第153話 乙女で小さなカーラ


 そして幻惑草を集め終わるころには、再び辺りに深い霧が充満していた。


「いつの間にかまた霧が……。」


「あくまでも一時的に霧を払っただけだからねぇ。すぐに元通りになるんだよ。」


「この霧の中にそのマジックシープも?」


「あぁ、いるはずだよ。マジックシープはまぁ厄介な魔物でねぇ、辺りの霧に含まれてる濃い魔素に同化してるから探知魔法にも引っかからな………………。」


 カーラがそう言っている最中にボスッ……っという音とともにカーラの体が少し揺れた。


「って言ってる間に攻撃してきたねぇ。」


 やれやれと言った様子でカーラはおもむろに手を伸ばすと腰辺りで何かを鷲掴みにした。


「まぁアタシの話の途中で都合よく現れてくれたねぇ。」


 そしてくるりと彼女がこちらを振り返ると、彼女の手には可愛らしいモフモフの毛皮を全身に身に纏った羊のような魔物がいた。カーラの手から逃れようと体を動かしてもがいているが、そのたびに体の毛皮がモフモフと揺れて愛らしい。


「厄介な魔物って聞いてましたけど、こうしてみると可愛いですね。」


「このマジックシープ自体には人を殺せるような力はないんだよ。弱い魔物だけど、ただ自分の縄張りに入ってきた何者かにはこうやって体当たりしてくる。」


「へぇ~……。」


 間近でまじまじと眺めてみると、短い脚をばたつかせて威嚇してくる。しかしそれすらも可愛く見える。本当に害のない魔物なのかもしれない。


「それで、こいつの皮と角が必要なんですよね?」


「そ、まぁこっちに害のない魔物だから殺しはしないけど、体当たりしてきたお返しに、素材だけはしっかりと貰うよ。」


 するとカーラはマジックシープに杖を向けると、ポツリと呟いた。


「カット。」


「メッ!?」


 カーラがカットと呟いた瞬間、マジックシープのモフモフの毛皮と角だけが綺麗に刈り取られ、丸裸になってしまう。


「ほらお逃げ、また毛皮をしっかりと蓄えとくんだよ。」


「メェェェェェッ!!」


 身ぐるみをはがされてしまったマジックシープは霧の中へと一目散に逃げて行った。


「魔物にもあんなに可愛いやつもいるんですね。」


「まぁ、魔物にもいろんな種類があるってことさ。臆病な魔物だったり好戦的な魔物だったりね。」


 てっきり、この世界にいる魔物という存在は人に害のある魔物ばかりだと思っていたが……あんな癒し系の魔物もいるんだな。また一つ勉強になった。


「さて、必要な素材も手に入ったことだし、ここにもう用はないから帰るよ。」


「わかりました。」


 そしてカーラはまた杖で地面にトン……と叩くと、俺と彼女の足元に魔法陣が描かれた。そしてまた光に包まれると次の瞬間には彼女の家へと戻ってきていた。


「さてっと、じゃあさっそく制作に取り掛かろうかねぇ。」


「どのぐらい時間がかかりそうですか?」


「あぁ、すぐできるよ。編んだりするわけじゃなく魔法で全部完成させるからね。」


 するとカーラはテーブルの上に先ほどとってきた素材を並べると杖をかざした。


「クリエイト。」


 杖をかざしてそうつぶやくと素材が光に包まれ、次の瞬間にはテーブルの上に純白のマフラーのようなものが出来上がっていた。


 それをカーラは手に取るとまじまじと見つめた。


「我ながら流石の出来栄えだねぇ。こいつを首にかければ認識阻害の魔法がかかって別人に見えるはずだよ。」


「魔道具ってそんな簡単にできるものなんですね。」


「まぁアタシだから使える魔法さ。このクリエイトって魔法はアタシが魔道具を作るためだけに生み出した魔法……だからアタシ以外には使えない。長いこと魔道具を作り続けたおかげで使えるようになった魔法さ。」


「なるほど、カーラさんの努力の結晶ってわけですね。」


「そんなたいそうなもんじゃないよ。ただちょっと魔道具を作るのが簡単ってだけさ。」


「それでも他の人にはできないことなんですからすごいですよ。」


 俺がそう素直な感想を彼女に言うと、彼女は少し恥ずかしそうな仕草を見せた。


「ま、まぁそんな風に褒められると悪い気はしないねぇ。」


 少し顔を赤くして頬を掻く彼女。その仕草はやっぱり乙女という言葉がふさわしい。


「ひ、一先ずこの魔法の話は置いといてだ。こいつの使い方だけど、こうやって首にかけるだけさ。」


 そしてカーラがそのマフラーを首にかけると、突然顔が別人のものに変わる。しかしその大きな体までは認識阻害の魔道具でも認識を変えることはできないようだ。


「身長とかは変わらないんですね?」


「身長も変えたいなら縮小の魔法を使えば解決さ。ミニマム。」


 彼女が縮小の魔法らしき言葉を唱えると、突然身長が一気に低くなりまるで子供のような見た目になってしまう。その代わり、着ていたローブがだぼだぼになってる。


「おぉ!!小さくなりましたね。」


「な、なんかそういう風に見下ろされるとちょっと恥ずかしいねぇ。」


「撫でてみてもいいですか?」


「え?撫でるって、頭をかい?」


「はい。カーラさんがちっちゃくなってる姿ってなかなか貴重なので……。」


「ま、まぁ別に構わないよ。ほら……でもちょっとだけだよ。」


「ありがとうございます。」


 そして小さくなったカーラの頭をなでると彼女は恥ずかしくなったらしく両手で顔を覆った。カーラが俺よりも身長が小さくなることなんてまずないから、この機会にできることを楽しんでおこう。


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