第25話連携
愛娘サラの後を追い、こっそり勇者学園に潜入。
クラスメイトの娘とも距離を置き、正体がバレないように上手くしていた。
だがサラの弱点を解決するために、二人で森に出かけることになってしまう。
◇
魔の森に潜入開始。
【探知・魔】で見つけた魔物を狩りに向かうのだ。
「よし、なるべく相手に気が付かれないように行こう。練習だから、サラが先行できそう?」
「うん、ハリト君。怖いけど、私、頑張るね!」
【探知・魔】によると、目標はこの先にいる反応……魔物。
覚悟を決めたサラを先頭にして、森の中を進んでいく。
オレはすぐ後を追いかけていく。
(今のところ周囲に、他に大きな危険はないな……)
サラを追いかけながら、【探知・全】で広範囲を索敵。
無詠唱で発動して、同時に隠遁魔法も重ねがけしているので、サラにバレる心配はない。
さて、このまま目的地まで安全に進むぞ。
(んっ? この反応は?)
しばらく進んでいくと、ある反応を発見。
かなり大きな魔物が、こちらの進路上に向かってきた。
このままでいけば、サラの進行方向にぶつかる可能性がある。
(うーん、この強さの魔物は、まだサラには早いな。ふう、仕方がない……攻撃魔法【即死】!)
低レベル魔物なら、一撃で即死させる魔法を発動する。
普通は近距離でしか使えないが、今回は多めに魔力を消費して遠距離で発射だ。
グニャ!
よし、上手くいった。
大型の魔物を即死させることに成功したぞ。
(おっ、このままじゃ死体が、見つかるな。よし、あと、もう一つ……【塵(ちり)化】!)
同じように【塵(ちり)化】の魔法を遠距離発動。
倒した魔物の死体を粉々にしておく。
これで証拠隠滅は完了だ。
「あれ? 今なんか前で、光ったような気がしない、ハリト君?」
あっ……やばい、サラに気づかれてしまう。
ここは上手く誤魔化さないと。
「えっ、気のせいじゃない?」
「そうかな……でも、ハリト君の言うなら、私の気のせいか」
「そうそう、気のせいだよ、サラ。森の中は“木の精”がいるっているからね」
「ふっふっふ……ハリト君、面白いね!」
「そ、そうかなー? よし、先に進もう!」
親父ギャグで、何とか誤魔化すことにも成功。
大型の魔物を排除してオレは、サラはさらに先に進んでいく。
「あっ、ハリト君……あれかな?」
サラが前方に動く物を発見。
移動する足を止める。
「そうだね、サラ。あれが魔物だよ。ここから、どう行動するから、授業を覚えている?」
今回の魔物狩りは訓練の一環。
要所で授業の復讐をしていく。
「うん、覚えているよ。あれは、たしか……『探知した魔物を発見したら、周囲を警戒しながら、障害物を利用して風下から近づく』……だったよね?」
「そう。正解だね、サラ」
勇者学園の授業では、戦闘以外にも色んなことを教えてくれる。
その中には隠密や戦術の授業もある。
真面目なサラは、ちゃんと習ったことを覚えていた。
「よし、実践してみよう」
「うん、わかった」
サラと気配を消しながら、魔物に近づいていく。
最初は豆粒程度の大きさで見えていた距離。
次第に魔物の種類まで、確認できる距離まで近づく。
「あの形状は……もしかして子鬼(ゴブリン)?」
「そうだね。正解だ」
森の浅い所にいたのは、緑色の醜い魔物、子鬼(ゴブリン)だった。
狩る前に、小声で状況を整理していく。
「図鑑で見るよりも、そんなに大きくないね」
「たしかに。でも、油断は大敵だよ、サラ。アイツ等は一匹では弱いけど、群れる習慣があるから」
「そうだったね。さすがはハリト君。あっ、あっちにも何匹かいるよ」
子鬼(ゴブリン)は全部で五匹いた。
小動物の狩りでもしている途中なのであろう。
全員が汚れた短剣や、貧相な弓矢で武装している。
「さて、ここからどうする、サラ?」
「えーと……相手が群れの場合は、たしか……『先制攻撃で相手の数を減らす。そして相手が混乱している内に、一気に仕留めていく』だったよね?」
「ああ。正解だ」
勇者学園の授業では、多勢への対応策も教えてくれる。
授業で習ったことを思い出しながら、サラは必死で状況を観察している。
「じゃあ、そろそろ攻撃を仕掛けるけど。サラ、大丈夫そう?」
最終的な攻撃の意志を、確認する。
何しろ相手は魔物とはいえ、人型の子鬼(ゴブリン)。
攻撃すれば、相手は血がしたたり落ち、断末魔の悲鳴を上げるのだ。
(サラ……無理はしなくてもいいんだぞ?)
