潜降14m 車輪の空気

「また抜けたの? 今月でもう3回くらい入れてない? それムシゴムが悪くなってるか、どこかに小さな穴あるんじゃない? 自転車屋で見てもらった方がいいよ」


「いつもすいません」

「別にいいけど、もうやり方わかるよね。自転車用のそれ付けて空気入れるんだよ」


自転車の空気を入れに来たのは坂の下の看板屋の哲夫さんだ。

この夏にもう3回くらい自転車の空気を入れに来ている。


++++++

++


「わかんないよ~。これってどういう意味かわかる? お父さん」


「俺がわかるわけないだろ。自動車保険以外は専門外だ! 」

「え~、一応火災も資格もってるよねぇ? 」


借家賠しゃっかばいを付けなきゃいけない理由ってなんだろう.. 」


今回、私はヨコザワ電機設備㈱の社長に質問をされたのだ。

質問はこうだ。

『うちの火災保険だけど『什器・設備』の火災保険のほか、借家人賠償保険ていうのが付いているんだけど、これってどういう理由で付いてるんだっけ? これって桃ちゃんが付けたよね? 』


「付けなきゃいけないって理由で付けたんだけど、詳しくはよくわからないよ 」

「おまえ、それ『理由』になってないぞ! ちゃんと勉強してきたのかぁ? 」


[ 哲夫くん、これ、ここに自転車のムシゴム1個あったよ。これ交換しておきなよ ]

[ あ、ありがとうございます ]


工場から、そんな会話が聞こえてきた。

哲夫さん!

確か、哲夫さんは司法試験をがんばっていて法律には詳しいはず!


—ガラッ


「哲夫さーん!! 丁度よかったー! 」

「あ、あ、あ、あ、桃さん」


「ねぇ、哲夫さん法律詳しいでしょ? これってわかる? 」


・・・・・・

・・


「なるほど、借家人賠償責任保険を付けなきゃいけない理由ですね? 」


「そうなの。もう5時過ぎちゃってるから、保険会社に電話つながらないんだ。ね、知ってたら教えて! 」


「たぶん、これは代位請求権とかに関係してると思います。例えばですね、A会社が火災を起こしてB会社の保険を—」


「なるほど~、さすが哲夫さん! すごくよくわかった。助かったよ 」

「いえ、それほどでも.. 」


「今度、お礼するね。また来てね! ありがとう 」

「ええ。じゃ、また来—」「お父さーん、わかったよーっ!」



****


8月、精一杯に鳴く蝉の声に混じって着信音が鳴った。


~♪~

(あ、宮野さんからだ)


「もしもし」


「もしもし宮野です。おねーちゃん? 」

「あ、優佳ちゃん。元気? 」


「うん。お姉ちゃんは元気? 」

「うん! 元気だよ!! 」


「よかったー! あのね、パパにかわるね」


「おお、かきさわ、おまえ土曜日空いてるか? 」

「はい。一応 」


「じゃ、ちょっとお出かけしないか? 優佳と涼子と一緒に」


涼子さんは、復縁した宮野さんの奥さん。

それと優佳ちゃん。

お出かけ??

いったいどこへ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る