第167話 結晶のゲートガーディアン


 水晶の生えている大地を進んでいると、やっといかにもゲートガーディアンらしい魔物が目の前に現れた。まるでドラゴンを思わせるような厳ついトカゲのような顔。そしてさっき倒した亀のように背中からは鋭い水晶が生えている。幸いにもドラゴンとは違い翼は生えておらず飛びながら襲い掛かってくるということはなさそうだ。だが、あの胴体から伸びている鋭い剣のような尻尾はヤバそうな感じがする。


「マスター、あの魔物がゲートガーディアンですね。」


「水晶の生えたトカゲか?」


。背中に水晶を背負い、あの剣のような尻尾で攻撃してくる魔物です。尻尾の切れ味はオリハルコンで造られた刃物にも劣らないと、記憶領域データベースに記録があります。」


「オリハルコンで造られた刃物に匹敵する切れ味か。」


 以前オリハルコンで造られたナイフを使って黄金林檎を切ったことがあるが……アレの切れ味はとんでもないものだったぞ?それに匹敵する切れ味を持ってて、加えてあの大きさときたら人体ぐらいならあっさり真っ二つにしてしまうかもしれない。


「マスター、お手伝いいたしましょうか?」


「いや、問題ない。さっきの手の痛みも引いたし、経験値も欲しいから俺がやる。」


 俺が一歩前に踏み出すと、クリスタルリザードは剣のような形状の尻尾を持ち上げて剣先をこちらに向けて威嚇してきた。


「多分このアーティファクトは効かないよな。いかにも電気に強そうだし。」


 腕にはめていた魔神の腕輪を外し、収納袋にしまう。そして手に魔力を籠めた俺は魔装で魔力の剣を作り出した。


「俺の魔力の剣と、お前のオリハルコンにも劣らないって言われてるその尻尾……どっちが切れ味がいいか勝負と洒落込もうか。」


 さらに足に魔力を籠めて一歩踏み出すと同時に、クリスタルリザードも動きだし、俺の魔装とクリスタルリザードの尻尾がぶつかり合い鍔迫り合いのような形に持ち込まれる。


「ぐっ!!ぐぅ……あぁっ!!」


 全力で力を込めているというのに、徐々に圧される。力では敵わないか。全身に力を入れて踏ん張っていると、ふとぶつかり合っていたクリスタルリザードの剣のような尻尾が紫色に怪しく光る。その瞬間いやな予感が俺の背筋を伝う。


(これはなんかヤバいっ!!)


 何かヤバそうな雰囲気を感じ取った俺は魔装を解除し対抗するのをやめて、クリスタルリザードの振り下ろされる尻尾の下から飛びのいた。


 すると次の瞬間、俺の嫌な予感が的中する。


 ザンッ!!


「っ!?」


 俺という受けがいなくなり、真っすぐに振り下ろされたクリスタルリザードの尻尾は、まるで熱したナイフでバターを切るが如く、あっさりと地面を切り裂いた。


「ふぅ~……流石オリハルコンに匹敵するっていう切れ味だな。」


 足でトントンと地面を叩いてみるが、今俺たちが立っている場所は普通の土壌ではない。巨大な石と鉱石が混ざり合った岩盤のようなものの上に俺たちは立っている。無論並みの刃物で切れるようなものじゃない。


 クリスタルリザードの尻尾の切れ味に驚いていると、ヤツはスルリと自分の尻尾を切り裂いた地面から引き抜いた。その刃は傷一つついていないどころか刃こぼれ一つしていない。


「真正面からあの尻尾と打ち合うのは無謀だな。」


 そう判断した俺はもう一度魔装で剣を作りだしてクリスタルリザードへと接近する。もちろんヤツは迎撃するべく自慢の武器である尻尾を横薙ぎにして俺のことを切り裂こうとしてきた。その攻撃をスライディングしながら低姿勢で躱しクリスタルリザードの眼前へと俺は迫る。


「俺のもなかなか切れるぞッ!!」


 そして魔装で作り出した剣をクリスタルリザードの顔面へと向かって振り下ろす。もう避けることもかなわないだろうと確信したが、魔装の剣がヤツの頭を捉えた瞬間……。


 ガキッ!!


「っ!!堅ッ……!!」


 振り下ろした魔装の剣はクリスタルリザードの硬い表皮に防がれ消えてしまう。一瞬俺が驚いていると頭上からやつの尻尾が振り下ろされた。


「クソっ!!」


 横に飛び退くと、先ほどまで俺がいた位置に深々とクリスタルリザードの尻尾が突き刺さる。それが抜ける前に魔装での攻撃から、魔力爆発での攻撃に攻撃方法を切り替えた俺がヤツに再び迫った。


 しかし……。


 ザザザザザザッ!!!!


「~~~っ!!おぉっ!?!?」


 脇腹へと向かって迫っていた俺に向かって地面を切り裂きながらやつの尻尾が近づかせまいと迫る。急停止すると目の前を地面を切り裂きながらクリスタルリザードの尻尾が通り過ぎていく。


 そしてヤツは悠々と態勢を変えてこちらを向いた。


「まさに攻守一体とはこのことだな。」


 真正面からでも横からでも攻撃する隙は無い。それに攻撃できたとしてもヤツは堅すぎる。さてさてどうしたものかな。


 少し手こずっていると、ふと俺の脳裏に龍の姿に戻ったラピスの姿が思い浮かんできた。藍色の鱗で表皮を覆っている彼女だが、ある一部分は鱗を纏っていなかったことを思い出す。


 そしてクリスタルリザードのその部位と同じところに目をやってみると……。


「ははぁ?なるほどな。」


 俺はある突破口を見つけ出すと、今度は両手に魔装で剣を作り出した。

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