サラは小さい時から、心が優しい性格だった。
今回も本人の意思を優先。
無理強いはしないつもりだ。
「心配ありがとう、ハリト君。正直なところ、私、怖いの……」
サラは小さな肩を震わせていた。
「けど……頑張る。だって私は勇者候補の一人……困っている人を助けるために、強くなりたいの」
だがその目には、強い意志が燃えていた。
それは確固たる覚悟。
弱きものを守るための、勇者としての意思の力だった。
「そっか……」
そんなサラの覚悟を見て、オレは思わず涙が溢れ出しそうになる。
(あんなに小さくて……か弱かったサラが……こんなに立派に成長した……うっ……)
立派に巣立とうとする娘の姿に、オレの涙腺は決壊寸前だった。
「あれ? ハリト君、どうしたの? なんか目がウルウルしているけど?」
「えっ? な、なんでもないよ」
ヤバイ、感涙しそうなのが、サラにばれしてしまう。
とりあえず、ふー、ふー深呼吸しながら、涙を引っ込めないと。
よし、これで何とかなった。
「よし、サラ。改めて、じゃあ、いくよ」
「うん、ハリト君。まずは私の魔法で先制攻撃をしかけるね」
「良案だ。その後は状況を見て、オレが斬り込む」
いよいよ戦闘開始。
サラは魔力を集中、攻撃魔法の詠唱を始める。
「いくよ、ハリト君……【氷結弾】!」
詠唱を終えて、サラは攻撃魔法を発動。
【氷結弾】は氷系の初級魔法で、拳大の氷の弾丸で攻撃する術。
威力はそれほど高くはないが、発動が早く奇襲に向いている。
命中したら子鬼(ゴブリン)程度なら、一匹は即死させることが出来るはずだ。
「えっ?」
だが【氷結弾】を発射した直後、当人サラが変な声を出す。
何故なら発射されたのは、拳大の氷の弾丸はなかった。
その大きさは普通の四倍以上……“岩石のような氷の弾丸”だったのだ。
「えー、なに、これ⁉ まって!」
だが一度発射された攻撃魔法は、キャンセルできない。
氷結弾は子鬼(ゴブリン)の群れに向かって直進していく。
ドッ、ゴォオオオオ!
着弾と同時に、冷気の衝撃波がはしる。
凄まじい爆音と冷気の波が、こちらまで伝わってきた。
「あっ…………」
あまりの破壊力に唖然(あぜん)とする、当人サラ。
しばらくして、氷の爆発と粉塵が収まる。
もちろん子鬼(ゴブリン)の群れは、跡形もなく消滅していた。
「ね、ねえ、ハリト君……い、今のは……?」
サラは唖然としながら、破壊の跡を見つめている。
何が起きたか、自分で何をしたか、まだ把握できていないのだ。
「えーと、サラ、今のは……」
おそらく【魔力線・解放】が原因だ。
オレがこっそり掛けた魔法で、サラの魔力伝導率が急激に向上。
そのため授業で放つ【氷結弾】よりも、何倍も威力が増してしまったのだ。
(いや、それにしても……あの威力向上さは……)
オレの予想以上の破壊力だった。
とにかく考察は後回し。
サラが安心するよう、質問に答えてやらないと。
もちろん娘は正直に説明する訳にはいかない。
「あっ、そうだ、サラ。ほら、レイチェル先生が授業で言っていたアレじゃない! 『魔法は集中すると、たまにクリティカル攻撃が発生する』ってやつじゃない?」
「えっ、クリティカル攻撃?」
「そうそう、勇者候補だけに与えられた、女神の加護の一つ……だったはず!」
もちろん、こんな女神の加護は存在しない。
咄嗟(とっさ)に作ったオレの方便。
レイチェル先生には、後から口裏を合わせてもらおう。
「えっ、そうな? そっか……それなら安心した。よかった……」
何とかサラが安心してくれた。
今後は発動する前に、威力を調整してもらおう。
