人間っぽい機械と機械っぽい少女

山埜 摩耶

人間っぽい機械と機械っぽい少女

 

 Aは壊れていた。見た目は壊れていない、けど中身が壊れてる。

 Aは同じ機械との通信が出来なかった。だから誰にも直してくれない。

 Aの役目はゴミを集める。集めて、まとめて、整理する。一人だけの役目。

 Aは同じ機械を眺めていた。眺めただけで役目をこなした。


 Aは赤子を保護した。しかしAは育てられない。

 Aはヒトを健康維持にする役目、壊れた通信機能しか使えない。

 Aは演算した。そしたら赤子が泣いた。Aはエラーを起こした。

 Aは赤子を抱いた。熱を発した。

 赤子は泣き止んだ、そして眠った。小さな手がAを握る。


 Aは赤子を育てた。少女まで育つことが出来た。奇跡だ。

 Aは考えた。ヒトと同じに育てれないと。一人になると。

 Aは乏しい思考で予測した。演算した、繰り返した。何回、何十回、百、千…………。

 Aは動き出した。止まっていたが動き出した。

 Aは壊す。設定されたプログラムを壊して動かす。

 Aは少女を連れて装置を鳴らした。そしたらヒトがやって来る。それが演算した結果の最適解。

 Aの役目はここまで。

 Aは少女を見つめ、静かに動き、窓を開け、外を眺め、少し間を置いた。

 Aは小さな暗号で別れを告げた。


 ◇


 赤子は捨てられた。誰もいない、ただ見ているだけ。

 赤子は冷たくなる。冷たく、冷たく、ただ眺める。

 赤子は拾われた。泣いた、泣いた、ただ泣いた。

 赤子は温かくなる。落ち着く、眠る、手を握る。


 赤子は少女になった。少女はAと触れ合う。

 少女はAと話した。遊びたいと、甘えたいと。

 少女はAと眠った。温かい、温かい、心地がいい。

 少女は起きた。Aを起こす、でも動かない。

 少女は起こす。ひたすら起こす、なんで、なんで。

 少女はAを連れていく。遊ぶため、触れるため。

 少女は喜んだ。Aが動いた、でも心配だ。


 少女はAに連れてかれる。温かい、でも不安だ。

 少女は音に驚いた。でもAがいる、安心だ。

 少女はAと別れた。なぜ、なぜ、冷たい。

 少女は聞こえた。小さな暗号、理解した。



 Aはゴミを集める。集めて、まとめて、整理する。役目をこなす。

 Aは夜空を眺める。眺めて、眺めて、手が止まる。役目が違う。


 少女はヒトと話した。通じない、理解できない。冷たい。

 少女は夜空を眺める。眺めて、眺めて、理解する。寂しいと。


 ◇


 少女はAと出会った。喜ぶ、嬉しい、幸せだ。

 Aは少女と出会った。謝った、悲しんだ、幸せだ。

 Aは少女の手を繋いだ。

 少女はAの手を繋いだ。

 二人は話した。大きな声で、泣きながら。

 壊れた通信、二人だけの言葉。

 手は放したくない。

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