第26話救助
愛娘サラの後を追い、こっそり勇者学園に潜入。
クラスメイトの娘とも距離を置き、正体がバレないように上手くしていた。
だがサラの弱点を解決するために、二人で森に出かけることになってしまう。
その時、危険な魔物を探知するのであった。
「よし、急いで行くぞ、サラ!」
「うん、ハリト君!」
オレたちは候補生の襲われている場所へと向かう。
今は緊急事態中。
オレが先頭になり、獣道を駆けていく。
「いたぞ!」
しばらく進むと、木々の開けた場所が見えてきた。
そして巨大な魔物の姿も。
「ハリト君、あの大きいのは……」
「あれは……たしか“赤大蛇”の魔獣だ」
「あんな大きいのが、蛇……」
初見のサラが、言葉を失うもの無理はない。
“赤大蛇”は全長二十メートル以上ある巨大な魔獣。
胴回りは大木よりも太く、ちょっとした竜サイズだ。
「ハリト君、あっちを見て!」
「ああ」
そんな巨大な魔獣と、うちの学園の制服を着た生徒が戦っている。
候補生は女剣士……金髪の少女だった。
「ねぇ、ハリト君! あの子は……もしかして」
「ああ、転校してきた、あのお姫さんだ」
赤大蛇と戦っているのは、クラスメイトのエルザ・ワットソンだった。
巨大な魔獣を相手に、一人で奮闘している。
「あいつ、なんでこんな場所に? 従者もつけずに?」
【探知・全】で周囲を調べてみるが、他に人の反応はない。
つまりエルザ姫はたった一人で、この森に来たことになる。
普通はあり得ない状況。
何しろ生徒だけは、もの森への侵入は禁止されている。
魔の森の奥は危険地域。
いくら候補生といえども、一人で遊びに来る場所ではないのだ。
「どうしよう、ハリト君。エルザさんが、このままじゃ……」
サラが悲しそうな顔をするのも無理はない。
赤大蛇との戦い、エルザ姫は押されている。
彼女の攻撃は当たっているが、赤大蛇にダメージを与えられていないのだ。
「ああ、そうだな。このままだと、時間の問題だな」
エルザ姫は決して弱くない。
だが相手があまりにも巨大すぎるのだ。
更に赤大蛇は動きも素早く、退避経路も塞がれていた。
このままでは間違いなく、エルザ姫が死ぬ可能性が高い。
「ハリト君……どうすれば……」
「安心しろ、サラ。あのお姫さんを助けるぞ!」
面倒なことに顔を突っ込むのは、オレの趣味じゃない。
だが娘の悲しむ顔を、これ以上は見ていられない。
「うん! でも、あんな巨大な魔獣をどうやって」
「攻撃はオレに任せろ。サラはさっきと同じく、攻撃魔法で牽制をして。その後はサポートを!」
「うん、わかった! でも、ハリト君、無理しないでね」
「ああ、任せておけ!」
――――と言ったものの、さてどうしたものか。
オレが攻撃魔法を使えれば、あんな魔獣はワンパンで倒せる。
だが今のオレは大ぴらに魔法を使えない。
あまりに派手な攻撃魔法を使えば、サラにバレてしまう危険性があるのだ。
(よし、こうなった剣術で……接近戦で一気に仕留めやる!)
よし。作戦も決まった。
ここからは一気にいくぞ。
【身体能力・強化】を無詠唱で発動。
赤大蛇に向かって駆けていく。
「援護射撃、いくよ、ハリト君…………【氷結弾】!」
サラが氷系の攻撃魔法を詠唱して発動。
【氷粒弾】は先ほどと同じ氷系の攻撃魔法。
赤大蛇は火属性のために、相性も良い。
「えっ? また⁉ 危ないから気を付けて、ハリト君!」
後方からサラが叫ぶ。
何故なら発射されたのは、先ほどと同じ岩石サイズの氷弾だったのだ。
「問題ない!」
後方から迫ってきた巨大な氷弾を、ひょいっと回避。
ズ、ドドドーン!
