潜降72m 欲しいもの、報告とお土産と
哲夫さんの試験日は日常の中に埋もれ、あっという間に過ぎていった。
試験を終えた哲夫さんはここの2階にしばらく来なかった。
(当たり前だよね。試験終わったばかりなのに勉強に熱いれる理由ないもん)
「おい、桃! 桃! 」
「えっ? 何? 」
「何じゃないよ。こちらのお客様が自動車保険の見積もりを作ってほしいって」
「あっ、はい。わかりました」
「では、現在、どちらかで自動車保険はお掛けには—— 」
****
「太郎丸、お待たせ~、じゃ、散歩に行こうか♪ 」
ウォン... カフ..
(5月も下旬か.. 日が長くなってきたな。GWも終わっちゃったし.. ていうか、試験が上手く出来たのかくらい報告ないのかな?報告・連絡・相談ができていないぞ、哲夫くん.... ふぅ)
太郎丸のリードを手に取ると1通のメールが届いた。
♪~
『峰岸さんからの伝言です。「今度は沖縄の青に溶けに行きましょう! 」
もちろん、私も一緒に行きます。それと例の星宮さんも『私もいきたい♪』って参加決定です。桃さんも行きましょうよ。土日利用+1日の2泊3日の超特急な感じの旅行ですけど、どうですか? 日程は6月12、13、14日で予定してます。予算は、私に『クーポンという秘密のアイテム』がありますのでダイビング料金・宿泊費あわせて約6万円で済むと思います。朗報を待ってます。 萌恵』
『行きたい! 会社に休みを頼んでみます! 行く方向で! 桃』
―送信―
・・・・・・
・・
「ふふふ。ついに、沖縄にいくぞぉ。太郎丸、お土産買ってくるからね! ..その間、君はお父さんのところに行く? 七海のところがいいかな? 」
「桃さん」
「え? 哲夫さん?」
後ろを振り向くと哲夫さんが立っていた。
「そろそろ太郎丸の散歩の時間だと思いまして」
「 ..んっ、もう1週間! 1週間も経ってるのに! ..心配しましたっ!」
「すいません。試験後なんか力が抜けてしまって、その後3日ほど長野にひとり旅をして、今日帰ってきたんです」
「楽しんできましたか!? 」
「はい。おかげさまで」
「そうなんですかっ! 私も来月、沖縄に行って楽しんできちゃいます! もう帰って来ないかもしれませんよ! 」
「あの~.. 怒ってます?」
「別に怒ってないです!! ところで試験はどうでした? 」
「はい。今回は自信あるんです。すごく上手くいきました 」
「ほんとっ!! よかったあ。 じゃ、もう勉強から解放されそうですね! そうすると.. もうここに来ないでよさそうですね.... 」
「いえ、合格したとしてもその後にまだいろいろありまして、今の知識を維持、いやもっと端的に把握をしていかなきゃいけないんで、そういうわけにもいかないんです。だからもうしばらくお借りさせてもらいたいです」
「ほんとっ!? あ、大変ですね。じゃ、私からもお父さんに伝えておきますね」
「すいません。 じゃ、僕は帰ります。何日も無断で旅行に行っていて、両親も怒ってますので」
「ほーんと、あたりまえ!」
「じゃあ、また」
「また.. 」
背中を向けた哲夫さんが勢いよく振り返った。
「あ、あの、桃さんのお守りのおかげです。ありがとう! 」
・・
・・・・・・
「 ..なによ.. 何日も帰って来なかったくせに.. ねぇ、太郎丸 ..だいたいお土産くらい買ってきなさいよね。よしっ、今日は太郎丸にスペシャルディナー買ってあげるね♪」
カフ...カフ..
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