第206話 龍vs龍


「カオル、おぬしはどちらが勝つと思う?」


 仕合が始まるのを待っていると、不意にラピスが問いかけてくる。


「焔と海だからなぁ……まぁ相性的にタラッサの従者の方が勝ちそうだが。」


「相性……か。まぁ確かにそうやもしれんな。」


「……??」


「だが我はエンラの従者が圧勝する……と予想するぞ。」


「ほぉ?じゃあせっかくだしなんか賭けるか。」


「賭けか、悪くないな。何を賭ける?」


「じゃあ俺は……そうだな一週間ラピスの好きなデザートを作る。で、どうだ?」


「ほぉっ!?それは良い!!では我の予想が外れれば何をしようかの。」


 そうして悩むこと数十秒……。


「うむ!!では我はカオルの命令を一週間きく……としよう。」


「そんな大きく出て大丈夫か?」


「むっふふ、問題ない。この賭けは我の勝利が決まっておるからな。」


 自信満々に、そう言い放ったラピス。どうやら相当自信があるらしい。


「よしじゃあそれで決まりだ。」


「むっふふふ……我の勝利で好きな甘味を一週間も……堪らんのぉ。」


 そしていよいよタラッサの従者とエンラの従者の対決が始まった。


「ハッハァ~ッ!!行くぜぇ!!」


 エルデの掛け声と共に上空へと大きく舞い上がったのはタラッサの従者。一方のエンラの従者はそれを見上げるばかりで動かない。


 上空へと舞い上がったタラッサの従者は口を大きく開けると、闘技場の真ん中に立つエンラの従者へと向かってブレスの構えをとった。


 そして上空から放たれたのはウォーターカッターのような水の勢いを一点に収束させたブレス。

 エンラの従者はヒラリと何事もなかったかのようにそれを避けるが、着弾したそのブレスは闘技場の地面を切り裂きながらエンラの従者の後を追う。まるで追尾式のレーザーのようだ。


 しかし、それをエンラの従者はヒラリヒラリと軽々と避け、隙を見て上空でブレスを放つタラッサの従者へと向かっていく。

 エンラの従者が自分へと向かって来たことに、ニヤリと嫌な笑みを浮かべたタラッサの従者はブレスを向かってくるエンラの従者へと凪ぎ払うように放つ……。


 が、それに対してエンラの従者がとった行動は口からいくつかの火球を放つという行動のみ。

 何の意味もないように見えたその行動だが、ブレスが火球に当たった瞬間……火球は辺り一帯に濃い水蒸気を撒き散らしながら消えていく。その水蒸気に紛れて、エンラの従者は一瞬姿をくらました。


「チッ……どこにっ……ガァッ!?」


 闘技場全体が濃い霧のような水蒸気に包まれ何が起こっているのか察せずにいると、突然ズン……と地面が揺れた。

 そして徐々に晴れていく霧の中からぐったりとするタラッサの従者の頭を片手で掴むエンラの従者の姿が見えてきた。


 それと共にエルデが声をあげる。


「タラッサの従者気絶により、勝者はエンラの従者!!」


 再び大きな歓声が上がる最中エンラの従者は、ポイッとまるでゴミを投げ捨てるかのようにタラッサの従者を放り投げると俺の方を睨み付けてきた。


(あ、あれ?俺なんか悪いことしたかな……。)


 思わずそう思ってしまった俺だったが、そんな俺の心中を察することなく、ラピスは上機嫌で俺の背中を叩いてきた。


「むはははっ!!賭けは我の勝ちで良いなカオルよ?」


「あ、あぁ……。」


「むふふふふ、一週間か……何を頼もうかのぉ~。プリンは外せん、それにケーキも……いかん考えるだけでよだれが溢れてきそうだ。」


 結局賭けはラピスの勝ち。俺は一週間彼女のオーダー通りにデザートを作ることになった。


 それにしても、あのエンラの従者の龍……戦い方が上手かったな。炎が蒸発したときに発生する水蒸気を隠れ蓑にして一撃必殺の攻撃をかます……自分の技をよく理解していて、尚且つ相手の技も理解していないとできない芸当だ。次の俺の相手は彼女か、なかなか最初のリッカのように簡単にはいかなさそうだな。


 そんなことを思っていると、エルデが再び声をあげる。


「それでは第三戦の開幕だ。初出場のラピスの従者対エンラの従者……。両者闘技場の中央へ。」


「カオル、行くのだ!!」


「了解しましたっと。」


 俺は先ほど戦闘を終えたばかりのエンラの従者の前に立った。すると、彼女が口を開く。


「リッカのやつにやられなくて良かった。あんたはこの手で倒したかったのよ。」


「何か悪いことしましたかね?」


「えぇ、あんたは私の憧れの存在のエンラ様を誘惑した……それが罪なのよ!!」


 バサリと片翼で俺の身長以上ある翼を大きく広げる彼女は全身の赤い鱗をさらに真っ赤に発光させながら名を名乗る。


「私はエンラ様の忠実な配下にして右腕……ソニア!!あんたをここで黒焦げにしてやるわ。」


「お手柔らかにお願いします。」


 特に誘惑したつもりはないんだが……。彼女は俺の作った料理の虜になったエンラの姿を見て俺に怒りを抱いているらしい。


 兎も角彼女が怒っている原因もわかったところで、俺は剣を鞘から抜いて、既に臨戦態勢のソニアへと向かって構えるのだった。


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