第095話 祭りの終わり


 カーラの家で紅茶をご馳走にになった後、俺はこのお祭りを運営している本部へと足を運んでいた。

 釣り上げたバルンフィッシュの集計はここで行うらしいのだ。


 俺が足を運んだときには集計をする場所には誰も並んでおらず、待つことなく係りの人に対応してもらうことができた。


「バルンフィッシュの集計をお願いしたいんですけど。」


「は~い!!こちらで数えますので、この氷の中に出していただけますか~?」


「わかりました。」


 彼女に促された通りに、たっぷりと入った氷水の中に、収納袋から数えきれないほどのバルンフィッシュを放り込んだ。

 すると、係員だった彼女の表情が驚愕に染まる。


「えっ……えっ?これ全部一人で釣ったんですか?」


「はい、そうですけど?」


「………………。」


 呆気にとられたように彼女は氷水から溢れだしているバルンフィッシュを眺めていたが、ふと正気に戻るとこちらに向かって告げた。


「あ、えっと……けっこう数が多いようなので、また後で来てもらえますか?」


「わかりました。」


 それじゃあ俺は一回城に戻ってこのバルンフィッシュをどうしたら美味しいのか試作といこうか。


 そして、何匹か手元にバルンフィッシュを残して俺は城へと戻るのだった。


 城へと戻った俺は早速バルンフィッシュの調理に取りかかることにした。


「まずは素材本来の味を知りたいからな。刺身でも造ってみようか。」


 ナインに聞いたところ、このバルンフィッシュは毒もないみたいだし、美味しいってことだったからきっと刺身でも食べられるはずだ。


 いつも魚を下ろすように頭を落として内臓を抜き、三枚に下ろす。そして柵にして何切れか刺身にしてみた。

 それを醤油につけて口の中に放り込んだ。


「あむっ……ん~、食感はコリコリってしてて歯応えが良いな。」


 だが、刺身だと少し身が固すぎるかな?俺が少し厚く切りすぎたのもあるだろうが……。もし刺身で提供するならみたいに薄く……薄く造らないといけないかもな。

 まぁ、生の味はかなりフグに近い。噛んでいく度に後からじんわりと旨味が口の中に広がる。


 総評するなら、刺身でも切り方さえ工夫すれば十二分に美味しく食べられるってところか。


「次は焼きだ。」


 そうやって次々と色々な調理法を試しては試食を繰り返しているうちに、このバルンフィッシュには二つの調理法が最も合うということがわかった。


 それは、生と揚げ。この二つだった。焼いても煮ても確かに美味しいことは美味しかったのだが……どうにも身がパサついてしまった。しかし、衣をつけて油で揚げるとフワリとした食感になったのだ。


「よし、今日の夕食はお造りと衣を変えた何種類かの揚げ物……。これに決まりだな。」


 後は骨から出汁を引いたお吸い物とかを作ればバッチリだ。


 今日の夕食のメニューも決まったところで、俺は自室に戻ってゆったりとした時間を過ごすことにした。

 その時には、俺はすっかり大量のバルンフィッシュを係員の人に数えてもらっていたことを忘れていた。










 そしてだんだんと陽が橙色に染まり、水平線の果てへと沈んでいこうとした時……。海辺にリンリン!!と大きなベルの音が鳴った。

 制限時間終了の合図だ。


 それと共にお祭りの運営の人達が声を上げる。


「は~い!!それでは釣竿を引きあげてくださ~い!!」


 運営の人達にしたがってみんなは次々と釣竿を上げていく。


「あ、もう終わっちゃった。」


「むぅ、もっと釣れたと思うのだが……ここまでか。」


『でも、いっぱい釣れて楽しかったです。』


 と、三人は口々に言った。


「それでは皆様、今から集計がありますので……広場の方へと向かいましょうか。」


 釣竿を回収した三人にジャックがそう声をかけると、彼女たちは一斉に首を縦に振った。


「うん!!早く行こ!!誰が一番釣ったのか早く知りたいもんね。」


「むっふふ、無論我が優勝に決まっておる。」


『まだわからないよ。ボクもいっぱい釣ったもん。』


 そしてジャックに連れられて、彼女たちは集計会場へと向かうと、そこには既に集計を待つ長蛇の列ができていた。


「うわぁ……すごい人。」


「これは待ち時間も長そうだの。」


 列の最後尾に並んだ彼女たちの後ろにある人物が並んだ。


「あ、魔王様達も今から集計なんですね~?」


「あ!!リル!!」


 ヒラヒラと手を振りながら立っていたのは前年優勝者のリルだった。


「おやおや、これはこれはリル様……。今年はどうでしたかな?」


「あはは、ちょっとしたアクシデントがあって少し不安かも?」


 そう苦笑いを浮かべる彼女にラピスがずいっと歩み寄る。


「おぬし、昨年この祭りで優勝したらしいな?」


「おや、知ってたのかい?」


「風の噂でチラリと耳にはさんだのだ。だが、今年は我が優勝は頂くぞ。」


「あははっ、どうかな~?多少遅れはとったけど私もけっこう釣ったからね。まぁまぁ結果を待とうよ。」


 そして並んでいた全員の集計が終わり、後は発表を待つのみとなったのだった。


 果たして優勝は誰の手に?

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