第35話 十過 3



奚謂行僻?昔者楚靈王為申之會,宋太子後至,執而囚之;狎徐君,拘齊慶封。中射士諫曰:「合諸侯不可無禮,此存亡之機也。昔者桀為有戎之會,而有緡叛之;紂為黎丘之蒐,而戎、狄叛之,由無禮也。君其圖之。」君不聽,遂行其意。居未期年,靈王南遊,群臣從而劫之。靈王餓而死乾溪之上。故曰:行僻自用,無禮諸侯,則亡身之至也。


「好き勝手な振る舞い」とはどういうことなのか? 楚の霊王が会合を開いたとき、会合に参集した諸侯よりの使者の小さな過失を咎めて散々になじり、辱めたのだという。「夏の桀や殷の紂は諸侯よりの使者に礼を尽くさなかったため滅びました、どうか彼らの取り扱いを思い直しください」と諫めてくる者がいたけれど聞き入れない。やがて霊王が南方に巡幸に出たとき、臣下の謀反によって霊王は脅迫され、最終的には餓死するに至ったという。

 う、うーん……? 諸侯にどうにかされたってんならまだしも、臣下にぶん殴られてんなら諸侯への態度ってあんま関係なくない? いやまぁ一事が万事って言葉もあるし、諸侯らが臣下に働きかけた、って線もあるのかもしれませんし、それにものすごく雑に言えば「舐められたら殺す」が当時の世界観だったとも思うので、あってないだろうとはいえんと思うのだけど、この実例からこの教訓を引っ張り出すのは無理筋なのでは……?



奚謂好音?昔者衛靈公將之晉,至濮水之上,稅車而放馬,設舍以宿。夜分,而聞鼓新聲者而說之。使人問左右,盡報弗聞。乃召師涓而告之曰:「有鼓新聲者,使人問左右,盡報弗聞。其狀似鬼神,子為我聽而寫之。」師涓曰:「諾。」因靜坐撫琴而寫之。師涓明日報曰:「臣得之矣,而未習也,請復一宿習之。」靈公曰:「諾。」因復留宿。明日已習之,遂去之晉。晉平公觴之於施夷之臺。酒酣,靈公起。公曰:「有新聲,願請以示。」平公曰:「善。」乃召師涓,令坐師曠之旁,援琴鼓之。未終,師曠撫止之,曰:「此亡國之聲,不可遂也。」平公曰:「此奚道出?」師曠曰:「此師延之所作,與紂為靡靡之樂也。及武王伐紂,師延東走,至於濮水而自投。故聞此聲者,必於濮水之上。先聞此聲者,其國必削,不可遂。」平公曰:「寡人所好者,音也,子其使遂之。」師涓鼓究之。平公問師曠曰:「此所謂何聲也?」師曠曰:「此所謂清商也。」公曰:「清商固最悲乎?」師曠曰:「不如清徵。」公曰:「清徵可得而聞乎?」師曠曰:「不可。古之聽清徵者,皆有德義之君也。今吾君德薄,不足以聽。」平公曰:「寡人之所好者,音也,願試聽之。」師曠不得已,援琴而鼓。一奏之,有玄鶴二八道南方來,集於郎門之垝。再奏之,而列。三奏之,延頸而鳴,舒翼而舞。音中宮商之聲,聲聞于天。平公大說,坐者皆喜,平公提觴而起為師曠壽,反坐而問曰:「音莫悲於清徵乎?」師曠曰:「不如清角。」平公曰:「清角可得而聞乎?」師曠曰:「不可。昔者黃帝合鬼神於泰山之上,駕象車而六蛟龍,畢方並鎋,蚩尤居前,風伯進掃,雨師洒道,虎狼在前,鬼神在後,騰蛇伏地,鳳皇覆上,大合鬼神,作為清角。今吾君德薄,不足聽之。聽之,將恐有敗。」平公曰:「寡人老矣,所好者音也,願遂聽之。」師曠不得已而鼓之。一奏之,有玄雲從西北方起;再奏之,大風至,大雨隨之,裂帷幕,破俎豆,隳廊瓦。坐者散走,平公恐懼,伏于廊室之間。晉國大旱,赤地三年。平公之身遂癃病。故曰:不務聽治,而好五音不已,則窮身之事也。


 音楽を好むとはどういうものなのだろうか? 衛の靈公が晋に向かおうとしたときに音楽が聞こえたという。とてももの悲しい音楽であり、識者によれば紂王のために奏でられた音楽なのだとか。晋の平公との宴の場で流させようとしたところ、いけません、と奏者が語った。こいつを聞いたら不幸があるぞ、と。しかし、かまへんかまへん、聞いてみたいんじゃい! と、平公に押し切られて奏でられた。

 聞き終わった平公、いやー悲しい音楽だった、これほどのものにはそう出会えるまいと言ったところ、いやもっと悲しい曲があるんですよ、清商とか、清徵って言うんですが。ただこっちの曲はマジでダメです、聴くと不幸が訪れます。しかし、かまへんかまへん、聞いてみたいんじゃい! と、平公に押し切られて奏でられた。

 のちに晋では大ひでりが起き、平公自身も重病に苛まれたのだそうな。



 ……いやぁ、ちょっと待ってなにこの十過って章、なんで俺荘子読まされてんの? エピソード的には確かに面白いんですが、なんか説くべき内容とエピソードの乖離が甚だしくない? 音曲に溺れて政務を疎かにする、的エピソードで良くない? この辺、もしかしたら韓非の段階では十の過ちのお題目しか残されてなかったのかもしれませんね。それで、後世の人間がエピソードをこじつけた。そうすると題目そのものとエピソードは分けて考えた方がよさそう。

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