第009話 成果

 

 大幅に上がった身体増力のおかげでアルマ様の夕食の時間に間に合い、普段通り夕食を提供した後、俺はジャックのもとを訪れていた。


「ホッホッホ、どうでしたかな?魔物との戦いは……。」


「言ってた通り確かに狡猾でしたよ。」


「特にあの森を住処にしているは魔物の中でも知性が高いほうですからな。魔物討伐を専門にしている者でも手こずる魔物なのです。」


「そんな魔物を俺に紹介したんですか。」


 彼の言葉に思わず俺は苦笑いを浮かべた。


 少なくとも最初に紹介する魔物ではないんじゃないのか?


「ホッホッホ、それぐらい強くなければカオル様の相手には不足でしょう。それで、成果はいかほどで?袋を貸していただいてもよろしいですかな?」


「はい。」


 俺は彼にあずかっていた革袋を手渡した。


 袋を受け取った彼がそれを逆さまにすると、袋の中から大量のレッドキャップがぼとぼとと落ちてきた。それを眺めて彼は一つ頷いた。


「ふむふむ情報通り、あの場所にはレッドキャップたちの集落があったようですな。」


「情報通り?」


「実はあの地図に書き記した場所にこのレッドキャップたちの集落ができていたと、街の魔物ハンターから報告が上がっていたのです。この様子であれば壊滅させてきたようですな。カオル様のレベルアップにはちょうど良かったのでは?」


「一応レベルは2上がりました。それと魔力が解放されたみたいです。」


「おぉ、ではいよいよカオル様も魔法を使う準備が整ったようですな。」


 ジャックは服の内側に手を入れると、一冊の本を取り出した。


「これは魔法について書いてある本です。とはいっても初級編ですが、まずはこちらを読んでみればよいかと。」


 そう言って彼は俺に一冊の本を手渡してきた。タイトルには彼が言っていた通り、「魔法初級編」と書いてある。


「ありがとうございます。」


「良いのです。魔法はドラゴンにも有効ですから、ぜひ練習してみてくだされ。さて、では私はこのレッドキャップたちをハンターに引き渡してきますので……。」


 そしてジャックは再びレッドキャップを袋に再びしまって部屋を後にしようとする。


「あ、ちょっと待ってください。」


「む?まだなにか?」


「実はまだその袋の中にってやつが入ってるんですけど……。」


「なんですと!?」


 ジャックはというワードを聞いた瞬間に顔色を変えた。そして俺の言葉が真実かどうかを確かめるために、再び袋を逆さまにした。すると袋からゴロゴロと真っ赤な力の果実が転がり出てきた。

 それを見たジャックは思わず目を丸くする。


「こ、これをどこで手に入れたのですか?」


「あのレッドキャップ?って魔物の集落にありましたよ。」


「まさかレッドキャップたちはこれがあるのを分かって集落を作っていたと?いやそれよりも、これは大きな収穫ですぞ。カオル様はすでにこれを食しましたか?」


「一つ……食べました。」


「ではこれがどんな力を持っているのかお分かりですな?」


「一応、力を大きく上昇させるものだってことはわかりましたけど、それ以上は……。」


「それだけわかっていれば十分です。軽く補足させていただきますと、これは人工的な栽培が不可能で尚且つどこに生えるのかもわからない。とても貴重なものでございます。」


 えぇ……。そんな貴重なものだったのか。


「カオル様、おそらくこの果実を全て収穫したら木が枯れたと思いますが……どうでしたか?」


「確かにすぐ枯れてボロボロになりました。」


「それもこの果実の特徴です。収穫を終えた木は枯れ、またこの世界のどこかで芽吹くのです。」


「なるほど……。」


 それじゃああれは、ホントにラッキーだったんだな。下手したらレッドキャップに全部食べられててもおかしくなかった。


「それで、カオル様はこれをどう致しますか?」


「もともと、アルマ様のデザートに……ってとってきたので、使い方は一任しますよ。」


「ホッホッホ、それはありがたいことです。では目的通り、魔王様のデザートに使ってください。」


「わかりました。」


「それでは私は改めてレッドキャップを引き渡して参ります。」


「お願いします。」


 そしてジャックは袋を持って部屋を後にした。一人しかいなくなった空間で、俺は力の果実と向き合っていた。


「人工的な栽培が不可能……か。」


 まぁ確かに栽培できたら世界中に出回ってるだろうからな。


 だけど、それじゃあ何でこの力の果実にはがある? 子孫を残す必要がないのなら……種をもつ必要はないはずだ。


「種があるのなら少なくとも、この果実は子孫を残す意思があるということだ。なら……やり方次第でもしかするのかも。」


 アルマ様のデザートで残る種で色々試してみるか。それでもし成功したら凄いことだしな。


「さてっと……ひとまず明日のアルマ様のデザートはこれで決まりだな。」


 多分今はもうアルマ様は寝ている頃だ。これからの夜の時間が俺の自由時間だ。


「よし、それじゃ部屋に戻ってさっき貰った魔法の本でも読んでみるか。」


 そして俺は部屋へと戻ると、ベッドの上に横になり本を開いた。


「なになに?魔法は魔力が解放されて初めて使えるようになるものである。なので魔法を使いたくばまずレベルを上げて魔力を解放すること。」


 最初のページにはでかでかとそう書いてある。どうやらこの世界の人達も、最初から魔力が解放されているわけではないようだ。


「まぁ魔力は解放してあるから、ここは飛ばして……で?最初は何からすればいいんだ?」


 パラパラとページを捲ると、「魔力の使い方」と書いてあるページを見つけた。


「えっと、なに?魔法を使うには魔力を自在に扱えるようにならねばならない。そのためにまずは解放された魔力を手の上で動かす……なるほど。」


 そんな風に書いてあったが……魔力を手の上で動かすってどうやるんだ?


 やり方とかは特に記載されてないし、感覚を掴まないとダメってことか。

 

 試しに魔力と念じて掌に集中してみたが、何も起こる気配がない。まずは魔力というものを知ることから始めないといけなさそうだ。

 俺はその日の晩……寝る直前まで本を読み、魔力を扱えるようにひたすら練習を繰り返すのだった。

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