第132話 ダンジョンへ


 原初の魔王に関する記述のあったあの本を読み終えた俺は、新たな疑問を抱えて自室へと戻った。


「一つ何かを学べんだかと思ったらまた一つわからないことが増えた。」


 あの本の最後に書いてあった……原初の魔王ライラは9人目の勇者とともに姿を消したという記述。それについても何か情報がないかと思いあの後書庫を探し回ったが、そのことに関してのハッキリとした事実はどの歴史の本にも書いてはなかった。書いてあったとしても憶測の域を出ないものばかりで、どれも信憑性がない。


「原初の魔王とその9人目の勇者がその後どうなったかってのは当人同士しか知らない謎になってしまってるんだな。」


 だが、その後魔族側にも人間側にも新たな魔王、勇者が誕生したということはハッキリしている。だから多くの本でも二人は相打ちになったのではないか……という憶測が書かれていた。


「これぞまさに真相は闇の中……って感じか。」


 これ以上考えても意味がないことを悟ると、俺はベッドにゴロンと横になった。そして少し仮眠をとろうかとしたとき……。


 コンコン。


「ん?」


 突然部屋の扉がノックされた。誰が来たのだろうかと思って起き上がろうとすると、ドア越しに声が聞こえてきた。


「マスター、ナインです。少々お時間よろしいでしょうか?」


「あぁ、大丈夫だ。」


「失礼します。」


 ナインは部屋に入ってくると、さっそく訪ねてきた用件を話し始める。


「マスター、一つご報告があります。」


「報告?」


 何かナインに頼んでたかな?特にそんな記憶はないんだが……。


「はい、ナインとは別の人造人間アンドロイドが一体起動した反応を検知しました。」


「ナインとは別のアンドロイドが?」


 確か俺の記憶が正しければナインを含めて全部で10体のアンドロイドがいるって話だったよな?そのうちのもう一体ってことか。


「詳しい番号までは不明ですがナインと同じ信号を地下より検知しました。」


「たしか、ナインたちを作ったミラ博士は……君たちをダンジョンの中に隠したって言ってたよな?」


「はい、ですので今回もダンジョンを攻略してもらうことになります。」


「そうか。」


 ダンジョン攻略ってなると、少しばかり準備を整えないといけないな。そう思っていると、ナインは言った。


「マスター、お時間があるようでしたら今からでも早急に攻略したいのですが……。」


「えっ?今から!?」


「はい。マスター以外の何者かに他の人造人間アンドロイドを奪われるわけにはいきませんから。」


「でも、一応……ある程度準備はしていかないと、ダンジョンで野宿なんてこともあるだろ?」


「そこに関しては問題ないかと。ナインも一緒に参りますので、予想攻略時間は約1時間~2時間ほどかと。」


 1時間から2時間程度か……。まぁナインが同伴してくれるのなら手早い攻略も可能……かもな。でもまだ一つだけ問題がある。


「一つ聞きたいんだが、ダンジョンの中の時間軸は大丈夫なのか?」


 ダンジョンに関する知識の一つで、ダンジョンの中の時間は外の時間と異なる場合がある。以前ナインがいたダンジョンも時間の流れが異なっていた。


「問題ありません。ナインが予想した攻略時間は現実世界での経過時間ですので。」


「そ、そうか。」


「仮にもしダンジョン内で予想時間に支障をきたす事態が発生した場合は、すぐにお知らせいたします。」


「う~ん、わかった。じゃあ行ってみるか。」


 最悪時間内で攻略が無理だったらナインの力を使って帰ってくればいいし……。まぁ何とかなるだろ。


「感謝しますマスター。それでは反応があったポイントまで道を開きます。」


 そしてナインは機械仕掛けの剣を手にすると、空間を切り裂いた。


「前回のようなことを引き起こさないようナインが先に行って安全を確保いたしますので、マスターはナインの後に続いてください。」


「わかった。」


 ナインが言ってる前回のようなことってのはレッドスキンを倒しに行ったときのことだな。あの時はナインが切り裂いた空間を通った瞬間にレッドスキンと鉢合わせた。まぁあれはただの事故だったから特に気にする必要はないって前にも言ったんだが……ナインはまだ気にしてるみたいだ。


 そしてナインが先に入っていったのを確認して、俺も空間に足を踏み入れるとその先でナインが待っていた。


「マスター周辺に強大な生体反応はありません。安全です。」


「あぁ、ありがとう。」


「そしてあそこがダンジョンの入り口です。」


 そう言ってナインが指さした方向には、以前攻略したダンジョンと同じような地下へと続く階段があった。


「ナインがいたダンジョンの入り口と似てるな。」


「ミラ博士はナインたち人造人間アンドロイドをダンジョンの奥に配置しましたが、ミラ博士はなるべく同じ性質のダンジョンを選んでナインたちを配置しました。なので入り口や内部構造などなどが似ているのは必然のことです。」


「そういうことか。」


 なんか納得。


 まぁ以前と同じようなダンジョンなら問題はないな。敵の強さも、階層も……。


「さて、じゃあパパっと攻略しようか。」


「はいマスター。」


 そして俺はナインと共にダンジョンの中へと足を踏み入れたのだった。


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