第099話 カナンの気持ち
お祭りの喧騒もすっかり過ぎ去って、いつも通りの日常が戻りつつあったある日……。
「あの、カオルさん?」
「ん?」
自室でくつろいでいた俺にカナンが急に話しかけてきた。
「どうかしたかカナン?」
「カオルさんって、その……魔物ハンターとしてリルさんのところで依頼を受けたりしてるって聞いたんですけど。」
「あぁ、まぁそうだな。」
まぁ近頃は特にこの城下町の周辺には、人に危害を及ぼすような魔物も現れてないし、依頼を受けに行ってみて良いのがなかったらリルたちとお酒を飲んで……って、リルたちと親交を深める場所みたいな感じになっちゃってるけど。
「あ、あの……多分ボクの力を使えば魔物とかを倒すお手伝いができると思うんですけど。」
少しもじもじしながら彼女はそう言った。
「もしかして、ハンターの仕事を手伝いたいとか思ってるのか?」
「は、はい。さすがに養ってもらってるのに何もしないのは落ち着かなくて。でもボクは日本にいた時から不器用でカオルさんみたいに料理を作ったりもできないし、ナインさんとかジャックさんみたいにお掃除とかもあんまり得意じゃないし……何かできることって思いついたのがそれだったんです。」
「あ~、なるほどな。まぁ何かを手伝いたいって気持ち自体はすごいありがたいが、何もそんなに気負うことないんだぞ?」
カナンのほかにもほとんどこの城の中から動かないし、めったなことがない限り働かないやつが約一名いるからな。まぁ誰とは言わないが。
「それにまだ、カナンの顔写真が張られた号外が出てから時間があんまり経ってない。この街にいる人たちもまだ記憶に新しいだろうし、いくら顔を魔法とかで隠したとしても外出は身バレする危険がある。いつどこで何が起こるかはわからないからな。」
「うぅ……そうですよね。ごめんなさい。」
少し残念そうにしながらカナンはぺこりと頭を下げた。そんな彼女の頭に手を置いて俺は優しく語り掛ける。
「謝る必要なんてない。そういう気持ちを持っていてくれてるだけで今は満足さ。それにこの城の中でもカナンにはちゃんとやれることはあるんだぞ?」
「え、ぼ、ボクにできることですか?」
「あぁ、例えば……アルマ様と遊ぶことだ。」
「それって役に立ててるんでしょうか……。」
「もちろんだ。アルマ様は魔王っていう看板を背負ってるせいで同年代の友達ってのがほぼいない。」
まぁ俺の知っている限りだが。
ラピスだってリルだってカーラだってアルマ様よりもはるかに年上だ。少なくとも俺がこの世界に来てからアルマ様が同年代の子と話しているのは見たことがない。
「だからカナンの存在ってのはとっても大事なんだ。魔王城に滞在することを許されたアルマ様と年齢が近い唯一の存在だからな。ジャックさんも言ってたろ?アルマ様が毎日楽しく過ごせればいいってさ。」
「た、確かに言ってました。」
「話し相手になってあげるだけでもアルマ様にとっては楽しいことだろうし、なんなら日本の遊びみたいなのを教えてあげて一緒にやってみてもいいと思う。アルマ様は自分の知らないこととかにはすっごい興味を示すからな。」
「それじゃあボクはここでアルマちゃんと一緒に遊んでれば、役に立てるってことですか?」
「そういうこと。」
カナンにここでできることを教えてあげると彼女は一瞬うつむいて、納得すると笑顔で顔を上げた。
「そ、それじゃあボク……今からアルマちゃんと遊んできますっ!!カオルさんありがとうございました!!」
「あぁ、たっぷり遊んであげてくれ。後でなにかお菓子作って届けるからさ。」
俺にお礼を告げるとカナンは勢いよく部屋を飛び出していった。
そんな彼女と入れ違うようにひょっこりと扉の間から姿をのぞかせたのはジャックだった。
「ホッホッホ、すっかりカナン様もお元気になられましたな。」
「はい、今ちょうどアルマ様と一緒に遊びに行ったとこです。」
「それは実によろしいですな。」
廊下を走っていったカナンの後姿を眺めてジャックはにこりと笑っていた。
「それはそうと、俺に何か用ですか?」
「おっと、そうでした。実は魔王様のことでお話が……。」
「アルマ様の?」
ひとまず俺は彼のことを部屋の中に招き入れた。そして向かい合うようにソファーに腰かけると、彼は一冊の古びた薄っぺらい本を取り出した。
「それは?」
「これは我が一族で代々受け継がれてきた、魔王様が成長に必要な食材のことが詳しく書かれている書物でございます。」
なるほど、それで随分古そうなのか。
「ご覧になってみますか?」
「はい。」
俺はジャックからその本を受けとると、慎重にページを開いていった。
するとそれには、彼が言っていたとおり魔王としての成長に必要な食材のことが一つ一つ詳しく書かれていた。
黄金林檎、獄鳥ノーザンイーグル……この二つのことを見終えてページを一つ捲る。
「コレが……アルマ様の成長に、次に必要な食材ですか?」
「その通りです。」
ジャックは俺の言葉に一つ頷いた。
そのページの見出しに書かれていた食材の名前は……。
『スカイフォレストのサンサンフラワー。』
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