第118話 勇者を狙うモノ


 ズンッ!!


 魔王城が大きな衝撃波によって大きく揺れる。


「な、なんだ!?」


「この魔力は……まさか。」


 今の衝撃で何かを感じ取ったジャックは俺に向かって言った。


「カオル様、カーラ様のもとに急いだほうが良いかもしれません。」


「えっ!?」


「今の魔力はカーラ様とステラ様の魔力でした。この二つがぶつかり合ったということは……おそらく戦いに発展しているかと。」


「カナンが隠れていることがバレたってことですか!?」


「おそらくは……。」


「お、俺行ってきます!!」


 居ても立ってもいられずに、カーラのもとへと向かおうとした俺をジャックが一度引き留めた。


「カオル様そのままのお姿で向かわれるのは少しまずいかと。」


 確かに彼の言うことは一理ある。俺がここで料理人として働いていることをステラは知っているし、顔もばっちり見られてる。


「でもどうすれば……。」


「カオル様、闇オークションの時に渡された仮面はお持ちですかな?」


「それなら一応持ってますけど、これで何とかなります?」


「その仮面には強力な認識阻害魔法がかけられておりまして、仮面を破壊しない限り中の人物が誰なのか知ることができないようになっているのです。」


「なるほど、わかりました。」


 俺は彼のアドバイス通りに仮面を被ると、城を飛び出した。






「フレイムサイクロン!!」


「ウォーターベール!!」


 カーラとステラの魔法がぶつかり合い、再び大きな衝撃波が走る。


「ハハハハ、引き篭って魔道具を作っているだけなのに、魔法の腕は衰えていないようだなカーラ!!」


「はん、舐めんじゃないよ。アタシは生涯現役さ。」


 帽子の鍔に手をかけながらカーラはステラに向かって言った。


「生涯現役……か。笑わせてくれる、お前の生はここで終わりだ。この私が終わらせるからなっ!!」


 そしてステラは再び杖に魔力を籠めると言葉を紡いだ。


「出でよ……我が分身。」


 彼女がそう言葉を紡ぐと、彼女の目の前にいくつもの魔法陣が現れ、そこからステラと同じ姿をした者が現れた。

 その魔法を見てカーラは眉をしかめた。


「……ホムンクルスかい。」


「流石に知っているか。」


「あぁ、なにせのひとつに登録されてる魔法だからねぇ。それを使ったなら……殺されても文句は言えないよ?」


「ハハハハ、言わないさ。死ぬのは……貴様だからなカーラ!!」


 ステラが腕を振り上げると同時に、彼女が生み出したホムンクルス達が一斉にカーラに杖を向け、詠唱を始める。


(ッチ……ステラのホムンクルスが5体。そんでもって今唱えてるこの呪文は……多重詠唱魔法。流石にいくらなんでもそれはアタシでも受け止められないねぇ。)


 そしてステラとホムンクルスの多重詠唱が終わろうとしたその時だった。


 スパン!!


「むっ!?」


 何かを切り裂く音と共に、ホムンクルス達が持っていた杖が一斉に真っ二つに切られたのだ。


 そのせいで詠唱は失敗に終わり、カーラとステラの間に俺は降り立った。


 すると、ステラは警戒心を剥き出しにして問いかけてくる。


「……何者だ貴様。」


「お前と同じ、勇者を狙う者……と答えておこう。」


「なぜ貴様のようなものが勇者を狙う。それより、もともと勇者はヒュマノののものだ。」


「いや、違うな。」


 ステラのその言葉に俺は首を横に振った。


「勇者という存在は勇者自身のものだ。お前達が束縛して良いものじゃない。」


 そしてチラリとカーラの方を振り返ると、彼女もまた俺に警戒心を露にしていた。


「あ、あんた……何者だい?」


「……。」


 俺はわざとよく見えるように腰に差していたアーティファクトを抜いて見せた。

 すると、彼女は何かに気付く。


 それを横目で確認した俺はステラへと向き直った。


「さ……どうする?」


「どうするもなにもない。貴様もカーラも打ち倒し、勇者を奪還するまで!!」


 そしてまた魔法の詠唱を始めたステラ。その隙にカーラに俺はここから離れるように手で合図を送る。

 合図に気が付いた彼女は後ろに大きく飛び退いた。


(さて、これで思う存分やれるな。)


 それと同時にステラは詠唱を終え、杖をこちらへと向けてきた。


「潰れて消えろ!!メテオ!!」


 彼女が杖を振り下ろすと同時に俺の上空に大きな魔法陣が現れ、そこから巨大な隕石のようなものが顔を出した。


「良いのか?あれがマトモに直撃したら……勇者もただではすまないぞ?」


「問題ない。勇者は魔王が手を下さなければ死なないからな。」


「なるほど。」


(ちっともカナンの心配なんざしてないって訳か。)


 魔法陣から現れた隕石が真上に迫った瞬間、時間の流れがピタリと止まる。


 危険予知の発動だ。


「隕石は切ったことはないが……。」


 俺は右手に構えたアーティファクトに魔力を思い切り籠めると隕石に向かって一閃する。


「念のためもう一回っ!!」


 切り返すようにアーティファクトを薙ぐと、時間の流れがもとに戻り始める。


 それと同時に……上から降ってきていた隕石が一気に細切れになり、そこから更に砂粒ほどの大きさまで細かく切られた。


「なっ……んだと?」


 もとは隕石だった砂粒が地上に落ちてきて、大きな砂煙を上げステラの視界が奪われる。


 その隙に俺は彼女の背後をとり、首もとにアーティファクトを突きつけた。


「チェックメイトだ。」

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