潜降53m 心はおまえとともに。
カウ! カウ!
「たろー丸! 元気かーっ! キャー! フワフワ。うちにおいでー! 」
「太郎丸はうちの子だよ。絶対にダメだよ、ねー 」
七海と太郎丸は2回目の再会。
私が太郎丸の来た日に画像を送ると、翌日にすっ飛んでやってきた。
もうすっかり太郎丸の虜。
太郎丸もいつものうれしい時に出す乾いたような独特の声をだしている。
それが[ カウ! カウ! ]だ。
・・・・・・
・・
「まだかな? シューファ」
「もう2年くらい会ってないよね」
「シューが台湾に行って以来だからね。」
私たちは高校を卒業してもLIVEは少なかったけどバンド活動はしていた。
でも、Voのシューファの親の離婚問題が発覚し、バンド活動は自然と消えていった。
その後、シューファは日本人の母親、台湾人の父親のどちらについていくか迷っていたのだ。
はっきりいうと父親よりも母親の方に経済力があった。
しかしシューファは『某ジュエリー会社のCEOである母親はひとりでも生きていける』と判断して父親と台湾で暮らすことを選んだ。
そのシューファが「I'm Japanese」と言った経緯はまだ誰も聞いていなかった。
コンコンと小気味よくドアがノックされた。
「桃?」
甘くわずかにかすれた声は、間違いなくシューファの声だ。
「おかえりーシューちゃん!! 」
「おかえりシュー! 」
「へへへ。ただいま」
・・・・・・
・・
「蘭子はメジャーデビューしたらしいじゃない。やったね! 」
「うん、だから今日、本当は来たかったって電話で言ってたよ」
「クリスマスには3人で集まったんだよ。『哲夫の部屋』で」
「『哲夫の部屋』?」
「そう。『徹子の部屋』じゃなくて、哲夫さんが使っている部屋『哲夫の部屋』が隣にあるんだよ」
「ははは。何、それ」
八重歯がわずかに見えるシューちゃんのいたずら娘っぽい笑顔は今も健在だ。
・・
・・・・・・
「あと1年も無いのは知ってた。お父さんもそれを知っていたよ。私も正直、悩むところはあった。だってそれで私の国籍が決まるんだから」
「でも二重国籍になるとどうなっちゃうのかな? 」
「うん。それ調べたよ。特に罰則はないらしいのだけど、違法には間違いないみたい」
「じゃ、そのままでもいいんじゃないの? 」
「私は、そのままでいようかと思っていた。でもお父さんが『おまえは、日本国籍になりなさい。この先、何か問題が起きてはいけない。日本国籍を選択して日本人として生きなさい。国籍が違くとも、私はおまえの父親だ。そしておまえが日本で離れて暮らしていても、いつも心は、おまえとともにあるから大丈夫だよ。お父さんの事は安心していいから、お母さんの所に行きなさい』て.. 言ったの.... 」
その言葉に私たちは、もらい泣きをしてしまった。
「たぶん、お父さんはこの先の台湾の在り方に不安を抱いていたんだと思う。だから私を日本に送り出してくれたんだと思うんだ」
「いつかみんなで台湾旅行いきたいね」
「うん。絶対に行こう」
「ありがと。....そうだ!! お土産! お土産! へへへ。何だと思う? 」
「それもう定番でしょ! せーの! 」
「「パイナップルケーキ!! 」」
シューファはパイナップルケーキと台湾茶のセットを持って来てくれた。
そして、その後、3人でもう一度、初詣に行った。
神様に『台湾で暮らすシューファのお父さんが健康でいられますように』とお願いした。
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