潜降58m 桜の息吹

プッププー。

「桃!いくよー!」

「Let’s head out」


****


「ねぇ、この音楽覚えてる?」


七海がUSBを差し込んだ。

ッドドッ パッ ドドパッ ドッ パッ ドドパパッ!

ジャンー ジャーン ジャーン ジャーン ジャーン 

ジャジャーン♪


ドラムバスドラとスネアの跳ねるようなリズムからいい気にラウドなギターが体を揺さぶる!


「———want to fight ,she said! Shake me———she said Shake me———Shake me —All night long!!」※シンデレラ:Shake Me


「懐かしい。何か簡単にできそうなノリの良い曲を探してやった曲だよね。古い曲だけどイケイケノリノリでさ。もっちんが探してきたんだよね」


「でも、これってけっこうヤバめな歌詞だから学校でよくやったと思うよ」


「あはは。『大丈夫だよ。みんな歌詞の意味わからないから! 』ってあの時もそんなこと言ってたよね。でもそれが痛快だったじゃん。蘭子も悪ノリして色っぽく肩を出したら先生カンカンになってさ」


「あはははは。そう、そう。風紀が乱れるってヒシギーがすごく怒ってさぁ」


今日、私は、七海、シューちゃんと一緒に車でお出かけだ。


どこに行ったかというとお花見に出かけたのです。


****


前に聞いた事があった、お母さんとお父さんのデートした場所だ。


日本最古にして日本初の天然記念物「山高神代桜やまたかじんだいざくら

場所は山梨県の北杜市。


運転はいつもの通り、名ドライバー新井七海が担当。


「なんか日本最古の桜だって話だよ。樹齢が200年とかなんだって」

「200年ってすごいね」

「200年だっけ? なんか2000年前とかとんでもない年数が書いてあった気がするけど? 」


「あはは。嘘だよ。それ間違ってるんだよ。それかシューが見間違えたとか。だいたい木ってそんなに生きる?」


「な、七海! 大変だ! ほんとに書いてある! 石器時代だよ。それって!!? 」


「嘘!? ホント? 」

「うん、うん。ほんと! 」


幡ヶ谷から中央高速に乗って須玉ICで降りる。

今日は天気が良くて南アルプスがすごく綺麗に見える。


高速を降りて県道走ってナビのとおり『神代桜』と書いてある道に入っていった。


「なんか道が狭くなったね。ほんとにここでいいの?」

「ナビに書いてあるからいいんじゃない? 」

「でも、なんか何もないよ? 」


ナビではもうとっくに『神代桜』を通り過ぎているが、それらしき桜は見当たらなかった。


「どこなんだろう。このナビ、桜の場所と道があってなくない?」


私たちは、いよいよナビの機械を疑い始めた。


「でも桜は近くのはずだから、少し戻ろうよ」


そんな時、一台の車がすれ違っていった。


「ねぇ、ねぇ、七海、あれ練馬ナンバーだ! 」

「それがどうしたの? 私が住んでるところだって練馬だっての」


「違うって! そうじゃなくて、山梨にいる練馬ナンバーってことは? 」


「「観光客!!」」



「おお、なるほど! もっちんもシューも賢いね。..ヨシ、なら後をつけてみるか! 」



「七海、Uターン気を付けてね..」

「..あ、はい」


作戦は功を奏して、無事に神代桜がある実相寺にたどり着いた。

しかし、駐車場は凄く込んでいてしばらく並んで待つこととなった。


・・・・・・

・・


駐車場から降りて寺の境内に入る


「ねぇ、あれじゃない?」

好厲害ハオリーハイ!」


「近くに行って見ようよ」


想像していた桜とは違っていた。

大木に空を覆うような桜だとばかり思っていた。


木はその途方もない歴史の中、大木の上半分が朽ち果てていた。

しかし、残る枝には、しっかりと桜の花が咲いているのだ。

2000年もの間、毎年、毎年、桜を咲かせている。

私たちはその2000回のうちの1回を目の当たりにしている。

お父さんもお母さんもそうなんだ。


そう思うと、この大樹に生命の力を感じた。


「ねぇ、写真撮ろうよ」


そういった瞬間、木の枝から風が吹き抜けてきた。

花弁が一瞬、私の視界を隠し、そしてまた桜の木が視界に戻る。


「うわ、木の周りの景色もヤバくない?」

「うん。すごく綺麗。チューリップも可愛いね」


「あっ!! シューには、ここで一句詠んでもらおうか」

「え? 何で俳句なの? 」


「シューちゃん、これは旅するものの課題なのだよ」


シューちゃんは少し考えて、八重歯をみせた。


『花びらも、光もかすむ、三個漂亮的人サングォピャオリャンデァジィェン!  ツァイ シューファ』 


「なに? なに? 最後何て言ったの? 」

「さーてね? 」

「何かずるーい!! 」


****


きっと、あの吹き抜けてきた風も昔の人が感じた風と同じなんだろう。

車のガラスに乗る花びらが風に舞った時、そんな思いがした。

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