直後、【氷結弾】が赤大蛇に命中する。
今回は一撃で仕留められていない。
だが突然の攻撃に、赤大蛇は混乱している。
ナイスの援護射撃だ、サラ。
よし、ここからオレの出番だ。
「いくぞ……剣闘技、【斬鉄切り】!」
片手剣の剣闘技を発動。
全体重をかけた斬撃を、赤大蛇の脳天にぶち込む。
『ギュルルルル⁉』
強烈な斬撃を喰らい、赤大蛇は吹き飛んでいく。
大きなダメージは与えられていないが、相手の体勢は崩れている。
よし、これで時間は稼げた。
「おい、大丈夫かお姫さん?」
「えっ……? あなた様は……“ローブの剣士様”⁉ どうして、こんな所に⁉」
オレの登場に、エルザ姫は言葉を失っている。
まるで夢でも見ているかのように、目を丸くしていた。
この反応も仕方がない。
何しろひと気のない魔の森で、突然クラスメイトが登場したのだから。
だが今は事情を、詳しく説明している暇はない。
『ギュルルルルゥ!』
何故なら赤大蛇が起き上がってきたのだ。
巨大な顔を向けて、こちらを威嚇してきたのだ。
先ほどの氷魔法と剣闘技のダメージは、それほど無い。
蛇だけに柔軟性があり、強固な鱗で防御力も高いのだ。
「とりあえず、あの蛇野郎を仕留める。まだ動けるか、お姫さん?」
「も、もちろん、大丈夫です、ローブの剣士様!」
「いい気合だ。それからオレのことは“ハリト”って呼んでくれ」
今は戦闘中、互いに気を使うのは無駄。
それに変な二つ名で呼ばれたままだと、恥ずかしいからな。
「分かりました、ハリト様。それなら私のことも“お姫さん”ではなく、“エルザ”とお呼びください」
「ああ、分かった。エルザ」
恥ずかしい二つ名は封印できた。
あとは厄介な赤大蛇を、とっとと退治するだけだ。
「エルザ、よく聞け。今から作戦を伝える。あそこにいるサラが、さっきと同じ氷魔法で、左から攻撃して牽制する。エルザは同時に右から牽制をしてくれ」
「先ほどの強力な氷魔法を、あの子が⁉ わ、分かりました。右からの牽制はお任せください!」
情報が多く、かなり混乱しているのであろう。
だがエルザは気持ちを落ちつかせ、剣を構える。
よし、悪くない気持ちの切り替えだ。
「でも、ハリト様。あの魔物の防御力は、普通ではありません。牽制の後は、どうすれば……」
「大丈夫だ、エルザ。最後はオレに任せておけ。よし、行くぞ。援護射撃を頼んだぞ、サラ!」
オレの合図で作戦開始。
まずはサラの攻撃魔法だ。
「いくよ、ハリト君! …………攻撃魔法、【氷結弾】!」
サラの魔法による遠距離攻撃が発射。
先ほどと同じ巨大な氷弾が、赤大蛇に炸裂する。
『ギュルルルルゥ⁉』
強烈な攻撃魔法を受けて、赤大蛇は叫び声をあげている。
だが今回は上手く、身体の外皮で防御している。
さすが上位魔獣。
学習をしているという訳だが、体制は崩れている。
「エルザ、いまだ」
「はい、ハリト様!…………剣闘技、【疾風突き】!」
エルザは剣闘技を発動。
凄まじいスピードの連撃で、攻撃をしかける。
『ギュルルルルゥ!』
崩れた態勢に直撃を受けて、赤大蛇は吠える。
だが強固な鱗に阻まれて、エルザもそれほどダメージを与えていない。
「エルザ、下がれ! オレと交代、【スイッチ】だ!」
【スイッチ】は剣闘技ではなく、連携技の一つ。
授業で習っている初級の技。
「はい、ハリト様!」
エタイミングを合わせて、エルザは後方に退避。
入れ替わるように、次はオレが前に進み出る。
(さて、なんの攻撃で仕留めるか……)
サラの目があるから、派手な攻撃魔法は使えない。
だが剣闘技だけでは、この巨体を倒すのに時間がかかる。
(それなら、やっぱり魔剣技でいくか。目立ちない系統でいくしかないな!)
【雷光斬(ライ・コウ・ザン)】や【豪炎斬(ゴウ・エン・ザン)】は強力だが、斬撃のエフェクトが派手すぎる。
だから今回は違う魔剣技でいく。
「さて、いくぞ! ふぅ…………」
オレは腰だめに剣を構え、意識を集中。
魔力を高めていく。
相手は強固な防御力と、柔軟性を合わせて魔獣。
手加減は不要。
最大の魔力値でいく。
――――◆――――
《術式展開》
魔力を剣に集中
“氷”の属性
“凝縮”の型
《術式完成》
――――◆――――
「さぁ、いくぞ……全てを凍てつけさせろ、【極氷斬(ゴク・ヒョウ・ザン)】!」
二人にバレないように、無詠唱で魔剣技を発動。
極限の冷気をまとった混沌剣で、思いっきり斬撃を繰り出す。
斬撃が赤大蛇に直撃した直後――――
ジュオーーーーン!
超低温の冷気が、赤大蛇の体内で爆発。
魔獣の体内の水分という水分が、一瞬で凍結。
直後、赤大蛇は粉々に砕け散る。
「ふう……やったか?」
念のために探知で、死骸を確認。
魔石の反応があるだけ、赤大蛇は消滅していた。
周囲にも他の魔物の気配もない。
これでひと安心だろう。
「えっ……今の……ハリト様の斬撃で? 今のは剣闘技? えっ?」
剣を構えたまま、エルザは固まっていた。
目の前で起こったことを、理解できずにいるのだ。
「えーと、今のはオレの……オレの家に代々伝わる、一子相伝(いっしそうでん)の剣闘技さ」
とりあえず誤魔化すことにする。
もちろん、そんな一子相伝な技はないのだが。
「ハリト様の家に伝わる?」
「そうそう。だから、あまり他言していでね」
「なるほどです。かしこまりました」
なんとかエルザは納得してくれた。
後でサラにも誤魔化しておこう。
一子相伝の剣技ということにしておけば、追及してこないだろう。
「それより、エルザ。なんで、こんな危ないところに一人でいたんだ?」
「ハリト様……はい、実は私……」
クラスでも今まで見せたことない、エルザの神妙な顔。
こうしてお姫さんの悩みを聞くことにしたのであった。
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