爆力！ アルティメットガール ～非日常の異世界で新たな人生を歩みだした少女は、これまで得られなかった幸せを掴むために生きていく～

第一部

ヒーローを廃業した少女

　宿敵との戦いを終え、異世界に飛ばされたスーパーヒーローの少女の新たな人生の物語です。

　彼女の幸せを願いながら読んでもらえると嬉しいです。

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　茂る木々の隙間から降り注ぐ陽光が黒縁の眼鏡に反射する。長めの前髪が目を覆い、頭の後ろで一本に結ばれた黒髪をゆらゆらさせて歩く女の子。

　彼女は女子高生の煌輝春歌（きらめき　はるか）。その正体はスーパーヒーローのアルティメットガール。世界の平和を望み、常人には手に負えないあらゆる脅威から人々を救う女の子だった（・・・）。

　そんなハルカがいる場所は、居住地となる町からかなり離れた山の中。そこから見える景色には近代的な人工物などひとつとしてない。

　深い森、美しい渓谷。平原ですら未開拓な広大な大地。そんな世界は危険な獣や亜人で溢れている。そういったモノも大自然の恵の一部として受け入れながら、人族はこの世界で繁栄していた。

　なぜハルカがこんなところにいるかと言えば、宿敵との最後の戦いで起こった爆発の影響だろう。彼女はそう思っている。

　そのハルカがこの世界に来て三ヶ月。アルティメットガールというヒーロー活動は廃業して冒険者として生計を立てていた。

　一見して彼女の服装はファンタジーの魔法職といった感じであり、事実そうであった。

　両手で抱えるように持つのは長さが一メートル程度の杖。地味な紺色の軽装アンダーシャツとレギンス。こげ茶色で膝丈ズボンと七分袖のシャツ。駆け出し冒険者としてはよくある服装なのだが、唯一違う点がある。それは、傷や汚れの絶えない冒険者という稼業上、あまり好まれない白のローブを羽織っているということ。

「ファンタジーな世界ってあるものね。だけど、ここがゲームの世界ってことだけは絶対にないのは確かね。このアルティメットチョーカーがあるんだもの」

　ハルカは首に巻かれたチョーカーを指でなぞった。

　それは、アルティメットガールに変身するためのアイテムだ。ナノバルテクトシステムという技術で作られたこのチョーカーが存在し、しっかりと機能しているということこそが、この世界が現実である証拠なのだ。

「転移で良かった。転生だったら赤ちゃんから始まっちゃって容姿も変わっちゃうだろうし。一年も歩けず移動もできないなんて嫌だから」

　ハルカは転移して間もなく深く考察をするのはやめて、この世界に溶け込み生きていくことを決めたのだった。

　そして現在、日差しの強い昼下がりに深い森の中をひとり歩いているのは、所属するギルドの依頼をこなすためだ。

「薬草の繁殖範囲が狭くなってるって言っていたけど、こっちの方に長く広がっていたのね。けっこう前にあった山の崩落で風の流れが変ったせいかな？」

　そのギルド依頼は薬草の繁殖範囲減少にともなう環境調査だ。これは駆け出しの白魔術士である彼女にとっても必要な知識である。

「この世界に来て三ヶ月か。あと二年もあった花の高校生活が…………。花の高校生活なんてなかったか。世界を飛び回っていたから出席なんてほとんどしてなかったし。友達……欲しかったなぁ」

　元の世界での生活を振り返り肩を落とした。

「もういいわ。この世界で冒険者ハルカとして生きていくの！　わたしはレアな白魔術士なんだから。守りと回復は任せてね！」

　そう明るく振る舞う彼女のまわりには誰もいない。

　かなりレアな白魔術の適性を持つハルカだったが、これまでに三つの冒険者パーティーを解雇されていた。

「三ヶ月も経つのに具体的な目的がないのが問題だなぁ。冒険者になって仲間を助けるっていう身近なところからとは思ったけど、その仲間すらいないんだもん。財宝を見つけて町の人の暮らしをよくするとか、聖女とかになって病める人々の心身を癒すとか、とんでもない魔王を……ってのはなしね。もう戦いはお終い。そんな魔王が現れたら世界の人が苦しむことになっちゃうわ。そう思うでしょ？」

「キューキュー」

　森の小動物に話しかけても返ってくる言葉はなかった。

「うまくいかないものね」

　薬草の繁殖範囲の調査がある程度済んだハルカは、遅めの昼食を食べようと足を止めた。近くの岩場を念入りに叩いて綺麗し、おろしたての白いローブを汚さないように大きめのハンカチを敷く。

「オーダーメイドで作ってもらったこの白いローブ。オレンジの縁取りが素敵よね。冒険者と言えどやっぱり女の子はオシャレポイントのひとつくらいはないといけないわ」

　そう言ってくるりと回って見せるのだが、とうぜんまわりには誰もいない。その現実に小さく息を吐いてから岩場に腰掛け、リュックから紙に包まれた大きめのパンを取り出してかぶりつく。

「やっぱりこのパンが一番お腹に溜まるわ。中の餡の甘さが絶妙よ」

　こういった他愛もない話題を話す相手がいないことが彼女を寂しくさせていた。

　これまでもひとりで戦っていたのだが、新たな人生は友達と一緒に騒いでみたかったハルカ。しかし、この三ヶ月でそれは達成されていない。

「顔見知りはいる。知り合いもいる。よく行くお店では顔なじみだし、世間話もするわ。でも……、そうじゃないの。それだけじゃないのよ。友達が欲しいの。仲間が欲しいの」

　だが、この世界の現実も厳しかった。

　冒険者ギルドとはあくまで同業者の組合であり、仕事を斡旋する組織だ。学校や職場とは違った人の集まりである。

　冒険者の平均収入は決して高くはなく、大所帯のパーティーでは生活に困ってしまう。そのため、軽々しくメンバーを増やすことはせず、ソロで活躍する実力者を臨時で雇うケースはよくあること。現状ハルカもソロで活動しているが、望んでそうなっているわけではない。

「やっぱり信頼し合える仲間のパーティーよね。それともうひとつ。願わくばだけど……」

　彼女には友達や仲間を作る以外に、もうひとつの目標がある。

「恋愛……。これは目標というよりも、わたしにとっては野望かな。そんなことよりもまずはこの世界で生きていくための目的を決めないと、目標すら立たないわ」

　そういったことを考えながらパンを食べていると、ハルカの感知能力に不穏な気配が引っかかった。

「なにかしら？　この感じ」

　急いで残りのパンを口に入れ、咀嚼（そしゃく）をすませて飲み込むと、不穏な気配のする方向に意識を向ける。

「戦っているのね。それにしても数が多いような」

　ハルカは杖を地面に突き刺して走りだした。

「リリース・アルティメッ……」

　そこまで言いかけた言葉と足をピタリと止め、ハルカは元の岩場に戻っていく。

「危ない、危ない」

　ハルカは杖とリュックを手に取ると、再び不穏な気配のする場所に向きなおる。

「つい昔のクセが出ちゃった。ヒーローはもう廃業よ。今は冒険者ハルカなんだから」

　とは言っても先の状況は心配であるため、現代女子高生の脚力を逸脱した速度で走り、森の中の道なき道を駆け抜けていった。

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