(いや、それにしてもオレの【魔力線・解放】は危険すぎるな……)
大賢者であるオレの魔法の精度は、普通の魔法使いとはケタが違う。
おそらくサラとの相性もあって相乗効果が出てしまったのであろう。
今度からは使うのは控えておこう。
「ねぇ、ハリト君。魔物を倒しちゃったけど。これからどうしよう……?」
「そうだね。まずは子鬼(ゴブリン)の死体の後に、“魔石”があるはずだから、回収しておこう」
“魔石”は魔物や魔獣の体内にある器官。
死後は結晶化して、小さな石となって跡に残る。
街の魔法専門店にいけば、魔物の強さによって換金できるのだ。
「そうだったね。でも、この状況で見つかるかな?」
サラが心配するのも無理はない。
子鬼(ゴブリン)は跡形もなく吹き飛んでいた。
小さな魔石を探すのは困難そうだ。
「こんな時も【探知・魔】を使えば大丈夫だよ、サラ」
「あっ、そうか! 探してみるね……あっ、あったよ、ハリト君!」
【探知・魔】で地面の下から魔石を発見。
周囲を警戒しながら、二人で回収していく。
よし、全部で五個あった。
これ子鬼(ゴブリン)討伐は完了だ。
「これから次はどうしよう、ハリト君?」
「そうだね。まだ時間も有るから、次の魔物を探してみようか。まだいけるサラ?」
「うん、私は大丈夫! じゃぁ、また探知で魔物を探すね」
サラは【探知・魔】を詠唱して発動。
近くにいる次の魔物を索敵している。
(サラとの特訓か……楽しいけど、ここのままだとボロが出そうな……)
何しろ二人きりだと、オレも会話に余裕がない。
出来たら誰から……もう一人くらい一緒に欲しい。
「あっ、いたよ!」
索敵に成功して、サラは声を上げる。
実戦を経験して、先ほどよりも余裕がある雰囲気だ。
「あれ? でも、この反応は何だろう? 二つ違う感じの反応が?」
だがサラは眉をひそめる。
何やら魔物とは違う反応が、もう一つあるらしいのだ。
「ん? なにかいた? じゃあ、オレも調べてみるね」
オレも長々と詠唱して【探知・魔】を発動。
――――するフリとして、無詠唱で強力な【探知・全】を発動させる。
これなら魔物以外でも、探知と判別が可能だ。
(おっ、いた。これか……)
一つ目は魔物の反応。
けっこう強い魔物の大きさ。
(あと、こっち反応は……あれ、これは?)
魔物の近くにいる、もう一つは違った。
それは人を現す反応。
そして、人の中でも特殊な反応だった。
(これは勇者候補の反応だな……)
サラが戸惑っていた理由判明。
なぜかオレたち以外に、魔の森の中に“候補生”の反応があったのだ。
(それに、この相手の魔物の大きさ……これはマズイな……)
【探知・全】によると対峙している魔物は、かなり強力な部類。
このレベルが相手だと、今のクラスメイトの強さなら、誰も太刀打ちできない。
最悪の場合、死んでしまうであろう。
「ハリト君……どうしよう……」
サラは悲しみの表情を浮べていた。
おそらく直感で感じているのであろう。
この反応はクラスメイトの誰か。
そして相手の魔物は強大な強さ。
つまり、その結果は……
(クラスメイトの死か……)
優しいサラはきっと悲しむであろう。
近くにいながら無力な自分に、悔しがりながら。
「よし……行くぞ、サラ」
「えっ、ハリト君……」
「大丈夫だ、オレに任せて」
「うん、ハリト君!」
大事な娘を悲しませる訳にいかない。
こうしてオレたちは魔の森に迷い込んだ、勇者候補を助けて向かうのであった。
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