第060話 ハプニング
ギルドを後にした俺は、様々な商店を尋ね雪山用の防寒具なり暖房器具などなどを揃えた。普通はキャンプなどでテントの中で火を起こして暖をとるという行為は危ないが、この世界では魔道具という存在のおかげで火を起こさずとも暖をとれる素晴らしいものもあるようだ。
もちろんそれは即決で買った。多少値は張ったが……過酷な環境の雪山で過ごすためだ、背に腹は代えられない。
選択肢の一つとして、ノーザンマウントに一番近い村のリオーネスで宿をとってそこを拠点にするのも考えたのだが、どうにも獄鳥ことノーザンイーグルは山頂付近に出没するらしい。
ギルドからの依頼されている氷魔人は村周辺にも出現するらしいが、できれば山頂を目指している途中で遭遇して捕獲するのがベストだ。奴を待つために村に留まり続けるのは時間の無駄だと俺は判断した。
安全策を取りたいのはやまやまだが、それよりもなるだけ時間をかけないように攻略すべきだ。雪山は環境が変わりやすいだろうし、長居すれば環境が激変して雪山に足を踏み入れることすらも困難になる可能性すらもある。
だから目指すのは
そしてリストアップした物と、それに加えていくつか必要そうな物を買い漁った俺は城へと戻った。
アルマ様に昼食を作り終えた俺は自室に戻り、今日買った物を一つ一つ試すことにした。
当日に壊れていて使い物にならなかったら大変だからな。
「まずは、テントだな。」
今回買ったテントはカーラが作ったという魔道具で、外からの風を完全に遮断するものらしい。
彼女が作ったものであれば問題はないだろうが、一応組み立てとかは覚えておかないとな。
「えっと、組み立て方は?」
説明書を読むと、簡潔に一言だけ書いてあった。
『軽く魔力を込めたら自動で組み上がるよ。』
「説明まで彼女らしいな。」
説明通りに折り畳まれたテントに魔力を軽く込めると、本当に自動でカチャカチャと音を立ててテントが組み上がっていく。
そして、一分も経たない時間で簡易的なテントが組み上がってしまった。
「おぉ~……流石だな。」
試しに中に入ってみると、案外中は広く暖かい。これでさらに外からの風をシャットアウトするならノーザンマウント攻略にはもってこいだな。
「で、もう一回魔力を込めると……自動で畳まれると。」
外に出てまた魔力を込めると、今度はパタパタと自動で折り畳まれていく。
「おぉ~、こいつは便利だ。」
ダンジョンの時に使ったテントの数倍楽だ。ただまぁ、魔力が残っていないと使えないということだけ気を付けなければならないな。
俺の場合魔装で魔力を消費するからな。時折、ステータスを確認して枯渇しないようにしないといけないだろう。
まぁ、最悪の場合ラピスに頼めばいいか。
「あ、そういえばラピスにこの事を話すの忘れてたな。」
ラピスが同行してくれるだけで、かなり道中が楽になると思うんだが……。
道具を試す途中で立ち上がると、俺はラピスの部屋へと足を運んだ。
「ラピス~?いるか?」
「んむっ!?」
コンコンと扉をノックすると、部屋の奥からラピスのくぐもった声が聞こえてくる。
「ちょっと話があるんだが……入ってもいいか?」
「んむむむっ!!んむぅ~!!」
「……??」
声をかけるが、帰ってくるのはくぐもった彼女の声と、バタバタと暴れる音だけ……。
不安に思った俺はドアノブに手をかけて扉を開けてしまった。
「入る……ぞ?」
「んむっ!?」
そして扉を開けて目に飛び込んできたのは、昨日の夜のように紐でぐるぐる巻きになっているラピスの姿だった。
俺と目があったラピスはどんどん顔が赤くなっていく。
この一瞬で、入ってはいけない時間だったことを察した俺はそっと扉を閉じ、自室へと戻るべく踵を返したのだが……。
「ま、まま待つのだ!!」
「……!?」
いつの間にあの俵巻きの状態から脱出したのだろうか、踵を返した瞬間にラピスに手を掴まれた。
「あ、えっ……と、都合が悪いなら後から出直すぞ?」
「も、問題ない。それよりも話があるのだろう?な、中で聞こうではないか。」
「え?あ、お、おい!?」
ズルズルと引きずられるようにラピスの部屋へと引きずり込まれてしまった。
彼女の部屋の中には、ほんのりと甘酸っぱいような香りが充満している。おそらくさっきのが原因だろうが……本当に入っても大丈夫だったとだろうか。
そしてテーブルを挟んで向かい合うように座らされると、彼女は顔を真っ赤にしながらポツリと言った。
「さ、さっきの……見たのか?」
「す、すまん。何かあったのかと思って……。」
「……おぬしが我を心配してくれた気持ちはわかった。それを踏まえた上でお願いなのだが……と、とにかくさっき見たことは忘れてほしい……。い、一瞬の気の迷いだったのだ。」
「わかってる。俺は何も見てない。記憶からも消しておくよ。」
「そ、そうしてくれ。後生だから誰にも先のことは内密にしていてほしい。」
「そんなに心配しなくても誰にも言わないって。」
「う、うむ……。」
そう頼み込んできたラピスは、少しの間顔を赤くさせてうつむくと、話題を変えるべく再び口を開いた。
「そ、そういえば我に話があるのだろう?」
「あぁ、実は近々ノーザンマウントっていう雪山に、ある食材を取りに行くんだ。」
「ノーザンマウント……。あの北の大地の雪山のことか。」
「それであってると思う。そこにいるノーザンイーグルって魔物をアルマ様が欲してるんだ。」
「なるほど、話の全容は理解した。つまりそこに着いてきてほしい……そういうことだな?」
「そういうことだ。準備とかはこっちで全部整える。ラピスは俺と一緒に雪山を登って、道中の魔物を倒してくれるだけで構わない。」
「容易い御用だの。」
「着いてきてくれるか?」
「無論だ。それに、あの雪山には美味い魔物がたくさん住み着いておるからな。そやつらを狩って食うのも余興になろう。」
へぇ……ノーザンマウントには美味しい魔物がたくさん住み着いてるのか。ならそいつらを食料にすれば……最悪の事態が起こっても乗り越えられそうだな。
さて、返事ももらったところで……。
「それじゃあまた後でこの事についてはじっくり話し合おう。今はラピスも取り込み中だったみたいだしな。」
そしてそそくさと部屋を後にしようとしたとき、また彼女に腕を掴まれた。
「ほ、本当に内密に頼むのだ。」
「わかってる。」
そう釘を押されて、俺は部屋を後にした。他人の情事には踏み込まないのが吉。
今日のことは忘れよう。
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