第124話 スカイフォレスト食べ歩きツアー


 ラピスと共にスカイフォレストの大地の森の中へと足を踏み入れるとそこにはとんでもない光景が広がっていた。


「うぉぉ……まさかこれ、全部野菜か!?」


 スカイフォレストの森の中は、地上の森とはまったく様相が違い……あるものすべてが食べられそうなものばかりだった。地から生えているのは根菜のような野菜に始まり、蔓野菜などもひしめいていた。

 そして周りの大木にはみずみずしそうで、食欲をそそられる色とりどりの果実が実っている。


「ほぉ~、ここに住めば食い物には当分困りそうにないな。」


「確かにな。」


 にしても、こんなに野菜や果物が生えているのにここには動物は住んでいないのか?鳥とかがいてもおかしくはないんだが、鳴き声も聞こえなければ、ほかの生き物の気配もない。

 植物が実を実らせるためには受粉が必要なはず、だとすれば花粉を運ぶ生き物がいるはずなんだがな。


 そう思って辺りを見渡していると、あるものが目に入った。


「ん?」


 俺の目に映ったのは、羽の生えた小人がせっせと花から花へと渡り歩いている光景だった。


「あれは?」


「ふむ、精霊族の一種だな。」


 俺の疑問にラピスはそう答える。


「精霊族は普段人間や魔物が訪れないような場所に住むと聞く。おそらくはこの場所自体が人や魔物が訪れない場所である故住み着いておるのだろう。」


「ほぉ~?」


 まじまじと精霊族の小人を眺めていると、こちらの視線に気が付いたのか恥ずかしがるようにしてどこかへと消えてしまった。


「あの子たちがここの野菜や果物を育ててるって仕組みか。」


 なんかこう……彼らが育てた野菜をタダでもらって行ってしまうのは申し訳ない気持ちがあるが、どうしても食べてみたい。


 俺はパンと合掌して感謝の気持ちを籠めながら地面に生えていた大根を引っこ抜いた。


「おぉ……ずっしりとしていていい大根だな。」


 手に持ってまず伝わってきたのはすごい重量感。


「味は……どうだろう?」


 アーティファクトを取り出してスッと大根に向かって振るうと、頭の中でイメージしていた通りにするすると大根が桂剝きされていく。そして皮をむいた大根に俺はかぶりついた。


「んっ!?」


 齧った瞬間にあふれ出すうまみの凝縮された水分……。今まで食べてきた大根とはモノがまるで違う。こいつは確かにここの野菜を食べれば地上の野菜が食べられなくなるって話は頷けるな。


 普通なら齧っているうちに辛くなってくるものだが、この大根は一向にそんな気配はない。そして気が付けば大きな大根を丸齧りしてあっという間に食べつくしてしまっていた。


「あ、もう無くなった。」


「ずるいぞカオル!!我にも食わせるのだ!!」


 俺が食べるのを横で見ていたラピスは我慢が利かない様子で言った。


「はいはいっと。」


 食べたくてうずうずしている彼女に皮をむいた大根を手渡すと、あろうことか彼女はそれを一口で食べてしまった。


「むふふふふ~♪美味いのだ。」


「ラピスが野菜を食って美味いっていうのはなかなか珍しいな。」


「この野菜には青臭さもなければ土臭さもないのだ。つまり我が野菜として嫌悪する要素が一つもない!!」


「なるほどな。」


「おいカオルあれも食ってみるぞ!!ついてくるのだ!!」


 そしてラピスに連れまわされ、スカイフォレストに生えている野菜と果物を何種類も食べ比べして回った。


 その結果……。


「むふぅ……よもや野菜と果物だけでこんなに満足感が得られるとはな。」


「ちょっと俺も食いすぎたかもしれないな。」


 満腹になった俺たちは、ふかふかの芝生に体を預け寝転がっていた。


「にしても、あれだけ探したけどサンサンフルーツは見つかんなかったな。」


「うむぅ……確かにそれらしきものを食った覚えはないのだ。」


「可能性があるとすれば……まだ探してない場所があるとか?」


 このスカイフォレストの大部分は探索したはずなんだけどな……。後探してない場所といえばどこだ?


 思考を巡らせていると、俺はこのスカイフォレストの下部分に突き出ていた巨大な根っこのことを思い出した。


「そういえばあの根っこは一体何の根っこなんだ?」


 あれだけ太い根っこならとんでもなく大きな木があってもおかしくないんだが……。


「まさか、サンサンフルーツ一つを実らせるためにあれだけ大きな根っこが存在しているのか?」


 そう考えていくと、サンサンフルーツがあるのはこの大地で最も太陽の光が当たり栄養が集まる場所だ。


「でもそれがどこなのかさっぱりわかんないんだよなぁ。」


 頭を悩ませていると、俺の頭上を精霊族の小人が通り過ぎていくのが見えた。


「あの精霊族の小人を上手いこと尾行できれば、わかるか?」


「気配に敏感な奴らを尾行するのは至難の業だぞ?」


「でも今のところそれしか方法は思いつかないし、サンサンフルーツのある場所も検討がつかない。とにかくやってみよう。」


 このスカイフォレストを知り尽くしているのはここに住んでいる精霊族の小人たちのみだ。まずは彼らの動向を把握することから始めてみよう。

 そう思い立った俺は先ほど頭上を通り過ぎて行った精霊族の後を悟られないように尾行するのだった。

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