第31話学内選抜戦
愛娘サラの後を追い、こっそり勇者学園に潜入。
色々あって娘サラとエルザ姫を、パーティーを組む。
それでも娘との距離も、正体がバレないように適切にしている。
今のところ学園生活は順調に進んでいた。
月曜日から金曜日までの平日は、朝から夕方まで学園の授業。
放課後は自分の研究や、サラとエルザの自主練に付き合い。
授業が無い土曜日は、レイチェル先生とのガチの個人レッスン。
日曜日はハリト団として、サラとエルザと魔の森での実戦稽古。
そんな感じで一週間は、充実した日々を過ごしていた。
◇
今日は月曜日
「さて、今週も頑張るとするか……」
朝一、寮から校舎に向かう。
まだ朝も早いので、他の生徒の姿は少ない。
「あっ、ハリト君! おはよう!」
「ハリト様、おはようですわ!」
後ろから元気な声で呼び止められる。
二人の少女……。銀髪の少女サラと、金髪の少女エルザだ。
「二人とも、おはよう」
「今日も早いね、ハリト君!」
「そうかな? 早起きは嫌いじゃないからね」
オレは基本的に遅寝で、早起き。
朝日が昇る前に、毎日目が覚めてしまうのだ。
――――まぁ、精神がオヤジだから、無駄に早起きしてしまうのかもしれない。悲しいことに。
「さすがハリト様。規則正しい生活ですわ! 私たちも見習わなくてはわ」
「そう言うなら、エルザちゃん、もうちょっと早起きしてよ。いつも朝食時間に寝坊してくるじゃん?」
「ちょ、ちょっと、サラ! それはハリト様の前では言わない約束でしょう!」
三人で雑談しながら、校舎に向かう。
「あっ、そうだったね……エヘヘヘ……ごめん。という訳、エルザちゃんがお寝坊さんなことは忘れてちょうだい!」
「ちょっと、サラ!」
「あっはっはっは……今のは聞かなかったことにするから、大丈夫だよ、エルザ」
年頃の女の子は恥ずかしことが多い。
仲間として聞かなかったこと、見なかったことも大事なのだ。
「そ、そうですか、ありがとうございます、ハリト様。それでも、私も前に比べたら、少しだけ早起きは出来るようになったのです……」
エルザは顔を赤くして説明してくる。
どうやら幼い時から朝が苦手らしい。
完璧そうに見えて、実は抜けているところがある。
「そんなに悩まなくても大丈夫だよ。何しろ睡眠は身体を成長させるために、大事な要素だからね」
「えっ……睡眠で、成長が?」
「そう。特に成長期は質の良い睡眠が必須。十分に睡眠時間を確保しないと、身体が適切に成長していかないんだ」
これはオレの研究の成果。
幼い子どもには睡眠はかなり重要。
サラが幼い時に、必死で調べた子育て理論なのだ。
「なるほど……質の良い睡眠は、成長に大事……」
エルザは言葉の意味を噛みしめている。
強くなるために身体の成長は必須。
更なる高みを目指すために、エルザも意識を変えているのだ。
「でも、エルザちゃんは結構“大きい”から……ね」
サラは自分の胸に手を当てながら、何やら呟いている。
そう言われてみれば、胸はエルザの方が大きい。
小柄なサラは可愛い大きさだ。
「ちょ、ちょっと、サラ! ハリト様に聞こえてしまいますわ!」
「大丈夫だよ。ハリト君、先に行っちゃったから!」
年頃の女の子の話は、聞いていて気まずい。
オレは距離をとり、さっさと教室に向かっていたのだ。
「お待ちください、ハリト様! 急ぎますわよ、サラ」
「そうだね!」
二人も雑談を止めて、追いかけてくる。
何とも朝から元気の良いこと。
教室に着いた時は、また三人で並んでいた。
「今日も、三人で並んで座ろうよ」
「ですわね。ハリト団の団結のためにですわ!」
「……」
オレに有無を言わせず、三人に並んで座ることになる。
長椅子にサンドイッチ状態で席に着く。
もちろん真ん中はオレの定位置となっていた。
(やれやれ……仕方がないな……)
オレは孤独を愛する孤高の大賢者。
だが今は二人に頼まれた断れない立場。
学園では目立たないように、上手くやっていくしかない。
◇
帰りのホームルームで転機が訪れる。
いつものように全員に向かって話をしていたレイチェル先生が、思い出したように報告してきた。
「そういえば来月の頭に、“学内選抜戦”を行うぞ。詳しい内容は、この掲示物で各自に確認しておけ」
先生は教室の横に、大きな掲示物張り出す。
内容は“学内選抜戦”について。
「よし、今日の授業は、ここまで。また明日に会おう!」
「「「先生、ありがとうございました!」」」
終礼の挨拶をして、先生は教室を去っていく。
今日の授業は終わり。
生徒は寮の自室に戻る流れだ。
「ついに“学内選抜戦”があるのか……」
「いよいよか……」
だが教室内がザワついていた。
誰一人として教室を去っていないのだ。
ク
ラスメイトたちは掲示物に群がり、真剣な表情になっている。
「ん? “学内選抜戦”?」
オレは首を傾げる。
何しろ初めて聞く内容の単語。
一体に何を行う行事なのだろうか?
