第30話 八姦 2

五曰民萌。何謂民萌?曰:為人臣者散公財以說民人,行小惠以取百姓,使朝廷市井皆勸譽己,以塞其主而成其所欲,此之謂「民萌」。

「民萌」。民におもねること。えっ何が悪いの!? と思ったら臣下が民に私的な財貨をばらまいて人気取りをし、君主から衆望を奪う、とのことだった。あー、なるほど。姜斉の時代の田乞、田常。世代的に姜氏から主権をぶんどって最終的に簒奪いたしましたわね。



六曰流行。何謂流行?曰:人主者,固壅其言談,希於聽論議,易移以辯說。為人臣者求諸侯之辯士,養國中之能說者,使之以語其私。為巧文之言,流行之辭,示之以利勢,懼之以患害,施屬虛辭以壞其主,此之謂「流行」。

「流行」。君主と臣下との間で私的な会話はあまりしてはならない、ならばいわゆる遊説の士を雇い、抱え込み、臣下にとって有利な演説をさせ、そちらの方向に進ませる。うっわ、これ見抜くのかなりキツいやつ。アルタシャーストラが密偵を臣下のほうに飛ばせって言ってるのも納得。



七曰威強。何謂威強?曰:君人者,以群臣百姓為威強者也。群臣百姓之所善,則君善之;非群臣百姓之所善,則君不善之。為人臣者,聚帶劍之客,養必死之士,以彰其威,明為己者必利,不為己者必死,以恐其群臣百姓而行其私,此之謂「威強」。

「威強」。これはシンプル。臣下が私的に武力を蓄えて、自分の意見をごり押ししようとする。そうすれば当然主権は脅かされる。そりゃそうだとしか言いようがない感じ。



八曰四方。何謂四方?曰:君人者,國小則事大國,兵弱則畏強兵,大國之所索,小國必聽;強兵之所加,弱兵必服。為人臣者重賦斂,盡府庫,虛其國以事大國,而用其威求誘其君;甚者舉兵以聚邊境而制斂於內,薄者數內大使以震其君,使之恐懼,此之謂「四方」。

そして最後、「四方」。外国に尻尾を振って主権を削ぎにかかってくるやり方。うわーぉ外患誘致罪☆ 外国の軍を引き込むようなやり方もあるし、わざと国の倉庫を空にさせて外国からの援助物資=外国からの発言力を招き入れる、と言った形も取るらしい。えげつねぇ。



凡此八者,人臣之所以道成姦,世主所以壅劫,失其所有也,不可不察焉。

 こういった状況が起これば、君主の元には情報が届かなくなり、国を失うに至る、と。だからこの辺りについて真剣に考えねばならない。



 この辺り、発動条件は様々に違うけれども、なんにせよ「臣下がどれだけ君主のために働くつもりがあるか」を見抜いておかなきゃいけないよなーと思った。それってどうやって見抜くんだろう。実際のところここまで語られた「賞と罰とを適正に運用する」ではどうにもこうにもフォローしきれない印象もあるし。相手のどこに自己実現があるか、と言うのがないと。

 けれどはじめから利害が相反している相手の場合、そもそも自己実現の先からしてカムフラージュしてくるような気もする。そういう相手と向かい合ったときに、どう主権を損ねずに済むのか。

 後代ではどんな感じで言われているのかとアルタシャーストラを見に行ってみたら、「倫理、利益、快楽、恐怖などの面で臣下に偽りの扇動者を派遣し、そのリアクションを伺え」と言っていた。やり口がえげつない。笑っちゃうくらいえげつない。

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