第269話 ピンク色のカーバンクル
ギルドへと魔物が暴れていたことを報告しに向かうと、既にギルドにはその情報が届いていたようで、あわただしい様子だった。
そんな最中、リルが上着を羽織りながら二階から駆け足で飛び降りてくる。
「あ、キミ……。」
「リルさん、街の外で暴れてた魔物は全部倒してきましたよ。」
「あはは、キミは本当に仕事が早いね~。ついさっき情報が入って、今から向かおうと思ってたのに。怪我人はいなかった?」
「大丈夫です。」
「はぁ~、ならよかったよかった……。」
俺から報告を聞いた彼女はあわただしく動いていた職員達にそれを報告すると、こちらに戻ってきた。
「まぁキミが全部倒したって言うなら間違いはないだろうけど……一応何人か今向かえるハンターを周囲の警戒にあたらせるよ。」
「わかりました。」
そしてリルは一つ大きく息を吐き出しながら目の前の椅子に腰かけると言った。
「今まではこんなこと無かったんだけどね~。そもそもシャドウジュエラーが真っ昼間から活発に動くこと自体が異常なんだけどさ。」
「というと?」
「もともとシャドウジュエラーっていうのは卑しい魔物でね。暗闇に紛れて宝石を持っている人を襲う魔物なんだ。だから今日みたいに真っ昼間から姿を現して襲いかかってくるなんてことは今までに前例がないんだよ。もちろんカーバンクルの来るこの時期でもね。」
「そうなると……何か異常が起きてるって考えた方が自然ですかね?」
「ん~、まぁそうだね。生態系に異常が起きてるのか……はたまたシャドウジュエラー自体に何か変化が起こったのかはわからないけど。今のところ考えられる可能性としては、今までに例を見ないほど巨大な宝石を持ち歩いているカーバンクルがいて、それをシャドウジュエラー達が狙っているとか。そのぐらいかなぁ。」
そうリルは今回のシャドウジュエラーの異常行動について予想をたてた。
長年魔物ハンターとして務めてきた彼女の推測だから、概ね当たっていそうだが……。
「でもね、そんな宝石を持ち歩いているカーバンクルってなると……カーバンクルプリンセスとか、カーバンクルプリンスぐらいなはずなんだよね。」
「カーバンクルプリンセスに、カーバンクルプリンス?」
「そ、まぁ簡単に言っちゃうと名前のとおりカーバンクルのお姫様と王子様だね。普通のカーバンクルよりも純度が高くて、大きな宝石を作るんだ。でもね~、ほんっ……とに人前に姿を現したりしないんだよ。あれだけカーバンクルに好かれてるクリスタも多分見たことないと思う。」
「えぇ!?」
俺が驚いた表情を浮かべていると、さも当然といったようにリルは続けて言った。
「だって、最後にカーバンクルプリンセスの目撃情報があるのって……記録に残されてるのでも何百年も前だよ?」
「そ、そんなに前なんですね。」
「それだけ人前に姿を現さないってこと。だから、仮にカーバンクルプリンセスとかが今、この街に来てるってなったら……シャドウジュエラーが躍起なって活動してるのも納得なんだよね。」
「なるほど……。」
彼女の言葉に納得していると、リルはおもむろに俺の頭の上を指差しながら問いかけてくる。
「そういえばなんだけど、キミ……そのカーバンクルに随分懐かれてるみたいだね?」
「え?カーバンクルですか?」
「ほら、頭の上の……。」
おもむろに頭の上へと手を伸ばしてみると、俺の手の上にピンク色の綺麗な毛並みのカーバンクルがぴょんと飛び乗ってきた。
「あれ?もしかして、さっき集まってきたカーバンクルかな……。」
でもこんな綺麗なピンク色のカーバンクルなんていたか?大量に集まってきたから覚えてないだけかもしれないけど……。
「ほぇ~、可愛いね~。触らせてくれるかな。」
そしてリルが俺の手の上のカーバンクルへと手を伸ばすと、ピンク色のカーバンクルは彼女のことをキッと睨み付け、手の上でくるくると回りながらリルの手を尻尾で叩き落とした。
「あいたっ!?」
「きゅ~っ……。」
尻尾で叩かれた手を押さえているリルを、カーバンクルは俺の手にしがみつきながら睨み付けている。
「うぇっ、な、なんかこのカーバンクル目が怖いよ?」
「な、なんかすみません。」
「いやいいんだけど、そのカーバンクルさ、なんか懐いてるっていうよりかは……独占してる?って感じがするね。」
「独占って、きっとただ懐いてるだけですよ。」
俺の手の上に居座るカーバンクルの頭を優しく撫でてやると、カーバンクルは気持ち良さそうな表情を浮かべた。
(こうして見ると、ペットだな。)
カーバンクルを撫でながら、俺はリルに言った。
「リルさん、俺も今日は街の周辺の警備にあたりますよ。」
「あれ、いいの?ラピスちゃんと聖夜祭出てるんでしょ?」
「多分ラピスはもう大丈夫です。カーバンクル達からたくさん宝石を貰ってましたから。それに俺は宝石目当てで参加した訳じゃないので。」
「そっか~、ならお願いしよっかな。報酬は割り増ししとくね。」
「ありがとうございます。」
そして俺は聖夜祭の警備にあたることになったのだった。
警備のついでにアルマ様達の状況とかも確認できるといいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます