第226話 再びの魔王城


 一通りというか、彼が知っていた全ての情報を抜き取り終えると、クリスタはエルフ達に彼を地下牢に監禁しておくように伝えた。


 彼を連行していくエルフ達を見送ったクリスタは俺へと向かってあることを告げた。


「どうやら、わたくし達エルフだけでは対処の仕様がない事がヒュマノで起こっているようですね。それも秘密裏に……。」


「どうするんです?」


「ひとまずはジャックにこの事を報告しましょう。その後はリルに応援を頼みます。」


「じゃあ魔王城に行くんですね?」


「えぇ……まぁそうなりますね。」


 すると俺の心の中を読んだ彼女は半ば諦めた様子で言った。


「貴方の言いたいことはわかっています。魔王城へ行くついでに、もとの生活へ戻りたいのですね?」


「はい。」


「本当はもう少し療養して頂きたかったのですが……。それほど動けるようになったのであればもう引き留めるわけにはいきませんね。」


 そう言うと、彼女はこちらに手をさしのべてきた。


「さぁ、行きましょう。」


「お願いします。」


 彼女の手をとると、足元に魔法陣が現れ光を発し始めた。どうやら移動魔法で送ってくれるらしい。


 そして視界を光が覆い尽くすと、次の瞬間には見慣れた城門の前に転移していた。


「戻ってきた……。」


 ポツリと俺がそうこぼすと、俺の気配を感じ取ったナインとスリーが音もなく目の前に現れた。


「「おかえりなさいませマスター。」」


「ただいま。アルマ様達はどうなってる?」


 俺は一番気になっていたアルマ様達の食事事情を二人に問いかけた。


「アルマ様達もマスターがご療養なさっている……ということである程度我慢していましたが、そろそろ限界を迎えそうになっていたところです。」


「そうか。」


 二人と話していると、城の奥の方からドドドドド……と何かが地を鳴らしながらこちらへと向かってくる音が聞こえてくる。


「ま、さか……。」


「カオル~!!おかえり~っ!!」


「ふぐっ!?」


 シュッ……と目の前を影がとてつもないスピードで通りすぎたかと思えば、アルマ様が俺のお腹へと向かって飛び付いて来ていた。

 進化に進化を重ね続けたアルマ様の力はとんでもなく、俺は受け止めきれずに倒れてしまう。


「た、ただいまもどりましたアルマ様。」


「待ってたよ~!!ずっっっっと!!」


 俺の上に股がりながらうるうると瞳を潤ませるアルマ様。この騒動に気がついたカナンやラピス達も、続々と城の中から出てくる。


「やっと戻ってきたのぉ~!!心配させおって。」


「か、カオルさん、もう体は大丈夫……なんですか?」


「あぁ、心配かけてすまなかった。もう大丈夫だ。」


 抱きついていたアルマ様をなだめて、俺は立ち上がると、そこにソニアを連れたエンラがやってくる。

 彼女は少し気まずそうにしながらも、俺の前で頭を下げた。


「そ、その……ごめんなさい。ワタシのせいでここにいるみんなに迷惑かけちゃって……。あなたにも……。」


「いいんだ、その辺の話はあとにしよう。」


 ポン、とエンラの頭に手を置いてそう告げると、みんなの後ろでにこやかな笑顔で佇んでいたジャックにクリスタと共に声をかけた。


「おかえりなさいませカオル様、それにクリスタも。」


「ただいまもどりました。遅くなってすみません。帰って来て早速で申し訳ないんですけど、凄く大事な話があって……。」


「なるほど、その話にはクリスタも……いえ、エルフも関係しているようですな。」


「その通りです、察しが良くて助かりますよジャック。」


「ホッホッホ、貴女程ではないですよクリスタ。さぁ、皆様ひとまずは中へ入りましょう。カオル様とクリスタの話は中でゆっくりと聞かせて頂きます。」


 久しぶりに俺はジャックの部屋の中へと案内されると、クリスタとともにエルフを襲った人間達の話をした。そして、彼らが薬を使って魔物に変異してしまったことも。


 そうして全ての話を聞いた彼は、訝しげな表情を浮かべながら口を開く。


「……人間を魔物へと変化させる薬。確か、以前カオル様がノーザンマウントで捕獲してきた魔物も、元は人間だったというような話を聞いてはいましたが……。」


「はい、ヒュマノが人間を魔物へと変える薬を開発していることは間違いないようです。」


「しかもその薬の存在は軍隊を指揮する者にさえも知らされていない重要な機密事項のようですね。」


「ふむ……。ヒュマノは間違いなく禁忌に手を出している。そしてエルフを狙っている……ということですか。」


 事情を把握すると、彼は一つ頷いて言った。


「わかりました。それでは、ギルドの方には私から話を通しておきましょう。エルフの危機は魔族も一体となって救わねばならないことですからな。」


「感謝しますよジャック。」


「さて、カオル様……帰って来て早速で申し訳ないのですが、魔王様方にお食事を作っては頂けないでしょうか?」


「任せてください。それが俺の仕事ですから。」


 そして俺はジャックの部屋を後にする。


 クリスタとジャック二人きりになった部屋でクリスタはジャックへと告げる。


「なにやら不穏な気配を感じますね。」


「えぇ、先日ここを襲撃してきたもの……そして立て続けに動き出したヒュマノ。偶然という言葉で済ませるにはいささか……。」


「いかなるときにも備えて準備が必要ですね。」


 二人は部屋の中でそんな会話を交わすのだった。

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