「えっ、ハリト様、“学内選抜戦”をご存知ないのですか⁉」
「もしかしてハリト君! 前回の掲示を見ていなかったの⁉」
両隣のエルザとサラに諭される。
前の掲示板……そういえば、そんな物があったような気がする。
基本的にオレは学園では緩く過ごしていたから、見逃していのだ。
「前の……とりあえず、もう一回見てくるよ」
少し時間が経ったので、掲示物の人混みも緩和されていた。
内容を確認していく。
「ふむふむ……クラス代表を決めて、その後はウラヌス学園の代表を決める……選抜チーム? これって、つまり何のこと?」
読み込んでみたが、表現が曖昧で、いまいちよく分からない。
文章が全体的に遠まわしなのだ。
「ハリト様、学内選抜戦は勇者学園の中でも、一、二を争う重要な行事でございますわ」
「そうだよ、ハリト君! ウラヌス学園の選抜チームに選ばれたら、“真の勇者”に近づく大チャンスなんだよ!」
「あっ……そうなんだ、知らなくて、ごめん」
エルザとサラはかなり興奮していた。
というか興奮し過ぎて、少し怖い。
だが興奮しているのは、二人だけはなかった。
教室に残る他のクラスメイトも同様。
「この学内選抜戦を勝ち抜いて、ウラヌス代表になれたら……」
「ああ、“真の勇者”になれる確率が一気にアップだな……」
「そんなことをしても、絶対に勝ちぬかないとな……」
皆はかなり興奮している。
鼻息が荒い者もおり、学内選抜戦の重要さが伺える。
(それほど、一大イベントなのか……とりあえず、もう一回ちゃんと、読み込んでみるか……)
仕方がないので学内選抜戦の概要を読んでいく。
それによると大まかに次のようか感じである。
――――◇――――◇――――
《ウラヌス学園学内選抜戦》
・候補生で三人一組によるチームを作る。
・戦闘は学園内の特設ドーム内で行う。
・トーナメント方式の勝ち抜き戦を行っていく。
・三対三で個人戦を行う。より多く勝ち星がある方が勝ち抜け。
(一勝一敗一分け、などで同点の時は、延長試合で決定する)
・優勝チームには褒美の武器を与える。
・優勝チームは王都で行わる学園対抗戦の出場権利を与える。
・なお優勝できなくても、“真の勇者”への道が閉ざされる訳ではない。その後は授業も続いていく。
――――◇――――◇――――
だいたいこんな感じの内容だった。
(ふーん。つまり三人一組でチームを作って、学園内の最強チームを決める……のか?)
大まかに説明するなら、こんな感じだろう。
早い話が、腕自慢大会みたいな感じだ。
(優勝の特典は、褒美の武器か……)
個人的には、あまり魅力を感じない賞品。
何しろオレは研究対象として、様々な武器を所有している。
貴重なミスリル製の武器や、アダマンタイト製の防具など、自宅の宝物庫に山積み。
だからクラスメイトのように、商品目当てで目を輝かせられない。
(それに“王都で行われる学園対抗戦の出場権”……これって、何だ?)
これまた初めて聞く単語である。
何と何が対抗して戦うのであろうか?
