第43話後日
愛娘サラの後を追い、極秘で勇者学園に入学。
選抜戦の決勝戦の直後。
勇者教団の神官長が、魔族に身体を乗っ取られていた事件が勃発。
何とか撃退して、波乱に満ちた選抜戦は無事に終わった。
◇
選抜戦から日が経つ。
「ふう……あれから一週間か」
下校途中、遠目に見える闘技場を眺めながら、オレは深い息を吐く。
選抜戦から今日で、ちょうど一週間が経っていた。
遠目に見える闘技場は、七魔将アザライドに破壊された箇所を、現在も修理中。
街の方は運が良いことに、被害はほとんどない。
遠目に見える街並みも、平穏そのものだ。
「あっ、ハリト君!」
「ハリト様!」
そんな時、下校路。
後ろから声をかけてくる少女たちがいた。
クラスメイトのサラとエルザだ。
「二人も、真っ直ぐ帰るの?」
「そうだよ!」
「ハリト様も、ご一緒に、是非とも」
「うん、いいよ」
男女の寮は隣の同士。
三人で短い通学路を歩いていく。
「そういえば二人とも怪我の痕は、痕(あと)は大丈夫?」
選抜戦の決勝戦、サラとエルザは重傷を負ってしまった。
現場でオレが回復魔法をかけたので、傷は塞がっている。
だが回復魔法も万能ではない。
場合によっては、少し傷跡が残る場合もあるのだ。
「うん、大丈夫だよ。ハリト君の応急処置のお蔭で、この通り綺麗になったよ」
サラは制服のスカートを軽くめくり、真っ白な足を見せてきた。
たしかに傷跡すら見えない。
よかった……大事な娘の身体が、綺麗に戻って。
奮発して、こっそり極大回復魔法をかけた甲斐があったものだ。
「ちょ、ちょっと、サラ! 殿方の……ハリト様の前で、スカートをめくるなんて、はしたないですわ!」
「あっ、そうだね、エルザちゃん。ごめん。なんかハリト君はあんまり緊張しななくてさ。エヘヘヘ……」
可愛く舌を出して、サラはペコリと謝る。
その姿も何とも言えず愛らしい。
(殿方の前でか……こういったところは、まだサラは子供っぽいからな……)
つい最近までサラは、辺境の我が家で暮らしていた。
同年代の異性と、会話をしたことも全くない。
そのため年頃の女の子の自覚が抜けているのだ。
「そういえばハリト様の方は、怪我なとは無かったのですか?」
「あっ、オレ? うん。大丈夫だよ」
選抜戦では、特に大きな怪我はしていない。
そもそも一回戦から決勝戦まで、一切のダメージすら受けていない。
怪我を受けたといえば、七魔将アザライドからの爆炎攻撃くらいかな?
まぁ、あの攻撃も【幻風斬(ゲン・フウ・ザン)】で回避。
だからオレの身体は特に問題ない。
「そういえ、あの上級魔族。本当にヤバかったよね……」
「そうですわね……まさか教団の司祭長が、魔族に身体を乗っ取られていたとわ……」
二人の会話は、魔族アザライドの話に移る。
「レイチェル先生が駆けつけてくれて、本当に良かったよね……」
「さすがは二代目様である剣帝レイチェル先生だったですわ」
二人が会話しているように、今回の事件は隠蔽(いんぺい)済み。
一般の生徒は、レイチェル先生が魔族を討伐。
無事に解決したことになっていた。
現場に残ったオレはアザライド戦で、先生のサポートをしただけ。
――――ということにしてある。
(まぁ、さすがに今回は公には出来ないからな……)
この隠蔽作戦は、オレが先生にお願いしたこと。
何故なら『一介の候補生が、たった一人で七魔将の一人を討った』と知れ渡れたら、大陸中が大騒ぎ。
間違いなく、オレの正体がバレてしまう。
「そういえば、ハリト君も凄かったよね。最後まで、先生と魔族に立ち向かって!」
「ですわね。私も見たかったですわ……邪悪な魔族に立ち向かう、ハリト様の勇敢な姿を……」
二人もアザライド戦の時は、先生に運ばれ中。
他の観客と警備兵も全員逃げ出して、目撃者は皆無。
今回の事件の全ての真実を知っているのは、オレとレイチェル先生だけだ。
「まぁ、オレは先生のサポートをしただけだから」
「それでもハリト君は凄いよ! 特に決勝戦は凄かったよね! あの三人を相手に、一歩も退かなかったし!」
「そうですわ、ハリト様。私たちのために二本の剣を構えるハリト様……ああ……神ががっていましたわ」
オレの決勝戦での戦いは、二人ともばっちり覚えている。
だが、あの場にいた観客たちは、微妙だったはず。
何しろオレの剣闘技の発動が速すぎて、ほとんど見えていなかったのだ。
おそらく観客には、こう見えていたはず。
――――『神聖チームの二人は同時に斬りかかり、いきなり倒れた。直後、最後の一人もいきなり倒れた。直後に司祭長が魔族に変貌して、大混乱になった』と。
そのお陰で、オレの決勝戦での戦いも、ほとんど記憶に残っていない雰囲気だ。
「選抜戦といえば……あの結果は、どうなるのかな?」
「そうですわよね……一応はハリト団が優勝したはずですが、魔族の出現で……」
選抜戦の結果は、未だに保留中。
何しろアザライド戦の直後、学園内は色々と大変だった。
強大な力を持つ上級魔族が、市街地に侵入していたのだ。
しかも魔王の直属の七魔将の降臨。
予想では、七魔将の復活は、もっと先の月になる見込みだった。
とにかく今までの魔族の動きとは違う事件。
ウラヌスの経営陣と教師陣、ウラヌス領主たちで連日に渡って、今も会議が開かれている最中。
内容は今後の魔族に対する対応について。
他の学園への魔族に対する情報の共有など。
上の方は、今でもバタバタしているのだ。
「まぁ、オレたちには関係ないから、また授業と稽古に励んでいくしかないよ」
ウラヌス学園の授業は、事件の翌々日から再開していた。
活動自粛は逆にない。
何しろ魔族に対抗できるのは、基本的に勇者候補だけ。
一日でも早く、生徒を一人前の勇者に育て上げる必要が、学園にはあるのだ。
「たしかにハリト君の言う通りだね。私たちも早く一人前になって、次こそは魔族を倒せるようにならないとね!」
「そうですわね、サラ……私も負けておりませんわ。早速、寮の裏庭で稽古をしましょう?」
「うん、いいよ。今日は負けないぞ、エルザちゃん!」
二人は仲間であり、好敵手でもある。
良い意味で、互いに競い合っていた。
「ハリト君も今日、大丈夫だよね?」
「ああ、オレも今日は大丈夫だよ……あれ?」
その時であった。
大事な約束を思い出す。
「あっ! そうだ。レイチェル先生に呼ばれていたんだ!」
用事とは『今日の放課後、先生の学園の部屋まで来るように』という約束。
サラたちに会ったことで、すっかり忘れていたのだ。
「先生の呼び出し? それはマズイよ、ハリト君!」
「そうですわ!」
「だよね……じゃ、ちょっと行ってくるから、二人は先に自主練を始めていて!」
サラたちと別れて、急いで学園に戻る。
時間的にはダッシュで向かえば、何とか間に合うはずだ
(それにしても先生の呼び出し何だろう? まぁ、たぶん魔族絡みだと思うけど……)
今回の七魔将の降臨の真実を知っているのは、オレと先生の二人だけ。
こうして魔族の話をするため、レイチェル先生の部屋に向かうのであった。
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