、装備品の能力向上を補正するものもある。
剣士や、勇者といった職業がそれだ。
他には、素材から装備を作る鍛冶師や傷を癒す僧侶なんかもあるらしい。
この職業は変更できない。
このステータスが表示された瞬間自動で決められてしまう、そもそも職業すら与えられない場合もある。
なので探索者として、大成するかを決定づけるのは職業、つまるところ運次第だと言っても過言ではない。
僕は錬金術師という世界初の職業を得た。
当時は、期待に心躍らせた。
それこそ、レアジョブだと歓迎されて、勇者がいるギルドにだっていたこともあったんだけど…。
無能ジョブとして、捨てられてしまった。
それも仕方がない。
期待されて入団したが、ふたを開けてみるとどうだろう。
ランクE(最下位のランク)に該当する同じ武器同士を錬金し、武器のレベルを上げる。
それだけだ。
スキルレベルを必死に上げても一日に錬金できる回数が増えただけ…。
ステータスや能力の変化は一切なかった。
今もその力で強化した兵士の小手Lv9と鉄の剣Lv2などを装備している。
つまり今僕は合計+10の攻撃力を小手から、+4の力を鉄の剣から得ている。
「Dランク武器でもあれば、三階層でもっと稼げるかもしれないのにな~」
Eランクの装備品なんて、Dランクに比べたらあってないようなものだ。
しかしDランクの装備品、例えば騎士シリーズをそろえようとしたら50万近くはかかるだろう。
そんなお金貧乏高校生の僕が用意できるわけがない…。
「ないものねだりしても仕方ない。なんとかお金を貯めて、Dランク装備一つでも買おう。そうすればもう少し上の階層にもいけるかも、僕にはお金が必要なんだから…」
剣也は、兵士の小手を9個その場に広げる。
そして一つずつ錬金を始めた。
レベルアップ♪ 兵士の小手Lv2
レベルアップ♪ 兵士の小手Lv3
・
・
レベルアップ♪ 兵士の小手Lv9
「よし!」
某有名ゲームのようなレベルアップ音声が脳に流れる。
その音は何回聞いてもワクワクする。
でもこの錬金のレベルアップも今日で何回行ったことか…。
これで、兵士の小手Lv9ができた。
一日の錬金回数は9回と決まっているためこれで終わりだ。
「これで一万円! 五千円のものが、倍になったんだ! まさしく錬金術だな」
錬金後のLv9までレベルアップした装備のほうが高く買い取ってもらえるため錬金する。
この職業でよかったと思った唯一の利点だ。
「これで、今月もなんとか食いつなげたな、それに…」
ダンジョンポイントと呼ばれるポイントが100になった。
これは、2階層を踏破したことで1ポイントを得ることができる。
今まで貯めていた分と合わせて遂に100まで貯めることができた。
このポイントを使ってできること、それは。
「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか、頼む!」
自分の職業のスキルを上げること。
僕の職業の唯一のスキル 錬金。
これをスキルアップさせるために100pt必要だった。
今まで上げ続けてLv9、変わったことは、日の錬金回数が増えただけだった。
今回こそは、なにか変わってほしいと信じてもいない神に祈りながらスキルのレベルを上げる。
『スキルレベルアップ♪ Lv10になりました。錬金可能ランクがDランクに上昇します』
「え?」
このアナウンスで、剣也の世界は一変する。
貧乏で無能だった高校生、御剣剣也の世界は一変する。
外れジョブ? 無能ジョブ?
いいや、『錬金術師』は最強へ至る正真正銘のレアジョブだった。
世界でただ一人、装備品を成長させ、生み出すことができる彼だけの力。
『またEランク装備+9を、追加で錬金した場合Dランクへと進化します』
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