第126話 遮る者


 地面を蹴って飛び上がった俺は太い木の枝を飛び移りながら頂上を目指す。こういう軽く人間離れした芸当ができるようになったのも、この世界に来たおかげだ。


「もう少しで頂上だな。」


 上を見上げてみれば、遠目で見えた巨大な花の横に並んでいた巨大な葉っぱが見えてきていた。


「あれに飛び乗れれば……行ける!!」


 ぴょんぴょんと枝から枝へと飛び移り、最も頂上に近い枝に足をつけると上へと突き抜ける勢いで俺は飛び上がった。すると、勢い余って軽くこの木の頂上を飛び越えてしまった。


「おっとと……。」


 空中で態勢を整え巨大な葉っぱの上に着地すると、目の前には爽やかな柑橘系のような香りを放つ巨大なオレンジ色な花が……。


「これがサンサンフラワーだな。」


 ゆっくりと葉っぱの上を歩いて近づいていくと、サンサンフラワーがあるほうから声が聞こえた。


「やっと来たか。」


「っ!?」


 突然聞こえてきた男の声に驚き立ち止まると、サンサンフラワーの横から黒いローブを身に纏い、巨大な剣を背中に背負った男が現れた。


「だ、誰だ?」


「名乗る名はない。さて、魔王の遣いの人間……お前はサンサンフルーツを求めてここに来たんだな?」


「……そうだが?」


「ならばここから先に行かせるわけにはいかない。これ以上魔王を成長させてしまうと世界のバランスが崩れるからな。」


 そう言って男が背中の剣に手をかけたその瞬間……突然俺の頭の中に映像が流れ込んできた。


 その映像は、男が剣を抜き軽く振るった瞬間……このスカイフォレスト全体が業火に包まれている映像だった。


(まさかこの映像はこれから起こる未来の映像なのか?)


 なぜこんなものが見えたのかはわからないが、その映像が終わった瞬間スキルの危険予知が発動し時間の流れがピタリと止まる。


「とにかくあの剣を抜かせちゃいけない!!」


 止まった時間の中で俺は男に向かって走りだすと、男が手にかけていた剣をぶんどった。すると時間の流れが元に戻っていく。


「っ!?何が起こった!?」


 突然剣がなくなったことに驚く男。そして奴は俺がその剣を手に持っていることに気が付いた。


「いつの間に俺の剣を……。」


「お前がこの剣を抜いたらやばいことが起こりそうだからな、先に没収させてもらったよ。」


「チィッ……。」


(明らかに焦ってるな。やっぱりこいつで何かをしようとしてたのは間違いない。ならこいつを今……やつに返すのはまずい。)


「そいつを返してもらおうか?」


 男は敵意をむき出しにしながらそう言ってきた。


 それに対する答えはもちろん……。


「断る。」


「なら貴様を殺して取り戻すまでだ!!」


 突然目の前から姿を消した男は、一瞬で俺の懐に潜り込んできた。


「死ねっ!!」


 ブン……と魔力をまとった貫手を放ってくる男。俺はその腕を叩き落とし、お返しといわんばかりに顔面に蹴りを叩き込んでやった。


「っぐぁっ!!」


 派手に吹き飛び落っこちそうになった男は、間一髪足場にしていた葉っぱに掴まり這い上がってくる。


「やってくれたな。たかが人間の分際で……。俺をここまでコケにするとは。」


 男は口の中が切れて垂れている血を拭うと、怒りのこもった口調でこちらを睨みつけてきた。すると、突然紫色の稲妻のような何かがバチバチと男の体の周りに漂い始める。


(あれはなんだ?稲妻?みたいなのが体の周りに……。)


 男の様子が変わったことに警戒していると、突然男はこちらを指さしてポツリと呟いた。


「雷弾。」


「っ!?」


 一瞬男の指先が光ったかと思えば、俺の頬に焼けるような痺れるような痛みが走る。


「痛いだろう?俺をコケにしてくれた礼はたっぷりとさせてもらう。」


 そして再び男の指先が光ると俺の足や腕などの致命傷にならない部分に的確に雷弾とやらが命中する。


「ぐっ……。」


(この攻撃には危険予知は発動しないのか?命を狙わない弄ぶための攻撃だからか?)


「無様だな。魔王に媚び諂う貴様にはそうやって地にはいつくばっている姿がお似合いだ。」


 そう罵りながら男はゆっくりとこちらに近づいてくる。


「さて、剣は返してもらおうか。」


 手放してしまい落ちていた剣に手を伸ばそうとしている男、その手が剣に届く刹那俺は無理やり痛む体を動かした。


「させるか……よっ!!」


「チィィッ!!邪魔を……するなっ!!」


「がっ!!」


 男の下からの蹴り上げが俺の下あごをとらえる。大きく弾き飛ばされ、そのまま落下しそうになっていた俺は突然誰かに抱きとめられた。


「ぐっ……。」


「マスターご無事ですか?」


「ナインか、なんとか大丈夫だ。」


「ここから先はナインにお任せください。」


「気をつけろナイン、あいつの剣は……。」


「問題ありません。お任せを。」


 そしてナインはゆっくりと俺のことを下すと、機械仕掛けの剣を手に顕現させた。


「貴様は何者だ?」


「答える義務はありません。」


「ふん?まぁいい。こいつが俺の手に戻った以上、お前たちがここでできることはもう何もない。」


 男はそう言って剣を抜くと、その剣の刀身に真っ赤な炎が宿った。


「すべてを燃やし尽くせ。灰塵っ!!」


 炎を纏った剣を男が振るおうとした瞬間、その剣に突然鎖のようなものが巻き付き動きを止めた。そして刀身が纏っていた炎をも鎖が吸い込んでいく。


「な、なんだこれはっ!?」


 突然剣が機能しなくなったことに驚いている男にナインはゆっくりと近づいていく。


「そのアーティファクトの機能を封印しました。これでもう二度とそれを使うことはできません。」


「そんなバカなことがっ!!」


「では排除します。」


 そしてナインが剣を振るおうとしたとき、ものすごい風圧と共に何か巨大な何かが現れ彼女の目の前から男が何かに連れ去られていった。


「……。」


 ナインはそれを追いかけることなく俺のほうに歩み寄ってくる。


「マスター、動けますか?」


「あぁ、もう痛みは引いたよ。助けてくれてありがとな。」


「これもナインの使命ですので。」


 俺はゆっくりと立ち上がると、ナインにお礼を言った。


「あいつは?」


「何かに連れ去られました。」


「連れ去られた?」


「はい。」


「そうか……。」


 兎にも角にも危機は去ったか。なら早いところサンサンフルーツを見つけてしまおう。


 それにしてもあいつは何者だったんだ?こちらの邪魔をしてきたところを見るに敵には間違いないんだが……。ひとまずあいつのことは後で考えようか。


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