大好きな幼馴染に嫌われた陰キャな俺は隠して生きるのをやめようと思った
うさこ
秘密はいつかばれる
俺、
少し運動すると息が上がる。風邪なんてしょっちゅう引いちゃうし、学校も休みがちだ。
子供の頃からおじいちゃんと一緒に続けている『健康法』で少しは風邪を引かなくなったけど、周りの人に比べてマッチみたいに細い身体だ。
おじいちゃんの教えを守って、俺は人にやさしく、思いやりを持って接している。
家族はおじいちゃんしかいないけど、俺はおじいちゃんが大好きだ。
引っ込み思案で人見知りをする俺だけど、大切な友達がいる。
「おーい、トシ君〜。早く学校行こうよ!」
「愛梨ちゃん、ま、まってよ〜」
「ねえ昨日の教えてくれたアニメ見たよ。超面白かった!」
「ね、言ったでしょ? あれは名作なんだからさ」
「てかトシ君もあの主人公みたいに明るくなれば友達できるのにね〜」
「う、うるさいな。俺だって友達いるよ。早川とか……」
「はいはい、まあ私が隣にいるからいいじゃん」
「う、うん……」
幼馴染の
愛梨ちゃんは俺の家の隣に住んでいる。子供の頃、俺が公園で近所の悪ガキにいじめられていたら『ちょっとあんたたち何してんのよ!!』と言って助けてくれたのが初めての出会いだ。
それ以来、俺たちはいつも一緒に過ごしていた。
愛梨ちゃんはいつも俺に笑いかけてくれる。
おじいちゃんはあんまり愛梨ちゃんの事を気に入ってないけど、俺は……愛梨ちゃんが大好きだ。俺の初恋なんだ。
今日もいつもどおり愛梨ちゃんと高校へと登校する。
学校に近づくにつれて愛梨ちゃんは友達から話しかけられる。俺に話しかけてくる生徒は誰もいない。
「あっ、ヒカリ、おはよ!」
「おはよー、愛梨! 今日も澤田君と一緒だね。マジであんたたち付き合ってないの?」
「ちょっと、変な事言わないでよ。トシ君は大事な幼馴染で友達だよ」
「あ、あははっ、はぁ……、あんたマジで鈍い女ね……」
「え? ヒカリどうしたの?」
「ううん、何でもない、じゃあ先行くね! また教室で――」
俺は愛梨ちゃん以外の女の子とは目も合わせられない。緊張してどもってしまう。
というよりも何を喋っていいかわからない。
俺の好きなものはアニメや漫画、レトロゲームだ。
愛梨ちゃんがいない教室では俺はいつも一人ぼっちで過ごす。
俺は自分がなんて言われているか知っている。
愛梨ちゃんの金魚のふん。キモい陰キャ。
小学校高学年くらいの時からだろうか? 俺と愛梨ちゃんが違うと感じたのは。
中学にあがると愛梨ちゃんはもっと可愛くなり、はっきりとその違和感の正体がわかった。
愛梨ちゃんはみんなから愛され、友達も多くて優しくて明るくて、俗に言うリア充と呼ばれる存在。俺と愛梨ちゃんは住んでいる世界、見ている世界が違っていたんだ。
それに気がついた俺は愛梨ちゃんと距離を置こうとした。
だけど愛梨ちゃんは――
『ちょっと、トシ君! なんで最近冷たいのよ! 理由は知ってるけど周りの目なんて気にしないでよ……。トシ君は私の大事な幼馴染なんだから。ね、アイス食べながら一緒に帰ろ?』
どこまでも俺に優しかった……。
俺は愛梨ちゃんが幸せならそれで良かった。俺は地味に生きなければ行けない理由もある。
愛梨ちゃんが好きでも思いを伝えちゃいけないんだ。
だって……俺の父さんは……。
「それでね、聞いてるトシ君? 平塚先輩がすっごく面白んだよ」
「……うん、なんども聞いたよ」
「昨日なんて私の好きなブランドの香水くれたんだよ!」
「うん、そっか、良かったね」
「えへへ、今週末にデートするんだ」
「そ、そうなんだ」
「……ふふ、トシ君妬いてるの?」
「ち、違うよそんなのじゃないよ」
「ふーん、妬いてくれたら嬉しいのに……もう」
そんな事を言われるとドキッとしてしまう。勘違いしそうになる……。
だけど愛梨ちゃんが俺を好きになるはずがない。
