第087話 廃鉱山の異変
足を踏み入れた廃鉱山の中は、灯りもなく、もわもわと黒い煙が漂っているだけの空間だった。
幸いパッシブスキルの夜目が発動しているからある程度周りは見えるが……黒い煙の向こう側までは見えない。
しばらく歩みを進めていると、ラピスが何かに気がついた。
「カオル、これを見よ。」
「ん?」
ラピスが指差した方には、焼け焦げた魔物の死体が横たわっていた。
「魔物の死体か。」
「うむ、業火で焼かれておる。この中に漂っている匂いは魔物が焼かれた匂いかもしれん。」
「これも魔法なのか?」
「恐らくはな。」
確か……リルにもらった書類では、ステンは炎の魔法が得意って書いてあったな。
「炎を使う魔法はこの行方不明になったハンターの人も得意だったらしい。もしかしたらその人かもしれないな。」
「うむ、そうだな。」
その先の道にも何体か焼かれて死んだ形跡のある魔物の死体が幾つか転がっていた。これが行方不明になっているステラというハンターがやったものであればいいんだが……。
一抹の不安を抱えながら先へ先へと進んでいると突然奥から月明かりが射し込んできた。
「お?突き抜けたか?」
どうやら俺たちが進んでいた道はこの先で終わりらしい。ここから先はこの険しい山道を登っていかないといけないようだ。
「確か爆発があったのはもっと上の方だったよな?」
「うむ、山頂近くのところだったの。」
「よしこっからは山登りだ急ぐぞ。」
ごつごつとした岩肌が露出する山道を上へ上へと昇り続けていると、再び山頂で大きな爆発が起こった。
ドンッ────!!
「また爆発かっ!!」
しかし今度の爆発は何かが違う……。爆発が起きてからというものの地面の揺れが止まらない。経っていられないほどだ。いったい何が起きているんだと思っていると、突然時間の流れが一気に遅くなった。
「っ!?」
これは間違いない……危険予知が発動している。
いったいどこから、なにが迫ってきているんだと辺りを見渡してると上から大きな岩が落ちてきていた。
「原因はこれかっ!!」
咄嗟にラピスのことを抱きかかえて後ろに飛びのくと時間の流れが元に戻っていく。
「むおっ!?な、何をするのだカオル」
何をされたのかわかっていないラピスの目の前に俺たちの体よりもはるかに大きな岩が落ちてくる。
「こういうことさ。」
「お、おぉう……感謝するのだ。」
安全が確保できたころでラピスを下ろすが、いまだに廃鉱山の揺れは収まらない。
「明らかにヤバそうな雰囲気だな。」
「今にも崩れてきそうだの。」
ラピスの言う通り今にも崩れてきそうな雰囲気だ。上からは大小さまざまな岩が転がり落ちてきているし、俺たちの足場にもひびが入り始めた。
「~~~っ、これはさすがにまずそうだな。マジで崩れそうだ。」
これ以上の深追いは危険か。本当はこのステンって人を見つけたかったが、自分の命を危険にさらすわけにはいかない。
「ラピス、脱出するぞ。」
「む?人探しは良いのか?」
「さすがにこんな崩れそうなところにいられない。ミイラ取りがミイラになるのはごめんだ。」
そして急いで廃鉱山から脱出し、距離をとると俺たちの後ろですさまじい轟音とともに、さっきまでいた廃鉱山が崩れ始めた。
「やっぱりか。」
もう少し判断が遅くてあの場にいたら……あそこで岩の雪崩に巻き込まれてお陀仏になるところだった。
「おぉぉ、盛大に崩れおったな。」
「残念だが行方不明になってたステラって人を見つけれなかったって、報告しに行こう。さすがに今崩落が起こったのに近づくのは危なすぎる。」
「うむ。」
まだ廃鉱山は完全に崩落したわけではない。またさっきのような爆発が起これば、完全に崩れてしまいかねない。そう判断すると俺とラピスは急いで城下町へと戻るのだった。
そして、やっとのことでギルドへと戻ってくるとリルや夜勤の受付嬢たちがあわただしく走り回っていた。
「あっ!?キミ達無事だったんだね!?あの廃鉱山が崩落したって情報が入ってきたから、心配してたんだよ。」
「なんとか俺たちは無事でした。でも、ステラって人を探す前に避難してしまったので……残念ながら。」
「あぁ!!そのことなら大丈夫、キミ達が向かった後に商人の人が訪ねてきてね。ボロボロになったステラを運んできてくれたんだ。」
「そうなんですか、それなら良かったです。」
「兎にも角にも、キミ達が無事でよかったよ~。それで帰ってきて早速で悪いんだけど、崩落の原因とかそういうのわかれば教えてくれる?」
「もちろんです。」
そして俺はあの廃鉱山で何度か爆発があったことや、焼け焦げた魔物の死体が何匹もあったことを報告した。
あの場所には後日調査隊が派遣されるらしい。
まぁとにかく、そのステラって人が無事でよかったな。
カオルたちが去った後、崩れた廃鉱山の瓦礫の上に暗闇に紛れるような黒い衣をまとった何者かが立っていた。
「……少し派手にやりすぎたか。まぁ、逆にこれだけ派手に破壊してしまえば我らの痕跡は残らないだろう。」
そして真っ赤な炎が宿った剣を背中に背負っていた鞘に納めると、黒衣の者は闇夜に紛れてどこかへと消え去った。
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