3/29(火)猫とあきらめ
全然懐かない子猫が、やっと心を開き始めた。
一度開くとこんなに開くかと思うくらいデレデレの甘えっこになり、私に四六時中ついて回り、首元でマフラーのように巻き付いて眠るようになった。
将来この子が5~6キロの大人猫になったとき、自分の首が心配である。
猫の身体を撫でると、いつも不思議な感覚になる。
湿っているような、でも濡れてなんかいなくて。生ぬるくて、ふわふわで、どこまでも指が沈んでいきそうなのにいかなくて、ゴロゴロと喉の奥から幸せの音がする。
触っているだけでこんなに心が浄化されていく物体がこの世にあっていいものなのだろうか。
パワーストーンをブレスレットにして身に着けるより、よっぽど効くじゃないか。
一匹、一匹がパワースポットになるってすごくない?
神が人類に与えたもうたチートアイテムなんじゃないだろうか。
国の機関はしっかり研究したほうがよくない……? と少し不安にさえなる。
身体といえば、前に飼っていた猫が亡くなって、亡骸になってしまった身体を触った時、全く知らない物質に変わってしまっていて驚いた。
13年間も毎日撫で続けた身体が、中身が旅立ってしまっただけでもう用済みと言わんばかりに私の知らない何かになっていた。
それは本当に私にとっては雷に打たれたような衝撃で、ちゃんとここにいるのに、もういないんだと一瞬で諦めた。
しっかり諦められたおかげで私はその子の死に関して一滴も涙を流さずに済んだし、生き物は死ぬという事実をどこか他人事でいることも諦めた。
悲しむようなことではない。食べたり出したり愛し合ったりするのと同じ類のものだからしょうがないと腑に落ちた。
諦めることを覚えたら、今、自分の手の届く範囲にあるものが冗談ではなく奇跡の塊ばかりなんだと知った。
来年、いや、明日にだって確実に自分の範囲にあるとは限らない。
そんなものばかりに囲まれて、私はやっと笑って暮らしている。
全然懐かない子猫が、やっと心を開いて身体を触らせてくれた時、ああこれだと思いだした。
この子が生きていて、私も生きているからこそ触れ合えるこの感触は、過去はもちろん未来にもない。
今がすべて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます