第205話 vsリッカ


 エルデの戦闘開始の合図と共にリッカの全身の鱗が逆立ち、バチバチと放電を始める。そしてそれと共に俺へと振り下ろされる巨大な腕。


(こいつは……当たったら不味いな。)


 紙一重で俺がその攻撃を避けたその瞬間、時間の流れが突然遅くなる。


「っ!!」


 それと同時に俺は気がついた。攻撃の本命が腕の振り下ろしではなくその腕から放たれていただったことに。


「地面も伝ってくるのかよっ!!」


 よもや電撃が地面を伝うとは……どれだけ強い雷なんだあれは。


 遅くなった時間のなかでピョンと地面から飛び上がると、再び時間の流れがもとに戻る。

 そして先ほどリッカが腕を振り下ろした地面を中心にして、辺り一帯に雷撃が走る。


「あれ!?いないっす?」


 下をキョロキョロと見渡して、首をかしげるリッカの頭上から俺は峰打ちで剣を振り下ろした。


 ゴツン!!


「あいだっ!?」


 リッカの後頭部を捉えた一撃は手応え的にも威力充分。これでどうだろうか?


 攻撃を与えて着地すると、俺はふらつくリッカに目を向けた。どうやら脳震盪を起こしたらしいな。

 倒れるのも時間の問題か……と思っていると、突然彼女はブルブルと頭を振り、俺のことをキッと睨み付けた。


「あいたた……やったっすね~!!頭のなかにお星様が見えたっすよ!!」


 そうリッカは吠えると、口を大きく開く。すると、リッカの口の中心にバチバチと雷の球が出来ていく。


「ブレスか。」


 にしても予備動作が長いな。色んなところががら空きじゃないか。


 俺はブレスが来る前に剣を鞘に納めると、そのままブレスを放つ直前のリッカの顔目掛けて飛び上がる。

 そしてまた頭の後ろに回り込むと、彼女の首に鞘に納めた剣を回し入れて、それを両手で自分の体の方に引き寄せた。


「うぎゅっ!?」


 ギリギリと首を絞められ、カオルが潰れたときのような声をあげるリッカ。そしてそれと共にブレスがポシュッと情けない音を立てて消えてしまう。


「降参するか?」


 俺は首を絞めながら彼女に問いかける。すると彼女はギロリと此方に眼光を向けた後、全身を光らせ始める。


「舐めんじゃねぇぇぇぇっす!!」


「っ!!」


 その次の瞬間、リッカの全身から雷撃が放たれた。間一髪空中へと逃げた俺はそれを回避したが、空中にいる最中にリッカが向かってくる。


「ビリビリさせてやるっす!!」


 リッカが翼を羽ばたかせると、無数の雷の球が俺に向かって放たれた。


 こっちの方がブレスよりもコンパクトで攻撃には向いてると思うんだけどな。


 普段スリーやナインにボコボコにされているせいか、相手の攻撃に含まれている無駄な動きなどに目がいってしまう。

 これなら全然スリーやナインの方が強い。


 俺は自由落下しながら向かってくる雷の珠を避け、鞘に納めた剣を上段に構える。


 そして落下の速度と俺の体重を全て乗せた一撃をリッカの眉間に叩き込んでやった。


「んぎゃっ!?」


 さっきとは比べ物にならない確実な手応え。まぁ死んではいないだろうが気絶はするだろうな。


 俺が地面に降り立つと、その直後にリッカがズドン!!と地面を揺らし落ちてきた。


 エルデは落ちてきてピクリとも動かないリッカに歩み寄ると、一つ大きく頷き口を開く。


「グロムの従者気絶により、勝者は……ラピスの従者!!」


 それと共に会場から大きな歓声が響く。


 そしてその歓声で目を覚ましたリッカは、ハッとしながら辺りをキョロキョロと見渡した。


「も、もしかしてウチ……負けたっす?」


「あぁ、一瞬だが気絶していたからな。生殺与奪の権利はラピスの従者にあった。」


「うぁぁぁ……グロム様に怒られるっす~。」


「はははは、また次頑張れグロムの従者よ。」


 そしてとぼとぼとグロムのもとへと帰っていったリッカ。しかし彼女の予想とは裏腹にグロムは彼女の健闘を称えていた。その様子を見ていると、エルデが声をかけてくる。


「見事な戦いぶりだったな。」


「ありがとうございます。」


「まさか人の姿で本当に勝ってしまうとは、此方も初めて目にした。」


「龍の姿より小回りがきくので、戦い易いんですよ。」


「そうかそうか、それも戦術の一つというわけだ。此方も勉強になったぞ。さぁ次の仕合が控えている。今は体を休めておけ。」


「ありがとうございます。」


 ペコリとエルデに一礼した俺は、ラピスのもとへと戻る。すると、彼女は誇らしそうに仁王立ちしていた。


「むっふふ、流石はカオルだの。余裕だったか?」


「まぁ、普段相手してる人が人だからなぁ。」


「スリーとナインのことか。確かにあやつらは別次元の強さだからの。我でも敵わん!!」


「ははっ、ハッキリ言うんだな?」


「敵わんやつには逆らわん。それが長生きするコツだぞ?」


「それもそうだな。」


「おっ、早速次が始まるぞカオル。」


 俺とリッカが立ち去った闘技場では既に龍の姿へと変化したタラッサの従者とエンラの従者が向かい合っていた。


 海と焔……か相性的には海の方が有利そうだが、どんな戦いになるんだろうか。


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