好きな人が他の誰かを好きになっても応援するしかないんだ。
愛梨ちゃんはモテる。中学に入ってそれがはっきりとわかった。
だから、俺は愛梨ちゃんが恋をする度に――
『ねえ、トシ君、私ね……、隣のクラスの隼人君が好きかも……』
『トシ君!! 健太君と付き合う事になったんだ!!』
『ねえ、聞いてトシ君、あいつひどいんだ。二股かけていたんだよ』
『あわわ、どうしよ!? 橘君が告白してきたよ!』
『えへへ、こんな風に相談のってくれるのってトシ君しかいないもんね。ありがとね』
俺の心が痛くてたまらなかった。
そんな俺の姿を愛梨ちゃんが嬉しそうに見ているのを知っている。愛梨ちゃんはきっと俺が好きなことを知っているんだ。
愛梨ちゃんと校舎で別れて一人で教室の自分の席へと向かう。俺に喋りかけてくる生徒は誰もいない。
だけど、この日は少し違った。
一人で本を読んでいると教室がざわついているのに気がついた。
何事かと思って顔を上げると、俺の目の前に男子生徒が立っていた。
「君が澤田俊樹君か? ねえ、少し話いいかな?」
上級生である平塚先輩……。最近愛梨ちゃんと仲が良い男子生徒だ。
「は、はい、え、えっと……」
俺は思わず席を立とうとしたが、平塚先輩は手でそれを制した。
その姿が妙に様になっている。教室の女子生徒が黄色い声で騒いでいる。
平塚先輩はイケメンだ。ただのイケメンじゃない。有名総合格闘技選手だ。俺とは生きる次元が違う。この学校、この地域で有名人だ。
「いいよ、面倒だからここで話す。あのさ、君って愛梨の何? 悪いけどさ、愛梨は俺といい感じなんだ。あいついつも君の話ばかりしてさ……、少しどんな人か知りたくてね」
「え、あ、は、はい……、ご、ごめんなさい……」
大きなため息が聞こえてきた。
「はぁ……、なんだって愛梨はこんなやつと友達なんだ。いやさ、幼馴染って聞いてるけどさ」
平塚先輩はその時すごく嫌な笑みを浮かべていた。
俺はそれが何を意味するかわからなかった。だって彼はとてもいい人だっていう噂を――
「――犯罪者の息子が愛梨に近づくな。愛梨に迷惑がかかるだろ」
頭が真っ白になった。気がついたら平塚先輩の言葉が教室へ伝播していくのがわかった。
身体が震えて動かない。どうして? どうして? 頭で自問自答を繰り返す。
隠していたはずだ。誰も知らなかったはずだ。
「え、犯罪者の息子?」
「なになに、あいつなんかしたの?」
「てか、本当だったらやばくね?」
「あっ、そういえば澤田って両親いないんだよね……」
「ていうか、マジで犯罪してそうな暗い顔してるし……」
俺はとっさに口を開いた。
「ち、ちがう!! と、父さんは、正当防衛でっ!!」
それがいけなかった。クラスのざわめきが一層ひどくなってしまった。
「マジもんだ……」
「せ、正当防衛? 何やらかしたんだ? やばくね?」
「おい、関わんねえほうがいいぞ。何されるかわからねえよ」
俺は何がなんだかわからなくて平塚先輩を睨みつけた。
「な、なんでそんな事を言うんですか! あ、あなたは――」
「ちょっと、待ってくれ。君は愛梨にその事を言っていないのか? 犯罪者の息子って。……十年も隠していたのか? はぁ……、少しは愛梨の事を考えてくれよ。……もう二度と俺の愛梨には近づかないでくれ」
平塚先輩は背を向けて立ち去ろうとした。
父さんが犯罪者という言葉を否定してほしかった。
「待ってください!! えっ……」
俺が平塚先輩の肩を触れる前に、平塚先輩は倒れるように転んでしまった。
教室から悲鳴があがる。
平塚先輩は痛そうなフリをして膝を抱えている。口元が笑っているようにも見えた。
「……トシ、君? なにしてるの?」
教室に入り口には、愛梨ちゃんが立っていた――
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