7 歪

 何もない。



 私には何もない。

 


 ただがむしゃらに頑張っただけ。



 与えられたその人の人生を必死に演じていただけ。



 その結果、私には何もなくなった。 



 周りは誰も受け入れてくれなかった。



 私じゃない私を誰も受け入れてくれなかった。



 すべてが異常だった。



 私には時間すら残されていなかった。



 一週間という短い時間を過ごせば、私は空っぽになる。



 そんなとき彼に出会った。



 彼は全てを受け入れてくれた。



 驚いただろう。怖かったかもしれない。



 それでも彼は私にそれを悟らせることなくただただ隣で一緒に過ごしてくれた。



 とんだわがままを言ってしまったと思う。



 それを受け入れてくれたことが嬉しかった。



 もうすぐ私は私ではなくなる。



 何もかもがなくなる前に私はもう少しわがままを言ってもいいんだろうか。



 彼に甘えてしまってもいいだろうか。



 私は、まだ私でありたい。何もない、なんでもない日が愛おしい。

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