優しく蹴ったわ

 アルティメットガールに蹴り飛ばされ、道を転げていった魔族は滑りながら立ち上がり、急制動をかけたのちにアルティメットガールに飛びかかる。


「あら、耐えたの? あなた思ったよりも強いのね」


「舐めるな!」


 二発、三発と突き出される拳撃。上体を振って避ける彼女の腹に横蹴りが打ち込まれた。だが、その蹴りは彼女の前腕がガッシリと受け止めている。


「顔を合わせたらまずは挨拶するものよ」


 小さな子どもをしつけるような顔と声色でそんなふうにいさめると、魔族は額に血管を浮かべながら言い返した。


「先に跳び蹴りをかましてきたのは貴様だろうが!」


 激しく力をたぎらせ叫びを上げる魔族から距離を取ったアルティメットガールは、肩にかかった横髪を手の甲でそっと後ろに流しながら言葉を返した。


「後ろから蹴ったんだから顔を合わせてないでしょ」


 この魔族を相手に正面切って屁理屈を言う彼女をハラハラしながら見ている者たちを気にすることなく、ふたりは言い合う。


「手加減してやってたのをいいことに、調子に乗りやがって……」


「あれ? あなた前回『手加減もしない』なんてことも言ってたわよ」


「やかましい!」


 皆は、アルティメットガールに揚げ足を取られる魔族がなんだか滑稽に見えていた。


 アルティメットガールにおちょくられたと感じた魔族はさらに怒りを増し、町に施された結界や魔術陣の力を押し返すように気合を入れた。


 ギルド長以外はその力におののき動けなくなってしまうのだが、アルティメットガールはそよ風を受けるが如し。


「これを喰らっても余裕をかましていられるか? ソーラーエクリプス・クリメイション」


 持ち上げた両手のひらに黒い玉が生成される。魔族のまわりから少しずつ暗くなっていくのは、陽光をも吸っているからだ。心なしか吹く風は衰え、騒めきさえも消えていく。


「さぁ喰らうがいい」


 片角の魔族の作った魔法の規模に、それを見守る者たちはそれぞれの絶望を表現する。だが、その声すらも黒い玉へと吸い込まれていた。


「現役引退なんかするんじゃなかったぜ」


 ゴレッドは後悔を叫んだ。


「こんなときに戦えないなんて」


 エリオは命の懸ったこの事態に万全の態勢で挑めなかったことに悔やんだ。


「境界鏡を奪った罪を償え!」


 投げ放たれた黒い玉。たとえ避けてもこの一帯は消えてなくなると思える大魔法。


 ゴレッドの後悔とエリオの悔やみすらも飲み込み襲い掛かるその魔法を見て、アルティメットガールは悩んでいた。技の名前をどうするかに。


「リフレクションキーーーーークッ!」


 数瞬の思考で生み出したネーミングによるキックが、多くの命を刈り取るであろう黒き玉を蹴り返す。


 魔法を跳ね返された魔族は「そんな馬鹿な!」と叫んでいたのだが、その声と共に己自身も黒い光球へと吸い込まれ、空の彼方へ飛んでいく。


 薄暗がりとなったこの場はすぐに元の明るさを取り戻し、陽光に照らされた皆が眺める中で、黒い玉は光を解放し炎の柱となって燃え散った。


「ごめんね。でも優しく蹴ったわ。だってわたしは慈悲深いから」


 謝罪、言い訳、言い訳の理由を告げた彼女だったが、またしても魔族が彼方へ飛んでいったあとだった。


「大丈夫かしら? 優しく蹴ったけど魔法の威力は彼の力だからなぁ」


 アルティメットガールがあたりを見回して町の被害や死傷者を確認していると、その後ろから声がかけられた。


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