第103話 幻獣の卵を狙うもの


 薄暗い夜道を歩いて帰っている最中、自分が闇オークションにいた時から仮面をつけっぱなしだったことに気が付いた。


「そういえばこれ……。返さなくてもいいのか?」


 あのバーのバーテンダーにも特に返してくれとか言われなかったし、まぁまた後で来ることがあったらその時にでも聞いてみようか。


 身に着けていた仮面を外して収納袋にしまおうとしたその時だった。


「ん?」


 突然当たりの時間の流れがゆっくりになる。これは危険予知が発動しているサインだ。


 ふと後ろを振り返ってみれば、細い路地から何やら手に鈍く光るものを持った男が何人もこちらに向かって飛び出してきていた。


「ははぁ……あの人が言ってたのはやっぱりこういうことか。」


 正直相手をしなくてもいいが、あとあと絡まれるのも面倒だから一回ここで痛い目にあってもらうか。


 俺は外していた仮面をもう一度身に着けると、遅くなった時間の中を駆け抜け男たちの中へと飛び込んでいった。

 そして一人ずつ、腹に拳をめり込ませていく。あらかた全員に拳を当てたところで時間の流れが一気に元に戻り、それと同時に男たちは一様に白目を剥いたり泡を吹いて地面に倒れ伏した。


「ま、こんなもんか。」


 さて、本命のこいつらのご主人様は……どこで見てるかな。


 俺を襲うように命令を下したやつがきっとどこかで状況を見ているはず。そう確信した俺はあたりをぐるりと見渡した。すると、乱暴にカーテンを閉めた部屋が目に留まる。


「あそこか。」


 男たちが持っていたナイフを一本手に取ると、俺はそれにある警告を記した手紙を刺してその部屋へと向かって投げつけた。


 すると、パリンとガラスが割れる音とともに中からか細い悲鳴が聞こえてきた。


「ひっ!!」


 今の声はさっき俺と競い合った女性の声だ。短い悲鳴だったが誰かを確認するには十分だった。


 恐らく彼女はこの手口で今まで失敗したことがなかったから自分が返り討ちにあうなんて思ってもいなかったのだろうな。ま、今回で学んでくれただろう。


「さてっと、帰りますか。」

 

 危険も排除したところで俺は城へと戻るのだった。


 初めてのオークションで得たのは幻獣の卵という摩訶不思議なもの。目的だったスカイフォレストの関係のものは出品されていなかったが、まぁ実際に現地に行くまでのお楽しみにしておこう。










 いざ城に帰った俺が自室に入ると……。


「あ、カオルさんお帰りなさい。」


「ん?カナン、まだ起きてたのか?」


「ついさっきまでアルマちゃんと遊んでて……。」


 どうやらカナンはついさっきまでアルマ様と遊んでくれていたらしい。だから夜遅くまで起きていたのか。


「カオルさんはどこへ?」


「ちょっとオークションにな。」


「オークションですか……。何か買ったんですか?」


「あぁ、ホントは買うつもりはなかったんだが……ちょっと気になってな。」


 俺はベッドの上に幻獣の卵を取り出して置いた。すると、カナンは首をかしげる。


「卵……?」


「あぁ、幻獣ってやつの卵らしい。」


「幻……獣?魔物じゃなくてですか?」


 どうやらカナンも幻獣の存在は知らないらしいな。


「なんか魔物とはまた違う珍しい生き物なんだとさ。」


「ほぇ~……。」


 まぁカナンはこの世界に来てからというものの、ほとんどあの王城から出ていなかったらしいし、知らないのも無理はないだろう。

 普通に外に出て魔物の討伐をしてる俺ですらも知らなかった存在だし。


 と、一人で納得していると……。


「これ、食べるんですか?」


 そうカナンが俺に問いかけてきた。


「いや~……俺もそれは考えたんだが、ちょっと今回は育ててみようと思う。」


 コレが美味しいのかどうかわからないし、何より情報が少なすぎる。


 それに……白金貨30枚っていう大金をはたいて買ったものだしな。


「育てるって、あれなんですかね?こんな感じで……ぎゅってして暖めてたらいいんですかね?」


 カナンは幻獣の卵を抱き抱えた。もともとそんなに背の高くないカナンがそれを持つことで、より一層幻獣の卵の大きさが際立って見える。


「俺もどんな方法で孵化させればいいのかとか、一切わからないんだよな……。」


 仕方がない、こういうときは彼女の力を借りよう。


「……ナイン。」


「お呼びでしょうかマスター?」


「わっ!?ビックリしたぁ……。」


 俺がナインの名を呼んだその次の瞬間には、どこからかナインが空間を切り裂いて俺の目の前に立っていた。


「ナイン、これ幻獣の卵って言うらしいんだが……どうやって孵化させればいいんだ?」


「幻獣の卵……少々お待ちください。記憶領域データベースにアクセス……。情報を検索……。」


 すると、すぐにナインは口を開いた。


「マスター、ナインの記憶領域データベースの記録では、幻獣の卵は魔力を毎日流し込むことで孵化するようです。」


「魔力を流し込む?」


「はい。しっかりと毎日一定量の魔力を流し込んだ結果、最短で1ヶ月で孵化したと記録があります。」


「ほぉん。」


「それと、備考なのですが……孵化する幻獣は魔力を流し込んだ者によって姿が変わるようです。」


「……つまり、これの産みの親には姿が似ないってことか?」


「はい。」


 またまた面白い特性を持ってるな。俺が魔力を流し込んだらどんな姿で生まれてくるのだろう?

 俄然興味が湧いた。


 俺はナインに言われた通りに幻獣の卵に手を当てた。すると、体の内側から魔力が一気に吸われるような感覚に陥った。


「っ!!す、ステータスオープン。」


 急いで自分のステータスを表示すると、MP……つまるところの魔力量がとてつもない勢いで卵へと吸われているのが数字でわかる。


 そしてあっという間に俺の魔力がすっからかんになってしまった。


「はぁ……はぁ……ず、随分大喰らいだな。」


「恐らく今まで大した量の魔力を供給されていなかったのでしょう。人間で言うところの飢餓状態であったと考えられます。」


「な、なるほど……な。」


 あ、ヤバイわ……。久しぶりに一気に魔力をすっからかんにしたから、疲れが……。


 俺はそのままベッドに倒れ、微睡みの中に意識を手放した。

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