第33話 徳充符 4

魯哀公問於仲尼曰:「衞有惡人焉,曰哀駘它。丈夫與之處者,思而不能去也。婦人見之,請於父母曰『與人為妻寧為夫子妾』者,十數而未止也。未嘗有聞其唱者也,常和人而已矣。無君入之位以濟乎人之死,無聚祿以望人之腹。又以惡駭天下,和而不唱,知不出乎四域,且而雌雄合乎前。是必有異乎人者也。寡人召而觀之,果以惡駭天下。與寡人處,不至以月數,而寡人有意乎其為人也;不至乎期年,而寡人信之。國無宰,寡人傳國焉。悶然而後應,氾<而>若[而]辭。寡人醜乎,卒授之國。無幾何也,去寡人而行,寡人卹焉若有亡也,若無與樂是國也。是何人者也?」


 魯の哀公が孔子に語ったのだそうな。

 衛国の哀駘它はぶ男だし、特に何ができるわけでもない。けど不思議とみんなに慕われる。その話を聞いて自分も興味を引かれて招聘してみたらなるほど不細工だし、取り柄がない。けど、不思議とその人柄に惹かれてしまった。

 そんなわけだから宰相に任じようとしたところ、哀駘它は受け入れるでも断るでもなくひょうひょうとし、そもそもその問題に関心がない、と言った振る舞い。そしていつの間にか自分のもとを去ってしまい、あとにはこの私の胸にぽっかりと穴を開けたのみ。

 全くよくわからん男だ、これはどんな類の人なんだ?



仲尼曰:「丘也嘗使於楚矣,適見㹠子食於其死母者,少焉眴若皆棄之而走。不見己焉爾,不得類焉爾。所愛其母者,非愛其形也,愛使其形者也。戰而死者,其人之葬也不以翣資;刖者之屨,無為愛之;皆無其本矣。為天子之諸御,不爪翦,不穿耳;取妻者止於外,不得復使。形全猶足以為爾,而況全德之人乎!今哀駘它未言而信,無功而親,使人授己國,唯恐其不受也,是必才全而德不形者也。」


 孔子は答える。

 母豚の死骸にすがりついてた子豚がある時を境に死骸のもとから逃げ出したそうな。それは死骸が子豚を愛してくれないと気付いたから。戦死者は戦功の証を飾り立てない。足切りの刑に遭ったものは靴に執着しない。ともに「もはや要らないもの」だから。いずれにせよ自分にとって必要でないものは必要がない。

 天子の側女に選ばれた者は髪を切ったり耳輪のための穴を開けないのだそうな。また結婚した新妻は外に出させないようにする。それはその女性の身体を損なわせないため。入れ物に過ぎない姿形を損なわせるまいとこれだけ躍起になるのだが、本当に大変なのは自らの持ち合わせている徳を全うさせること。

 いま、話に聞いた哀駘它は意見もまともに述べないのに信頼されるわ、功績もないのに重用されるわ、果てには国政を任されながらも、そんなものに一向に関心を示さないとのことだが、彼こそは天性そのままに生きる、現れる事なき徳の持ち主である、と言えるだろう。



 うーんこのわかるけどわからんっぷり。いや、老子に書いてあることを咀嚼していくと、道に合一した人って確かにそういう方向に落ち着くんですよ。ただ、そのありように人が心惹かれるかって聞かれたら、惹かれないと思うんだよなぁ。むしろ引く。道に合一した人って別に他者からの評価なんてどうでもいいはずだし、それなら「他者から不思議と愛される」のってあえて語ることでもないんではないかなぁ。

 

 

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