「ハリト様、“学園対抗戦”は、王国内にある四つ学園で行う対抗戦ですわ」
首を傾げているオレに、エルザがそっと耳打ちしてくれる。
王女である彼女は、王国内の行事について詳しいのだ。
「へー、そうか。ありがとね、エルザ」
なるほど、王国内には他にも全部で、四個も学園があるのか。
ウラヌス学園以外はどんな所なんだろうな。
「あっ、そうか。王都学園は、エルザが……」
「はい、そうでございます。私は王都学園の元生徒でした……」
他校の話になって、エルザは急に眉をひそめる。
昨日の話を……王都学園時代の事件を思い出しているのであろう。
「あの者は必ず王都代表として、学園対抗戦に出てきます。だから私も負ける訳いないのです。今回の学内選抜戦は……」
エルザはいつになく真剣な表情だった。
王都のライバルに負けたのが、よほど悔しかったのであろう。
下唇をぐっと噛みしめている。
あまりの力に血が染み出している。
「エルザちゃん、大丈夫……ハンカチ、よかったら……」
「ありがとう、サラ。ごめんなさい、みっともないところを見せて……」
「うんうん。そんなことないよ! エルザちゃんは本気だからこそ、そこまで真剣なんだよ!」
サラは純粋で優しい性格。
思いつめているエルザに共感していた。
「私も一生懸命に頑張るから、エルザちゃんと一緒に!」
「うん……ありがとう、サラ……」
二人の少女はやや涙目になりながら、ギュッと抱き合う。
同じパーティーとして、勝ち進むことを誓い合っている。
(学内選抜戦か……このルールだと、少しばかり面倒だな……)
そんな中、オレは掲示物を読みこみながら、あることに気が付く。
(『三対三の個人戦によるポイント制で……トーナメント方式か……』
気になったのは学内選抜戦のルールについて。
ウラヌス学園の生徒の力量を数値化。
頭の中で当日の戦いをイメージ計算していく。
(普通に考えたら、先鋒のエルザで一勝目。大将のオレで二勝目。サラは負けても、何とかなりそうだが……)
現時点で学内の候補生の中で、エルザの総合力は一人だけ飛びぬけている。
不安な要素といえば実戦経験が、まだ少ないこと。
あと性格的にたまにポカをやらかすポンコツな部分。
だがよほどの大失敗さえなければ、エルザによる一勝は固い。
(オレは……まぁ、何とかなるはず……)
剣士としてのオレの腕は、今のところ高い。
魔剣技を使わなくても、普通の候補生が相手なら勝ち星を狙える。
オレの場合難しいのは“手加減すること”かな?
何しろあまりに飛ばし過ぎると、正体がバレてしまう危険性がある。
よし対抗戦では魔剣技と無詠唱の魔法は事前に封印。
素の身体能力と剣技だけで挑むことにしよう。
なんか縛りがある方が楽しみもあるし。
(あとはサラか……)
問題は戦力としてのサラだった。
たしかに三人での特訓を始めてから、サラの戦闘力は急成長している。
だが、あくまでの“最初のサラ”に比べての成長。
総合的な戦闘力では、サラはクラス内でも中堅どころ。
とくに純粋なサラは、絡み手に弱い。
卑怯な手を使ってくる相手には、特に劣勢に陥る可能性が高い。
(まぁ、オレとエルザで二勝したら、サラは不戦勝でも、チームは勝ちぬけるからな……)
選抜戦ともなれば、参加者はヒートアップしてしまうのであろう。
大事な娘に怪我でもされたら敵わない。
選抜戦は安全で楽しくいきたい。
「あのう……ハリト様、大丈夫ですか?」
「へっ? あっ、うん。話は聞いていたよ!」
考え事していたから、変な声が出てしまった。
急いで意識を現実に戻す。
「学内選抜戦のことだよね? そうだね。三人で力を合わせて頑張っていこう!」
どうせ負けても候補生として退学になる訳ではない。
それなら安全で楽しく対抗戦に参戦だ。
でも、どうせ参加するのなら勝ち進みたい。
「とりあえずの目標は初戦突破でかんば……」
こうしてハリト団で参加することが決定。
三人で検討を誓い合う。
「あっ、どうせなら優勝を目指したいから、明日から特別訓練をしていこう? 二人とも大丈夫かな?」
今までは対魔物の実戦稽古が多かった。
だが学内選抜戦は対人戦だけ。
練習プログラムを少し変えて、対人戦を多くしてきたい。
「もちろん大丈夫ですわ、ハリト様! 厳しい鍛錬は臨むことろですわ!」
「私も大丈夫だよ! ドキドキするね!」
二人の了承は得られた。
これで明日からの訓練が選抜戦に向けて進めていける。
「よし、今日から頑張っていこう……とりあえず目指せ、学内優勝かな?」
「さすがハリト君! 目指せ優勝だね!」
「そうですわね、ハリト様。この私もご尽力いたします!」
こうしてオレたち三人は選抜戦に向けて鍛錬をスタート。
かなり厳しい内容だったが、サラとエルザは脱落することなく付いてきてくれた。
また他の候補生たちも選抜戦に向けて、各チームで特訓をしていた。
誰もが一つでも勝ち進めるように……そして優勝できるように精進していく。
◇
そして日が経ち、月が明ける。
ウラヌス学園内の最大の行事……学内選抜戦の当日の朝がやってくるのであった。
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