第035話 心は乙女?
カーラの家に入ると、案の定彼女の背丈に合わせているから天井が高い。しかし明らかに筋力全ぶりな見た目をしている割に、家の中はどこか女性っぽさを感じさせる。きっちりと物は整理されていて、無駄がなく、ところどころに可愛いぬいぐるみが置いてある。
意外と心は乙女とかそういう感じの人なのかもしれない。
まじまじと部屋を見渡していると、照れくさそうにしながらカーラが言った。
「あんまり人の部屋をまじまじと見るんじゃないよ、こっぱずかしい。」
少し頬を赤らめながらそう言った彼女は、手にしていた大きな杖をパッ……と手放した。すると独りでに杖はふわふわと宙を飛び、玄関脇に立てかけられた。
「まぁ見せたいもんは山ほどあるんだが、立ち話もあれだし座んなよ。」
くいっとカーラが指を動かすと、勝手にテーブル脇にあった椅子が動き俺のもとに引き寄せられた。
促されるがまま俺がその椅子に座ると、今度は俺のことを乗せたまま椅子が宙に浮き、テーブルまで運ばれた。
一方のカーラはずかずかと歩いてテーブル越しに正面に座る。すると独りでにティーポッドと二人分のティーカップがテーブルの上にふわふわと浮いてくると、熱々の紅茶が勝手に注がれた。
言葉にするのならまさに
「便利なもんだろ?ってまぁアタシが全部動かしてるんだけど。」
「そんなに魔力を使って魔力が切れたりしないんですか?」
ふと疑問に思ったことを問いかけてみた。すると彼女はニヤリと笑った。
「アタシは特異体質でね。空気中に漂ってる魔素を呼吸だけじゃなく肌からでも吸収できるのさ。だからこの世界に魔素があり続ける限り、アタシの魔力は無限ってわけだ。」
すごい体質だな。まさに魔法使い向けの体質……魔法を使う人たちからしたら喉から手が出るほど羨ましい体質だろうな。
「まぁこんな体質なのにもかかわらず、こうやって引き籠って魔道具の開発ばかりしてっから他の魔女からは
自慢すると同時に彼女は苦笑いしながら他の魔女たちから嫌われていることもさらりと口にした。
そう口にした後に少し悲しそうな表情を浮かべた彼女に俺はポツリと思ったことを口にしてしまった。
「別にやることなんて人それぞれだから、何をしてもいいと思いますけどね。」
「………………!!」
俺がそう口にすると彼女はぽかんとした表情を浮かべ、恐る恐る口を開いた。
「アタシが変だって思わないのかい?」
「別に……そうは思いませんけど?」
「そ、そうか……。」
俺がはっきりと答えると、彼女は少し顔を俯かせながら表情を隠すように三角帽子のつばをつまんだ。こちらからは正面の表情をうかがうことはできないが、耳が真っ赤になっているのは見える。何か恥ずかしいことを言ってしまっただろうか。
そう不安になっていると、ぼそりと彼女が口を開いた。
「そ、そんな風に言われたの初めてだ……。」
「えっ?」
小さな声で何かをぼそりと呟いた彼女。こちらの耳には何を言っていたのか聞こえなかったので聞き返すと、彼女はぶんぶんと勢いよく首を横に振りながらこちらを向いて言った。
「な、なんでもないっ!!そ、それより新作の話だったな、ちょっと待ってな!!」
今の話を打ち切るように新作の話を持ち出した彼女は、テーブルに両手を叩きつけて立ち上がると隣の部屋へと行ってしまう。
バタンと扉が閉まった後、カーラが入っていった部屋からはボフボフと柔らかい何かを叩くような音が聞こえてきた。
何をしているのだろうか……明らかに何かを持ってくるときの音ではないよな。
そう不思議に思っていると、ピタリとその音が止み、落ち着きを取り戻した様子のカーラが箱のようなものを持って戻ってきた。
「待たせたね、こいつがアタシの新作さ。」
彼女が持ってきたのはどこか小さな冷蔵庫のような雰囲気を醸し出しているものだった。
「こいつは収納の魔法と時間停止の魔法を同時に付与した魔道具だ。」
「収納と時間停止を……それでこれは何ができるんです?」
「まぁ見てなよ。」
扉を開けて彼女はその魔道具の中に手を入れると、ほわほわと湯気のたつティーカップを取り出した。
「これは2日前にこの中にしまってた紅茶さ。」
「ふ、2日前!?」
「あぁ、そうだよ。しっかり熱も冷めてないし、腐ってもいないだろ?」
彼女の言うとおり、ティーカップの中に入っている紅茶は熱も冷めておらず、腐ってもいない。淹れたてのものとまったく変わらない。
「まぁ二つの魔法を重ねがけしてる分、収納の容量は小さくなっちまってる。それに軽量化してもこのデカさが限界だ。持ち運ぶにはちょいとばかし不便って感じさ。」
「収納袋に入れて持ち運んだりは?」
「できない。同じ魔法がかかった魔道具は重複できないんだ。」
「なるほど……。」
でもこれって……
そう思ったとき、ジャックの言っていた言葉が頭の中にフラッシュバックする。
『おそらく今後カオル様にとって必要になる物かと。』
彼はこれがどんなものかわかっていて俺に話を持ちかけたのか。なるほど……確かにこれは必要だ。
「ど、どうだ?」
恐る恐る彼女はオレにそう問いかけて来た。
「うん、すごく使えると思います。」
「ホントか!?ど、どんなとこが使える?」
「あくまでもこれは俺の場合ですけど、アルマ様に作った料理が冷めることなく保存できる。それが何より大きいですね。何日か城を離れることもあるので、自分にとってはとてもありがたいものです。」
「そ、そうか……ならこいつを使ってみてくれよ。」
「良いんですか?」
「もちろんさ!!魔王様のお気に入りのあんたが使ってるってなれば、噂も広まるだろ?それを聞いて買ってくれるヤツも出てくるかもしれないからねぇ。」
「それじゃあありがたく使わせてもらいます。」
これがあれば……料理の鮮度を落とすことなく保存ができる。つまり、俺がいない数日間にアルマ様に出来立ての暖かい料理を提供する事ができるということだ。
「……つ、使うなら後で使った感想も教えてくれよ?今後の参考にするからさ……。」
「わかりました。それじゃあ、ありがとうございまし…………たっ!?」
そしてお礼を言って立ち去ろうとすると、彼女に腕を掴まれた。
「ま、まだ時間あるだろ!?もうちょっとゆっくりしていきなよ。」
「え、あ……は、はい。それじゃあ……。」
「お、お菓子とか好きか!?アタシがよく食べてるのがあるんだ。今持ってくる!!」
そして俺は時間の許す限り……彼女のおもてなしを受けることになってしまったのだった。
ちなみにお菓子の趣味も可愛いかった。
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