第210話 龍闘祭決着


 突如として砂嵐をおこして目の前から忽然と姿を消したジン。


 あんな巨体が一瞬で姿を消せるわけがない。可能性があるのは……上か?


 空を見上げるが、上空にジンの姿はない。そうなると考えられるのは……。


「下か。」


 俺がちらりと自分の立っている足元へと目を向けたその時、突然ぐらぐらと地面が揺れ始める。


「やっぱり下かっ!!」


 そしてビキビキと音を立てて、縦一閃に地割れが起きたかと思えば闘技場一帯を覆うように魔法陣が展開された。

 それと共にジンの声が響く。


「某に傷をつけたことは称賛しよう。だが、これにて終幕だ。」


 そうジンの声が聞こえたかと思えば、次の瞬間二つに割れた地面が口を閉じるようにバクン!!と俺のことを挟み込んできた。


「っ!!」


 地面の壁が俺へと迫り来るその瞬間、時間がピタリと止まった。


「なるほどな。なんとなくあいつが五老龍の従者の中で一番強いってのが理解できた。」


 それはこの闘技場自体がヤツの武器になるからだ。地を味方につけられては勝つのは難しい……だが。


「下に潜っているのなら俺もそこまで行けば良いだけの話だ。」


 俺は剣を鞘から抜くと、迫ってきていた地面を何度も何度も切り裂く。すると何度めかもわからないほど剣を振るった時、時間の流れが元に戻り始める。


 それと同時に俺へと迫っていた土の壁は砂塵に変わりサラサラと崩れ落ちていく。


「なに!?」


 そして割れて下へと続く道ができた地面を俺は落ちていくと、途中で地面の中へと身を隠していたジンと目があった。


。」


「~っ!!」


 ヤツの姿を見つけた俺は思わず口角を吊り上げて笑ってしまう。そんな俺の表情を見てジンの表情は引きつった。


「もう逃げも隠れも……守りも無駄だ。ここで終わらせる。」


 そして俺が剣に膨大な魔力を籠めたその時ジンが吼えた。


「っ……舐めるなァッ!!」


 それと共にヤツの口から吐き出されたのは黒い霧状のブレス。それは俺の体にまとわりつくと質量が一気に増加し、まるで何倍もの重力下に晒されているような感覚に陥った。


(なるほど、ラピスが言ってた厄介なブレスってのはこういう意味か。)


 自由落下する俺はそのブレスによって更に加速して落下し始める。それによりどんどんジンとの距離が離れていく。


「このまま生き埋めにしてくれる!!地中で生存できるのは某とエルデ様のみだ!!」


 ジンが手を振り下ろすと砂塵となった地面がまるで波のように降り注いでくる。


「……。舐めるなはこっちの台詞だ。」


 たかが砂……地面で俺を殺せると思うな。こっちは毎日銃弾を放ってくるスリーと、斬れないものはほぼ無いナインに殺されかけてるんだよ!!


 俺は全身に魔力を行き渡らせると、体を一部位動かすごとに魔力の細分化を行い、加速させる。これにより、ブレスにより重くなった体も難なく動かせることができる。


 そして砂に紛れて崩れてくる岩を足場にしてどんどんジンへと距離を詰めると、膨大な魔力を籠めた剣を鞘から抜き、ジンの目の前で上段に構えた。


「痛いぞ?覚悟は良いか?」


「某の硬さを甘く見るなっ!!そんなちっぽけな刃物打ち砕いてくれる!!」


 そして自慢の硬い頭で俺の剣を受け止めようとするジン。しかしヤツはさっき喰らったばかりのあれを忘れている。


「終わりだ!!」


「むぅぁっ!?」


 峰打ちでジンの頭上に剣を叩き込むと魔力爆発を使い、硬いジンの防御を貫通し脳を揺らした。

 それにより白目を剥いたジンは下へと落ちていく。


 しかし、そんな彼をすんでのところでエルデが受け止める。


「一度、地を整えねばならんな。」


 そう彼が呟くと制御を失っていた闘技場の地面があっという間に元に戻っていく。

 そしていつの間にか、再び元に戻った闘技場の中央に立たされていた。目の前には龍の姿へと変身したエルデの姿がある。


 彼は自分の従者であるジンのことを抱えながら闘技場全体に響く声で言った。


「此方の従者の気絶により、ラピスの従者の勝利だ!!」


 それと同時に今までで一番大きな歓声に闘技場が包まれる。


「これにて龍闘祭閉幕だ!!優勝したラピスの従者には此方から後程賞品を贈ろう。」


 お?賞品なんてあったのか。それは楽しみだな。


 今更ながらそんなものがあったとは……最初に言っててくれればよかったのに。

 まぁでも最後にサプライズ的な感じを演出したかったのかな?それならそれで構わないが……。


 さて、何をもらえるのか楽しみにしておこうか。

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