異能社会

甘草 秋

学園編

第1話 時雨

 

 ────とある初冬の日。




「何なんだよあいつ!無茶苦茶だろ!」

「騒ぐな!口を動かす暇があったら足を動かせ!」

「だ、だってよぉ!人間じゃねぇぞあいつ!!」

「いいから走れ!」


 黒のローブに包まれた男2人が、夜の街でビルを足場に飛び回っていた。何かから必死に逃げているようだ。

 しかし、追われている人物を一向に撒くことは出来ず、苛立ちが隠せないでいた。

 2人はこの仕事を始めて早10数年。このようなケースは初めてだった。


「くそっ!逃げても逃げても付いてきやがる!」

「アルファ、ここはもう応戦するしかない!」

「ベータ、本気で言ってるのか!?」


 2人は仕事の都合上本名を隠している。故に今はお互いを仮の名で呼んでいる。


「俺らにもプライドってもんがあるだろ!」

「確かにそうだが……お前も見ただろ!仲間がアイツに一瞬でやられる所を!」

「しかし、このまま逃げ切れるとも思わない!もう2人でヤツをやるしかない!」

「……っ」


 アルファと呼ばれた男はコンマ数秒の間に様々な思考を飛ばすが、やはりこの手段しかないと決心がついたのか、2人は同時に足を止めた。そして、標的である背後のヤツに体を向ける。

 しかし、先程まであったヤツの気配が突如完全に消えた。


「く、くそっどこ行きやがった!」

「狼狽えるな!臨戦態勢とれ!」


 すると、2人の予想とは裏腹にヤツは突然背後から現れた。


「────!」

「────何!?」


 気づいた時にはもう既に遅し。ヤツの攻撃は完全に俺たちを捉えており、


「ぐはっ……!」

「アルファ!」


 アルファは一瞬でヤツに殺られてしまった。

 それもほんの数秒の間でだ。ベテランの闇の人間の人生がこうもあっさりと終わりを迎えてしまった。

 そんな事実に驚きを隠せないベータ。

 だがそれとは他に、彼のプライドが嫌という程傷つけられる事実があった。

 それは……、


「くそっ!……どうして、こんなガキがっ」

「──────」


 そう、2人が対峙していたヤツとは、まだ成長期も迎えていないような子供の姿だったのだ。

 黒服に身を包み、フードを被っているため表情は窺えない。

 いくつもの年下の者にこうも実力の差を見せつけられ、ベータのプライドはもうズタボロだった。


「うおおおっ!!」


 それでも一矢報おうと、ベータはヤツに飛びかかる。彼の最後の力を振り絞った攻撃だった。

 しかし、目の前のヤツが突如消えたと思えば、既にベータの息は絶えていた。

 コンマ数秒の出来事。男2人は死んでしまった。


「任務完了」


 ヤツはただ一言そう言って、するりとその場を後にした。何事も無かったような空間が漂い始めた。

 その日の夜は、ぱらぱらと雨が降ったり止んだりしていた。

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