第039話 ダンジョン二階層
ゲートガーディアンを倒したと同時に声が響いた。
『レベルが3上昇しました。』
「おっ。」
レベルが一気に3も上がった。やはりゲートガーディアンというだけあって莫大な経験値が貰えたな。
ここに来てからの連続レベルアップで、今のレベルは35……目標の50までもう少しだ。
『魔力操作を用いた新たなスキル
「新しいスキルもゲット。」
どんなスキルだろうな。試しに早速使ってみるか。
「
ポツリとそう口にすると、先ほどさんざんイメージして作った魔力の刃が一瞬で象られた。
「なるほど、次回からはすぐに使えますよってことか。」
そうしてまた一つ強くなったことを実感していると、俺の前に影が落ちた。そしてそれと同時に後ろから大きな声が発せられる。
「この馬鹿者っ!!」
「い~~~っでぇっ!?」
大声を浴びせられたかと思えば、次に浴びせられたのはラピスのげんこつだった。
「な、なにするんだ!!」
「なにするんだではないだろうがっ!!一人で突っ込んでいったと思えば、ギリギリの戦いをしおって……無鉄砲にもほどがあるぞ!!」
「うっ……それは……すまない。」
「まったく、これに懲りたらあのような無鉄砲なことはやめるのだな。」
「わかった、気を付ける。」
ラピスの事を怒ったことはあるが、怒られたのは初めてかもしれない。怒る時だけはなんか妙な威厳があるんだな。
にしてもげんこつを落とされた頭が痛い。鏡がないからわからないが、大きなたんこぶができているのではないだろうか?
ジンジンと痛む患部を優しく撫でていると、ラピスが俺の手をとってきた。
「ほれ、休むのは後だ。魔物が湧く前にとっとと次に行くぞ。」
「あ、あぁ。」
彼女に手を引かれ、ダンジョンの次の階層へと歩みを進めるのだった。
そしてまたこのダンジョンに来たときのように階段を下っていくと、新たな階層へとたどり着いた。
「ここからが二階層だの。」
「今度は海か。」
一階層は広い平原のような場所だったが、二階層は海のステージらしい。見渡す限り白い砂浜と、青く澄んだ海が広がっている。さながら観光地だな。
そして先ほどの階層と違う点がもう一つ……さっきの階層は入った瞬間から魔物に襲われっぱなしだったが、この階層に来てから未だ魔物と遭遇していないし、現れる気配もない。
「ふむ、一階層と違ってここはまぁまぁゆっくりできそうなところだの。」
「前の階層のあの魔物の量はなんだったんだ……。」
あまりに温度差のある場所に思わずため息がこぼれてしまう。すると、ラピスがニヤリと笑いながら詰め寄ってきた。
「してカオルよ、おぬし
「あ――――――。」
ラピスが言っているのは、最初に魔物に囲まれたときにノリと勢いで乗ってしまったあの勝負のことだ。
倒した魔物が少ない方が多い方に自分のお菓子を分け与えるという……あの――――――。
それを思い返していると、ラピスが満面の笑みで両手を差し出してきた。
「先の勝負我の勝ちだ!!さぁ大人しく菓子を出せ!!」
「まさか最後まで数数えてたのか?」
「当たり前だ。それにおぬしがゲートガーディアンと戦っている間に湧いてきた魔物も倒したからな。我の勝ちは確実なものだぞ?」
このラピスの執念には恐れ入った。
流石にゲートガーディアンと一対一で戦わせてもらった手前、言い訳はできない。
「わかったよ、今回はラピスの勝ちだ。」
収納袋に手を入れると、俺の分のお菓子の入った袋をラピスに差し出した。
「ほら……。」
「おぉ!!往生際の良いやつめぇ……では遠慮なく。」
お菓子の入った袋を頭の上で逆さまにすると、彼女は大きな口を開けて降り注ぐお菓子の雨を全て口に入れてしまった。
お菓子は殆どがクッキーの為、ラピスが咀嚼する度にサクサク……ザクザクと音が響いてくる。
そしてペロリとお菓子を平らげた彼女は満足そうに笑った。
「んふ~っ♪体を動かしたあとの甘味……まさに至福の
クッキーを堪能した彼女は、物欲しそうにチラリとこちらを見つめてくる。
その目はまるで
「さっきの勝負で賭けたぶんはそれだけだぞ。一応その袋の中だけで1日分あるんだからな!?」
「これで1日分か。……今回は何日分用意しているのだ?」
「3日分だ。」
「ならあと二つあるではないか~♪さぁ、その残り二日分の菓子をかけて我と勝負っ!!」
「また後でな。食べるなら自分のやつを食ってくれ。今はそれよりも下に続く階段を見つけないとだろ?」
本来の目的を見失ってはならない。そしてここがダンジョンの中であるということも忘れてはならない。
「むぅ……仕方がない。」
「ほら、行くぞ。」
そしていよいよ俺達はこの階層を散策し始めた。
しばらく歩いたが、どこまでもこの白い砂浜と海は続いている。それに、魔物も一切出てこない。あまりに暇な現状にラピスが文句を垂れた。
「なんと暇なのだ。魔物の一匹も出てこないではないかっ!!」
「さっきみたいにずっと襲われるよりはマシだろ?」
「それはそうだが、これはこれで暇すぎる!!」
我が儘を言うなぁ……。まぁ、彼女の言うこともわからないでもない。ずっと変わらない景色をひたすらに歩いているのだ。暇をもて余すのも無理はない。
「何か出てこいっ!!我の相手をしろ~っ!!」
ラピスがそう叫んだその時だった。突然辺りに一寸先すら見えないほど濃い霧が立ち込め、暑さを感じるほどだった気温が急に下がり始め、寒気を感じるほどになってしまったのだ。
何かの前兆かと警戒していると、隣でラピスは笑った。
「ようやくお出ましか~?さぁ、どこからでもかかってくるのだ!!」
ラピスはそう挑発するが、一向に何かが現れる気配はない。
「むぅ?なんなのだ?」
「魔物が襲ってくる気配はないにしろ、雰囲気が明らかに変わったな。少し気をつけて進もう。」
「うむ。」
深い霧を掻き分けるようにして進んでいくと、突然目の前に大きな壁が現れた。
「ん?行き止まりか?…………いやこれは―――――。」
よく見ると、その壁は木目調で外壁にたくさんのフジツボがついていた。まさかと思い上を見上げると、そこにはボロボロになった海賊旗が虚しく風を受けて舞っていた。
「海賊船……か?」
じっくりと観察していると、裏側に回り込んだラピスが声をあげた。
「おいカオル!!こっちに入り口があるぞ。」
「わかった、今行く。」
ラピスの方に回り込んでみると、砂浜に乗り上げた船の外壁に大きな穴が開いている。
「入ってこいってことか?」
「どうやらな。その証拠にこの先は進めんらしい。」
コンコンとラピスは透明な壁を指で叩いた。どうやらここがこの階層の端に当たるらしい。
何かが出そうであまり気は進まないが、この難破船の中を調べるしかなさそうだ。
「仕方ない、いくか。」
「うむ!!」
そしてラピスと共に俺は難破した海賊船の中へと足を踏み入れた。
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