第152話 カーラと共に
いくつかカーラに変装用の魔道具を見せてもらったが、説明の後に彼女も言っている通り、どれも実用的ではないものばかりだった。
「変装の魔道具って作るのが難しいんですね。」
「まぁね。姿を完全に別人に変えるような強力な魔法を道具に籠めるには結構強い素材が必要なのさ。だから今ここにある道具は全部中途半端な完成度の物ばかり。」
「ってことは、強い魔法を籠められる強い素材をとってくれば作れるんですね?」
俺がそう言うと、カーラはニヤリと笑って頷いた。
「その通りだよ。」
「具体的に必要な素材ってわかります?」
「もちろんさ、必要なのは全部で3つ、マジックシープの毛皮、角、幻惑草。」
「マジックシープ?幻惑草?」
カーラが提示してきた素材は、どれも聞いたことのない素材の名前だった。
「聞いたことがないですね。」
「まぁ無理はないさ、どっちも市場には出回らないものだからねぇ。それに加えてアタシみたいな魔法を研究してるような奴にしか需要がないときたもんだ。メジャーなもんではないのさ。」
「でもカーラさんはそれがある場所とか知ってたり?」
「もちろん知ってるよ。今日は暇だったし、何なら今から一緒に行くかい?」
「お願いします。」
「それじゃあちょっくら行こうかねぇ。」
カーラは立て掛けてあった自分の杖を手に引き寄せると、立ち上がって床を杖でトン……と叩いた。すると俺とカーラの足元に大きな魔法陣が現れる。
「行き先は……ミストフォレスト。」
そうカーラが呟いた瞬間、魔法陣から眩い光が溢れ視界が一瞬眩んだ。そして次に目を開けた時、俺とカーラは辺りが深い霧に包まれた森のような場所に転移してきていた。
「ここは?」
「ミストフォレスト、通称
「天然の迷路ですか。」
「そ、しかも間違った道を進むと強制的に森の入り口に戻される厄介な森なんだ。」
「うぇぇ……。」
間違った道を進むと元の場所に戻される森か。とんでもなく面倒じゃないか、まず俺一人で来てたら攻略は難しかっただろうな。カーラと一緒に来て正解だった。ってか多分これを分かっててカーラは一緒に行くって言ってくれたんだろう。
「それでどうやって正解の道を見分けるんです?」
「霧に含まれてる魔素が濃いほうに進むのさ。」
「魔素が濃いほうへ?」
「これに関しては魔力感知ってスキルがないと判別は難しいね。カオルは持ってないだろ?」
「持ってないですね。」
「ま、アタシが持ってるから今回は問題ないさ。アタシを見失わないようにしっかり後ろに着いてくるんだよ?」
「わかりました。」
そして先頭に立って進み始めたカーラの後ろに着いてミストフォレストを進む。しかし進んではいるのだろうがあたりの景色が全く変わらないから進んでいるという実感が湧かない。それがまた不安を煽ってくる。
ミストフォレストを進んでいる最中カーラがとあることを問いかけてきた。
「そういえばアタシのノートは役に立ったかい?」
「もうすごく助かりました。」
「魔力の細分化を会得するのには時間がかかるだろうけど、あきらめずに頑張りなよ?」
「実は今、魔力の細分化の応用編のところを読んでて……。」
「え?根本的な魔力の細分化はどうしたんだい?」
「それはなんかすぐにスキルとして会得できました。」
「えぇ!?カオル、あんたってやつはつくづく規格外だねぇ。普通魔力の細分化のスキルを会得するのにはかなり時間がかかるもんなんだよ?」
「カーラさんのノートがわかりやすかったおかげですよ。」
「とてもじゃあないけどそれだけが要因とは思えないけどねぇ。まぁ獲得おめでとう。」
どこか少し飽きれたようにカーラは俺が魔力の細分化を得たことを祝福してくる。
それから他愛のない会話を挟みながらもミストフォレストの中を進んでいると、府とカーラが足を止めた。
「この辺だったような気がするんだけどねぇ。いよっ!!」
足を止めたカーラが地面を杖でトンと叩くとぶわっ!!と辺りの霧が晴れ、足元に綺麗な藍色の花畑が広がっていた。
「この花は……もしかして?」
「そう、目的の幻惑草だよ。」
こんなに綺麗な花が幻惑草なんていかにも危なそうな名前が付けられてるのか。
綺麗な花畑の景色に見とれていると、カーラが幻惑草を一つ手に取りながら言った。
「ちなみにこの幻惑草はただこうして手に取るぐらいじゃ何ともないんだけど、すりつぶしてエキスを取り出してそれを体内に取り込むと……この花の名の通り幻惑に囚われるんだ。」
「そ、そうなんですね。」
「まぁあと10本ぐらい摘めば足りるだろうから、カオルも手伝ってくれ。」
「わかりました。」
そして幻惑草を摘んでいた俺とカーラ。
再び辺りに立ち込め始めた霧の中から何かがこちらに視線を向けていた。
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