第069話 成長(?)


 城に戻った俺が早速ノーザンイーグルの調理に取り掛かっていると、廊下の方からパタパタとアルマ様が走ってきた。


「あっ!!カオルお帰り!!」


「アルマ様、ただいま戻りました。今ノーザンイーグルを調理していますのでもう少しお待ちください。」


「やったー!!」


 上機嫌でアルマ様はラピスの隣に座る。すると、ラピスがアルマ様に向かって言った。


「おい、我にお帰りの言葉はないのかの!?」


「あ、ラピスもお帰り~。」


「軽いのぉっ!?我もここまで運ぶのに貢献したのだぞ!?」


 そんなやり取りをしているアルマ様は心なしか少し楽しそうだ。城を留守にしていたのは一日ちょっととはいえ、さみしい思いをさせてしまったことに間違いはない。

 ラピスはここに来てからいつもアルマ様の話し相手になっていたからな。いつもいるはずの話し相手がいなくなるのはさみしいものだ。


 ワイワイとはしゃいでいるアルマ様の姿を見てほっこりとしながら、俺はオーブンの扉を開けた。すると、ジュウジュウという脂の弾ける音と、香ばしい香りがふわりと香ってきた。


「うん、そろそろだな。」


 オーブンに入れていたノーザンイーグルの肉の塊を取り出すと、俺は大皿に乗せてアルマ様とラピスの前に置いた。


「お待たせしました。」


「おぉ~っ!!肉の塊なのだっ!!これはもうかぶりついても良いのか!?」


「まだだぞラピス。それにこれはかぶりついて食べるように調理したわけじゃない。」


「む、むぅ……ではどうすればよいのだ。」


「アルマも早く食べた~い!!」


「では早速準備しますね。」


 俺は小さなナイフを取り出すと、カリカリに焼いたノーザンイーグルの皮を一部剥がす。それと数種類の細切りにした野菜をタレを塗った餅皮で包んで小皿に盛り付けアルマ様に手渡した。


「どうぞ召し上がってくださいアルマ様。」


「わ~!!なんか不思議~。これなんて言う食べ物なの?」


「これは北京ダックという料理です。」


?聞いたことない料理~、まいっか!!いただきま~す!!」


 アルマ様は大口を開けて餅皮で包んだ北京ダックを頬張った。すると、大きく目を見開いた。


「おいし~!!甘じょっぱくて、パリパリで、もちもち~♪」


「お、おい!!カオル、我にもそれを作るのだ!!」


「はいはいっと。」


 アルマ様に作ったものと同じものをラピスに作って渡す。彼女は待ちきれなかったようで俺から北京ダックを受け取ると、勢いよくかぶりついた。


「んん~っ!!美味い美味いぞっ!!これならばいくらでも食えそうだ。カオルどんどんおかわりを作ってくれ!!」


「カオル~アルマももっと食べたい!!」


 二人の声に答え、皮を切り取っては野菜と包みを繰り返していると、あっという間に北京ダックのメインである皮の部分が無くなってしまった。

 そのタイミングで俺は二人に告げる。


「それじゃあ次の料理に行きましょう。」


「え?でもカオル、まだたくさんお肉ついてるよ?」


「先程の料理は皮がメインの料理でしたが、今度は残った肉の方を調理します。」


 俺は骨から肉を外すと、それを細くほぐしてトマトや胡瓜等の野菜とゴマを使ったソースで和える。


「まずは1品目、ノーザンイーグルの棒々鶏バンバンジーです。」


「わっ!?もうできたの?」


「はい、もう一品は少し時間がかかりますので、そちらを食べながら少しお待ち下さい。」


 そして棒々鶏を食べている二人の前で、次の品の準備を始めた。

 先ほどと同様に骨から肉を外すと、数種類の香辛料をブレンドした粉を薄くまぶし、高温の油でサッと揚げる。


「お待たせしました。ノーザンイーグルの香味揚げです。」


「むぉっ!!我の大好物のかっ!?」


「香味揚げって言ってるだろ……まぁ唐揚げと大して変わりはないけどさ。」


「アルマも唐揚げ大好き~!!いただきま~す!!」


 もう唐揚げで良いや……。美味しく食べてくれるなら、何でも良い。


 そして二人が料理を完食するのを横で眺めていると、ジャックがこちらに歩いてきた。


「お疲れ様でございましたカオル様。戻ってこられて間もないですが……お疲れではありませんかな?」


「大丈夫です。それに、アルマ様に早く食べて欲しかったんで……。」


「ホッホッホ、そうでしたか。それで、いかがでしたかな?ノーザンイーグルとの戦いは……。」


「お陰さまで対応できましたよ。ジャックさんがあの時……予め動きを見せてくれましたからね。」


「おやおや、何のことやら……私めは存じ上げませんなぁ。」


 全く白々しい……。そんなに得意気な笑みを浮かべて言う言葉じゃないと思うんだが?それではまるで自白しているようなものだ。


「おっと……どうやらそろそろのようですよ。」


 話をそらすように彼がそう口にすると、アルマ様の体に変化が起き始めていた。


「魔王としての成長……ですか。」


 次はいったいどれ程成長するのだろうか。今の容姿的にはだいたい中学生位だが……順当にいくとすれば今度は高校生位になる……のか?


 そんな風に予想しながら、アルマ様の成長を眺めていると、アルマ様を包んでいた光が収まり、いよいよ成長したアルマ様が姿を現した。


 のだが…………。


(あ、あれ?ちょっと角が伸びた……だけ?)


 姿を現したアルマ様は先ほどとほとんど姿が変わっておらず、目で見てわかる違いと言えば、頭に生えている二本の角が少し伸びた位だった。


 俺が他に変化がないか目を凝らしていると、こちらの視線に気が付いたアルマ様が少し顔を赤くした。


「か、カオル……。そんなにじっと見られたら恥ずかしいよ?」


「あっ!!も、申し訳ありません。」


「ま、まぁ良いけどさっ。」


 そして成長(?)したアルマ様と過ごしてみてわかったのだが、肉体的変化とは別に、以前とは少し俺に対する態度が変わっていた。なんというかどこかよそよそしい……と言ったら良いのだろうか。

 もしかすると、今回の魔王としての成長は精神的な成長が大きかったのかもしれない。


 これからはより一層アルマ様への対応は気を付けた方が良いだろう。精神が成長したということはいろいろと過敏になったという認識で間違いないからな。


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