第261話 新たな歴史の始まり……そして


 魔道具か完成した後日、こちらからアリスを返還する旨の書状を送ってやると、その日のうちにルメラが馬車を走らせて魔王城へと馳せ参じた。


 その場でアルマ様は国王の権限を取り戻したアリスと、完全にお互いが対等な立場であることを証明するために改めて握手を交わす。その光景は写真に収められ、明日にはヒュマノとこの国中に広まるだろう。


 そして、それを終えるとアリスは別れを惜しみながらもルメラと供にヒュマノへと帰っていった。


 今後のヒュマノとの関係についてはジャックやリル達が動いてくれるらしい。話では互いの国に許可を得た人は自由に行き来できるようにしたり、貿易なども盛んに行う予定とのことだ。近いうちにヒュマノの人間たちがこの国の街を歩く日も来るのかもしれない。


 今日までかなり忙しい日々が続いたが、これでようやく……心置きなくゆっくりとできそうだ。


 俺は全てを終えた後、自分のベッドへとごろんと寝転がった。


「ふぅ……やっと終わったなぁ。」


 他人に高圧的な態度をとるのは意外と疲れるものだ。慣れないことってのはやるもんじゃないな。まぁ今回はそうしなければならなかっただけだから、もうやることは……多分ないだろう。


 体から力を抜いて、目をつぶるとふと頭の中に声が響いた。


『新たな称号を獲得しました。これによりカリスマ性の上昇と、新たなスキルとステータスにボーナスを獲得しました。既存の称号であるにこの称号は統一されます。』


「んあ?」


 新しい称号……か。これで称号を受けるのは三回目だな。


 今回この称号で得たものはカリスマ性の上昇と読心術…………ん?読心術?


 思わず俺はベッドから飛び起きた。


「ど、読心術ってクリスタさんが持ってる……アレか?」


 頭の中に響いた声が言っていたものが本当なのかを確かめるために俺はすぐにステータス画面を開いた。そしてスキルの項目に目を走らせると、そこにはパッシブスキルの欄に確かに読心術と書いてあった。だが、他のパッシブスキルとこの読心術のスキルには決定的に違うものがあった。それはスキルの隣に。と書いてあるのだ。


「これは今発動してるってこと……なのか?」


 だったらきっとにする方法もあるはずだ。こういうのは大体頭の中で強く思えば……。


 頭の中で強く念じると再び声が響く。


『読心術の発動をオンからオフへと切り替えました。』


「おっ、できた。」


 これは便利だな。自分の意志で心の中を覗きみたい人の前でだけ自由に発動できる。


「これがあると、対人戦はかなり有利になりそうだな。」


 相手が何をしてくるのか心を読めば予め予想して動ける。これはかなり強いスキルだ。まさかこのスキルを会得してしまう日が来るとは思っていなかった。てっきりこのスキルはクリスタのみに許されたスキルだと思っていたからな。


「あとで試しに使ってみないとな。どんな風に心の中が見えるのかわからないし。」


 クリスタのような感じであれば……おそらく心の中で考えていることがわかるはずだ。


「まっ、これは明日にでも試しに使ってみよう。」


 寝る前にいろいろ考えるのはやめだ。眠れなくなる。今日はぐっすり寝たい気分なんだ。早く寝よう。


 思わぬ称号獲得によって眠りを妨げられてしまったが、俺は今は襲い来る眠気に身を任せて目を閉じ、微睡みの中へと沈んでいくのだった。










「………おい。」


 微睡みに沈んでいた俺の耳に低い女性の声が響く。聞いたことのない声だ。


「起きろ、あるじよ。」


「ん?」


 ふとその声に意識を呼び起こされて目を開けてみると、俺は見慣れない場所に仰向けに寝転がっていた。そして起き上がると目の前には俺が全身を龍化させた時と同じような見た目の女性が立っていた。


「やっと逢えたな。あるじよ。」


 その女性は俺が目を覚ますと嬉しそうに笑う。


「誰……だ?」


「もっともな疑問だな。だが生憎我に名はない。呼び方に困るのならとでも呼べばいい。」


「ナナシ?」


「うむ。」


 そう名乗った女性は一つ頷くと話を始めた。


「此度、主の体に龍昇華がかなり馴染んだ故我がこうして主に意識に語り掛けることができた。」


「……??な、何を言って?君は誰なんだ?」


「我が誰か……か。」


 そう問いかけると彼女はとがった指先で俺の胸のあたりをつつく。


「我は主の中に存在する龍の意識……そのものだ。」


「龍の意識?」


「主は龍昇華に認められた……この世にただ一人の者だ。おそらく後にも先にも主のように龍昇華に認められるものは出ては来ないだろう。そんな貴重な主が無事進化できるように補助するのが我に与えられた使命だ。」


 彼女の話していることが何一つ頭に入って来ない。脳内に大量に?を浮かべていると、彼女は笑いながら言った。


「くっくっく、今は理解せずともよいのだ主。我という存在を認識した……今はそれで良い。」


 そして彼女がパチンと指を鳴らすと、俺の意識は再び微睡みの中へと沈んでいく……。その最中最後に彼女はこう口にした。


「困ったときは心で強く我の名を呼ぶがよいぞ主……。その際は我が力を貸そう。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る