第036話 ダンジョンへ向けて


 城へと帰ってきた俺はさっそくカーラが作ったという収納と時間停止の魔法がかけられた収納庫を使ってみることにした。


 まず入れてみるのは、先ほどアルマ様のご飯を作った時に少し余ったこのスープだ。まだホカホカと湯気が上がっていることもあって温かい。


「一応確認のため……な。」


 零れないように気を配りつつ中にそれを入れた。


「後は待つだけか。」


 三十分ほど待ってみよう。どんなに温かいスープでもそれだけ時間が経てば冷める。そう思って少し待つことにした俺のもとにジャックが機を見計らったかのように現れた。


「お疲れ様でございましたカオル様。」


「お疲れ様です。」


「それが件の新作ですな?」


「はい、話だと中の時間が止まってるらしいので……料理の保温に使えるかと思って試してました。」


「使えるものだとよいですね。まぁカーラ様に限って不良品を誰かに送るようなことは無いと思いますが……。」


 そして30分後……


 入れていたスープを取り出してみると、入れる前と変わらず湯気が立ち上っていた。温度も変わっていない。


 俺がそれを取り出すのを見て、ジャックが問いかけてくる。


「それは、どのぐらい前に入れたものですかな?」


「だいたい30分位前です。」


「状態は如何ですか?」


「入れたときとまったく変わってないですね。これなら俺が留守にしてる間も、アルマ様に出来立ての料理を食べてもらえます。」


「ホッホッホ、さぞかし魔王様もお喜びになることでしょう。」


 いつでも出来立ての料理を提供できるようになったということは、俺が留守にしてる間……アルマ様が食べる料理に制限が無くなったということでもある。


「ジャックさん、俺が留守にしてる約3日間の間にもし食べたいものがあれば……ってアルマ様に聞いてもらえますか?」


「かしこまりました。少々お時間をいただきますが、よろしいでしょうか?」


「大丈夫です。ただ、できれば出発の前日には……。」


「ホッホッホ、それほど先延ばしにはいたしません。お任せください。」


「お願いします。」


 よし、これで良い……。これでアルマ様が食事で不自由することはないだろう。


 後はダンジョンに向けての準備だ。


 その後ジャックと別れた俺はラピスのもとへと向かう。ラピスに貸し出されている部屋をノックすると、お風呂上がりだったのか、しっとりと髪を濡らしたラピスが顔を出した。


「お?なんだカオルか。我に何か用か?」


「さっきご飯を食べる前に言ったこと、覚えてるか?」


「ダンジョンのことだな?もちろんだ!!」


 ラピスには少し前にダンジョンの探索の依頼があったことを知らせていた。


「それに向けて今から準備を整えるんだが……。」


「食料は必須だぞ!?我にとってはそれが一番大事だ。」


「わかってる。俺だってダンジョンの中で餓死は御免だからな。」


 ジャック曰くダンジョンの魔物は素材にならない。つまり、倒しても食料にはできない。だから食料はたくさん持ち込む必要がある。


「一応食料以外にも寝袋とか……その辺は準備するつもりだが、何か他に準備してほしいものとかはないか?」


「う~む、別段食料の他に我は必要なものはない。だが、敢えて……敢えて望むのならば――――。」


「望むのならば?」


「こまめにつまめる菓子が欲しいところだの。」


 お菓子か……。まぁラピスらしいな。ってかまぁそれも食料の分類だと思うが、敢えて言葉にするまででもないか。


「わかった。じゃあまぁ……クッキーとか焼いとくよ。」


「ケーキを作ってくれても良いのだぞ!?」


「すぐに腐るような生菓子はダメに決まってるだろ?お腹を壊したらどうするんだよ。」


「むむむ……確かに。腹を下すのはツラいからの。毒キノコをたらふく食って身に染みた。」


 やっちゃダメな学び方してるけどな!?ってか毒キノコをたらふく食べたって、絶対あのキノコの森でだろ。

 

「まぁいずれ……生物なまものとかを腐らせずに保存できて、持ち運べる便利な道具が生まれるだろうから、その時までの我慢だ。」


 きっと、近々カーラが作ってくれる。試作品であの出来ばえだからな。もっと煮詰めて完成したらとても利便性の高いものになるに違いない。


「ふむ……ダンジョンの中でそういう効果のが手に入れば良いのだがな。」


 ポツリと目を細めて言ったラピス。彼女が発した言葉の中に聞き覚えのない言葉があった。


……ってなんだ?」


「む?カオル知らんのか?」


「知らないな。」


「アーティファクトというのは、ダンジョンで稀に手に入る文明を越えた遺物のことだ。」


 淡々とラピスはそう説明してくれるが、残念ながら俺の頭の中には巨大な?マークが浮かんでいる。


「文明を越えた遺物……って言うと?」


「簡単に言うのなら、魔法や工学でも再現することのできない未知のもの……そう思っておけばよい。」


「へぇ、そんなのがダンジョンで手に入るのか?」


だがの。古くから魔物の強いダンジョンだと手に入りやすいとか、深いダンジョンだと手に入りやすいとか、そう言ったことが囁かれているが……ほとんどが迷信。実際のところは、下級のダンジョンでも手に入るときは手に入る。そんな代物だ。」


「……つまり本当に運次第ってことか。」


「そういうことだの。」


 手に入る確率がどれ程かはわからないが、そんなものがあるのなら是非ともお目にかかりたいものだな。


「確か……今回挑むダンジョンは魔物の強いダンジョンだったな?」


「あぁ。」


「もしかしたら良いアーティファクトが手に入るやもしれんぞ?むっふっふ♪」


「さっき迷信だって言ってただろ?」


「迷信とはいっても時には信じたくなるものだぞ?」


 まぁ確かに……。ある程度期待を持って行った方がメンタル的には良いか。


 その分無かったときの精神的ダメージは、高をくくっていなかったぶん大きくはなるだろうが……その時はその時だな。

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