手にしたスキルは「災厄」だった。

上本利猿

第1話 鑑定


ダンジョン。それは人類史に於いて、余りにも大きすぎる転換点だった。


今から23年前、世界中で巨大な建造物が突如出現した。

それは既存の建造物や社会インフラを無視して出現したため、


世界中が大混乱に陥った。ライフラインは損失し、たくさんの死者や負傷者、

建造物消失による失業者で溢れ返り、まさに世紀末を体現したような様相だった。



ノストラダムスの予言は正しかったのだ。



その忌々しい建造物は余りにも広大で、かつ複雑である。

一度迷えば二度と出られず、おまけに訳の分からない化け物まで現れる始末だ。


だが、人類は一筋縄で崩壊するものではない。

社会は復旧に次ぐ復旧を繰り返し、何とか10年後には元の生活に戻れるほどにまで回復した。


そして、人類はこの地球上に現れた「新たな未開の地」を探究するようになった。


変化したのは社会だけではない。それを構成する人間にもその変化は訪れていたのだ。


一言で言えば「超能力」。その力は千差万別であり、いつしかそれを「スキル」と呼ぶようになった。


スキルの一部は体系化され、それらは「魔法」とも呼ばれた。


未曾有の大災害であるダンジョン出現から、世界が10年で立ち直れたのは、

この「スキル」保有者の尽力も大きかったのだ。


復旧もひと段落した後、政府機関の探索により、ダンジョンにはこれまで地球上に存在しなかった未知の鉱物や、現代技術では再現不可能な遺物「オーパーツ」が存在することが明らかになり、ダンジョンのせいで失業した者はこぞって「探索家」へと鞍替した。


「……という訳だ。この辺りは大学入試とかでもよく出るから対策するように。」


チャイムの音が響き、生徒たちは一斉に席を立つ。


俺、箕島優斗ミシマユウトもその一人だ。


正直……ダンジョンもスキルも興味なんてなかった。

だが、ここ最近俺の頭はそれらで一杯なのだ。



「美濃部お前レベル30だって!? スッゲーよなぁ!」


美濃部大毅———。

クラスでよく目立ち、成績優秀かつサッカー部のエース。

可愛い彼女と共に素晴らしい「スキル」を手に入れたらしい。


「瑞希の方がすごいよ、レベルも高いし、珍しいスキルもあるし」

おまけに性格も良い。あとルックスも良い。

自らを謙遜し彼女を褒め称えるその謙虚さも見習いたい。


だが……。

「でもまあ、探索者になる気はないけどね。大学行くし」

そんな天から与えられたものをかなぐり捨て自ら学びの道へ進むのは、


俺としては少しモヤモヤした。


だって俺は——————。


最悪なスキルを持ってしまったのだから。


——————23時間と9分前。


俺たちは全国学生スキル鑑定に参加していた。

18歳になったら全員がスキルを鑑定しなければならないので、

校内専属のスキル鑑定士が責任を持って俺たちのスキルを鑑定する。


だが俺にはそんなもの興味などない。精々フツーのスキルぐらいあったら食いっぱぐれないだろう……。程度にしか考えていなかった。


俺の両親は、探索家だ。色々なダンジョンに潜っては、変な物品を売って生活をしている。


幼少期からそんなのばっかりなので、鍵っ子の俺はダンジョンに関心を持てなかったのだ。


白沢千歌シラサワチカさん、これが貴方のスキルです」


鑑定士によりスキル最適化剤を投与され、眼中に現れた「ステータスボード」を確認する。


これが日本でのスキル鑑定法だ。


ステータスボードは基本的には本人にしか見えない。

プライバシーを尊重した方法である。

だが……。


「やった! 私レベル49!」

「俺のスキル炎出せるやつだ!」

「お前のスキルどうだった?!」

「ウチレベル50!」

「俺魔力少ね〜」


大抵はみんなと共有する。高校生ってのはそんなものだ。

因みに校内でのスキルの使用は厳禁である。


「箕島優斗さん」


いよいよ俺の番だ。最適化剤を投与され、鋭い痛みを感じながら

期待せずに俺はステータスボードを見た。


箕島優斗

レベル5

HP:50 MP:235

AP:10 GP:10


スキル「災厄」

MPを1回消費するごとに92秒間発動することができる。


これは……何?

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